ご不満ですか?
早朝。
トイレから戻った女性。
「うう~さむぃぃ~」
「ちょっと、布団引っ張るなよ!
足が出ちゃうだろ!」
「だって、廊下寒かったんだも~」
「久しぶりの大雪だからな。
まあ8cmで大雪って言ったら、
北国の人に怒られそうだけど」
「こっちでは大雪よ。
でも、雪かきするほどじゃないから、
よかったよね」
「それはありがたいよな。
こんな寒い日は、
ギリギリまで暖かい布団で寝ていたいよ」
ザッザザッザザザッザ
「あれ?」
「あの音って…
もしかして…」
「お隣さん…
雪かきしてない?」
「ウソだろ?
そんなに積もってなかったんだろ?」
「ええ…。
トイレから外覗いたけど、
ほんのちょっとだったよ。
ほったらかしてても、
日中で溶けちゃうぐらい」
「おい~まじかよ~。
雪かきかよ~」
「え?!
あなた行くの?」
「そりゃ行くだろ。
お隣さんがしてるのに、
自分だけしないわけにいかないだろ?」
「私は行かないよ。
だって…寒いから」
「それは別にいいよ。
僕が行けばいいだけだし」
「寝坊したって誤魔化したら?」
「そういうわけにいかないって。
もう気付いちゃったし、
知らんぷりはできないよ。
それにうちの前は私道で、
除雪車来ないから」
「他のご近所さんは?」
「………いない。
お隣さんだけ」
「じゃあ、私たちも」
「だから、
そういうわけにはいかないって。
近所付き合いってのもあるけど、
こういうのは助け合いだろ?」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「ああ…いってくるよ…
うう~さむっ!…あ~あ」
防寒着を来て外に出る男性。
「おはようございます」
「おはようございます」
(うわ~だいぶ片付いてるな~。
ちょっと話し込んじゃったから、
かなり出遅れた…)
「雪、降りましたね~」
「そうですね…」
(ん?
機嫌悪い?
もしかして…
遅れてきたこと怒ってる?)
「しかし…
昨日は大変だったみたいですね~。
あちこち交通機関が大混乱で~」
「そうでしたね…」
(何だ!
ヤバいぞ!
空気が、かなり重い!)
「しかし、何ですかね~。
あれって、
雪国みたいにできないんですかね~。
雪が降るたびに交通機関がマヒって…
何回も経験してるはずなんですけどね~」
「どうなんでしょうね…」
(ダメだ!
全く、同調する気配がない!
もっと…身近な話題にしないと!)
「それにしても…
ここは街中ってこともありますけど、
雪を捨てるところがなくて、
困りますよね~。
たまたま地主さんが、
そこの空き地に捨ててもいいよって、
言ってくれたから助かってますけど」
「そうでしたね…」
(何言ってもダメだ~!
しかもお隣さん…
言葉と裏腹に…
雪を片付けるスピード、
超早いんですけど!
え?!
逆ギレ?!)
「そ、そうだ…
なんか~日本…
サッカー負けましたね~」
「そうなんですか…」
(ダメだ~!
興味なかった~!
こうなったら仕方がない!
さっさと終わしてこの場から、
早急に離脱しよう!)
「うおりゃぁぁーーーーー!!」
15分後。
「ハアハアハアハア」
「………」
(どうよ!?
遅れた分は取り返したでしょ!?
………全然、こっち見てない。
淡々と雪かきしてるし…
呼吸も乱れてない。
お隣さんって…雪国出身?)
「な、なんとか、片付きましたね」
「そうですね…」
(なんだろ…ずっと表情が暗いけど。
結構、頑張ったんだけど…
まだ何か、気に入らないの?
………まあ、いまさらいいか)
「粗方片付いたし…
お開きにしましょうか?
僕もそろそろ、
会社に行く準備しないといけないので」
「そうですか…」
(え?!
まだするの?
もう、ほとんど雪ないよ?)
「まだ…されるんですか?」
「ああ…もう少しだけ…」
(後から来たから、
先にあがるの、気が引ける~!
嗚呼~もう~!!)
「す…すいません…
お先に…失礼します…ね」
「ああ…お疲れ様でした」
(もう最悪…何?!
遅れてきたのがそんなに悪いの?!
もう雪なんか降るからこんなことに!!)
服に付いた雪を乱暴に払うと、
男性は家の中へ。
………
………
………
ザッザザッザザザッザ
まだ…
雪かきをしているお隣さん。
………
………
………
(ああ…
ダメだよ…
こんなんじゃあ…
全然…ダメ…
こんなの…
地元に比べて…
足りないよ…
これじゃあ…
カマクラ作れないじゃん)
お疲れ様でした。