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ショートショート 『ある濁り』

2023/3/22
午後の会議中。菜子から電話。自殺すると言う。俺の部屋、バスタブの中にいるとのこと。
会議中につき、一時間ほど待てと、切る。
3度目。相手にするのが億劫。そのまま忘れる。
間違い。
マンションに戻る。バスタブで菜子が気絶。救急車を呼ぶ。深夜近くまで、警察の聞き取り。
疲れた。

2023/3/23
休暇届けを出す。
菜子の意識が戻る。田舎から兄夫婦が来て、世話。
一緒に暮らすのをやめたのは、9ヶ月前。合鍵も勝手に作られたと警察に話す。菜子の自傷行為についても。

2023/3/24
バタバタで、バスタブの水を抜くのを忘れていたことに気づく。
菜子の血で、水が濁っている。
シャワーで済ます。

2023/3/30
バスタブの水は抜けないまま。俺も、少し変?
菜子は長兄が田舎に連れて帰る。むこうの病院で療養するとのこと。
大事にならずに安心。
バスタブの濁り、下に沈殿している。

2023/4/1
システム置き換え準備のため、深夜残業続く。
水を抜けない理由、不明。濁りの中に何かができている気がする。
暖かくなってきた。明日、水を抜く。

2023/4/5
トラブル発生の徹夜続き。昼、帰宅。
水の中、何か居る。
藻?髪?細い血管のようにも見える。
不明。

2023/4/6
代休。バスタブのそばから離れることができない。
生きている。時々、動く。輪郭ができている。

2023/4/7
出社できない。
血管が塊になっている。鼓動?生き物?誰かに相談すべきか?

2023/?/?
時間感覚が変。
バスタブの中で泳いでいる者。
髪、半透明、目、唇。こちらを見ている。
ここに来いと。菜子?

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