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貸し出し中?いえいえ、予約中です。(小説)

中学の卒業式の日。進学をきっかけに好きな人と離れることになり、私は告白をしようとした。けど待ち伏せた場所に彼は来なかった。公園でベンチに座って俯いていると、ランドセルを背負った男の子が目の前に立った。

「みーちゃん大丈夫?お兄ちゃんが何かした?」
「ゆうくん」

思わず私は苦笑する。

「かなとに会えなかった」
「うちに来ればいいじゃん」
「それじゃ意味がないっていうか」
「何それ」

ゆうくんはかなとの弟だ。そして私がかなとのことを好きだということをいち早く見抜いた。バレバレだよと笑っていたっけ。

「うちに来ないなら一緒に帰ろうよ」
「それってゆうくんの家に行くって意味だよね?」
「よくわかったね。ということで、はい」

そっと手を差し出したゆうくんを見てくすっと笑ってしまう。私を立ち上がらせるとそのまま手をつないで帰ることになった。なんだか小さな王子様みたいだ。






まだ午後も早い時間で、住宅街はほとんど人通りもない。開放感のある青い空も少しだけ浮かんだ雲も、私の心を軽くしていく。家の前まで辿りつくとスマホをいじっているかなとがいた。

「鍵忘れて入れなくてさ」
「わかった。けどその前にみーちゃんが話あるって」
「えっ?」
「あとはお若い二人で!」
「ちょっと、ゆうくん!?」

ゆうくんはささっと家に入ってしまった。途端に居心地の悪い沈黙が辺りを包む。先に切り出したのはかなとだった。

「話って何」
「えーと…かなとって卒業したら寮に入るんだよね?」
「そうだけど」

どこかぶっきらぼうながらも、時に優しい面を見せるかなとのことが私は幼いころからずっと好きだった。

「それでね、私…かなとのことが」
「うん」
「…心配で」
「そっか」
「ちゃんとご飯食べてね…」

しまったと思った時には後の祭り。かなとに「おかんかよ」と笑われて、私の決死の告白は大失敗に終わった。






数日後。

「なんでこうなるかな」
「ごめん」
「けどまあ、僕がいるから大丈夫でしょ」

思わず顔を上げると、ゆうくんはどこか得意げな表情だった。

「じゃあ今からみーちゃんの薬指は僕が借りる。お兄ちゃんが帰ってくるまでみーちゃんを守るよ」
「えっ?」
「だから、僕はこれからかりそめの彼氏」

かりそめなんて、よくそんな言葉を知っているなと思ってつい笑ってしまう。ゆうくんはそれからも「僕ももう中学生だし!」などいろんな条件を並び連ねていた。

きっとこれは小学生の思いついた彼氏彼女ごっこのうちのひとつなんだろうと思った私はそれを承諾することにした。











そしてそのまま私は5年後にゆうくんと付き合うことになり、結婚することになってしまった。

ゆうくんはかなとに私の薬指を返さなかったのだ。

結婚報告をしたときのかなとは何となく寂しそうに見えた。でもそれだけだ。結局動きださなければ何も変わらない。あの時薬指の約束を考え出したゆうくんってすごかったのではと思っている。今思えばあれこそが好きになったきっかけだった。


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