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虚像の旗手【意味がわかると怖い話】

「みんな、応援よろしくね!私たちの未来を守るために!」


スマートフォン越しの笑顔が、今日もタイムラインに流れていく。長い髪を風に揺らし、群衆の中で堂々と演説する若い女性の姿。その投稿には、瞬く間に数百、数千の「いいね」がつき、熱狂的なコメントが並ぶ。

彼女の名前は佳織、とあるベンチャー企業の社長で、若くして業界を引っ張る存在だ。普段から自己啓発や社会正義をテーマにした発言を繰り返し、ファンも多い。その活動の一環で政治家を支援する運動に加わったのはごく最近のこと。候補者の事務所から依頼を受け、ネット上での影響力を活かして応援する役割だという。

しかし、活動が加熱するにつれ、投稿の内容が次第に変わっていった。
「この候補者に投票しない人は未来を捨てている」
「無関心は罪だよ」
といった煽動的な言葉が目立つようになり、実際に投票を呼びかける動画も投稿された。それを見た一部のフォロワーたちからは疑問の声が上がるものの、彼女の熱意に圧倒され、反論をためらう者も多かった。

ある日、佳織は深夜までパソコンに向かっていた。事務所から渡された原稿に手を加え、自分らしい言葉を織り交ぜて投稿を準備する。画面の中でカーソルが忙しく動く中、ふと背中に冷たい気配を感じた。振り返ると、部屋は暗く静まり返っている。

「疲れてるのかな…」

独り言を呟き、作業に戻る。しかし、その夜を境に、彼女のタイムラインには不思議な変化が起きた。見覚えのないアカウントからの「いいね」やリツイートが増え始めたのだ。投稿の拡散力が異常に高まり、翌日には何万もの新しいフォロワーが加わっていた。

「すごい…私、影響力がこんなに広がったんだ!」

舞い上がった佳織は、さらに大胆な内容を投稿し始める。応援の呼びかけは日に数十回、どの投稿も瞬く間に拡散された。だが、彼女の目には届かない奇妙なリプライが混じり始めた。

「選ばれる人は、選ばれた者だけだ」
「影響力は、自らの運命を操れない」
「責任は、お前の手の中にある」

不可解な言葉に気づいた時、もう遅かった。翌朝、玄関に警察が立っていた。投稿内容が公職選挙法に抵触するとして、任意の取り調べが始まったのだ。

調べが進むうちに、佳織は異常な事実を知る。急増したフォロワーや拡散の多くは、偽アカウントによるものだった。しかも、それらは彼女自身が無意識に操作した形跡があるという。証拠となるログや端末解析の結果、どう説明しても自分が関与したとしか見えない状況が浮き彫りになる。

「私はそんなことしてない!全部捏造よ!」

叫び声も虚しく、彼女は拘留される。やがて裁判の場で、有罪判決が下る。社会的信用を失い、すべてを失った佳織が最後に残した言葉は、次の一言だった。

「ねえ、私の『いいね』を返してよ…」

その言葉を聞いた者は語る。彼女の背後に、誰も座るはずのない法廷の席で、彼女のタイムラインに現れた不気味なアカウントたちのアイコンが、ずらりと並んでいたと。







解説

この話の怖さは、佳織が無意識に行動していたように見える部分です。急増したフォロワーや投稿の拡散が、彼女自身の手で操作されていた可能性が示唆されています。SNSの「承認欲求」が現実と仮想の境界を侵食し、ついには彼女の人格や意思をも支配したのではないか、という暗示が背後に潜んでいます。「返してほしい」と叫ぶ彼女の言葉には、既に失われたもの—人間らしい理性や自由意思—への執着が込められているのです。

また、法廷で目撃された光景は、ネット上の匿名性が持つ冷たさや狂気を象徴しています。それは個人の努力や意思を超えて動く恐ろしい力であり、現代社会の歪みを反映しています。


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