モヤモヤ電気
家電量販店。
「いらっしゃいませ~!
ようこそ、モヤモヤへ~!」
「あ~ちょっとちょっと」
「はい、お伺いします!」
「ここ…モヤモヤさんだよね?」
「はい!
当店はモヤモヤ家電を、
多数取り揃えている業界トップ、
モヤモヤ電気でございます!」
「ここの家電って…
モヤモヤ…するんだよね?」
「はい!
当店の家電をお買い上げ頂けば、
必ずやご自宅でモヤモヤすること、
間違いなしです!」
「それ!
そういうのが欲しかったんだよ~。
最近の家電はなんて言うかなぁ…
優秀過ぎて面白くないんだよねぇ。
愛着が湧かないっていうの?」
「わかります。
家電も人と一緒で、
手がかかるほど可愛いです。
例えばお掃除ロボット。
今のは段差どころか階段も越えて、
どこまでも掃除をしてしまうので、
存在感がないんですよね?」
「まさにそれ!
その例えとても分かりやすい!
初期の頃の段差に引っかかって、
ウ~ンウ~ン唸ってるのが良いんだよ!
それを助けてあげると、
また動き出す…そこも可愛いよね!」
「その通りです。
うちは人の記憶に残る家電を、
目指してますので。
そのようなお客様にはきっと、
気に入って頂けること請け合いです」
「それは心強い!
それこそさっき言ってたお掃除ロボット。
うちのがどうやら寿命らしくて。
交換部品がないから、
修理もできないって言われたんだ。
本当はそれと同じのがいいんだけど、
もうその時代のものは廃番でさ。
だからワラにもすがる思いで、
モヤモヤさんに来たんだけど…
何かいいの…ある?」
「もちろんでございます!
でしたら…お掃除の究極系!
このホウキはどうでしょう?」
「ホウキ?」
「はい!
どうですか、このフォルム!
掃除をしてるのに、
ホコリを巻き上げるモヤモヤ感!
掃除をする立場なのに、
ポロポロと先が抜け落ちて、
ゴミを増やしている感じ!
お客様いかがです?!」
「君…」
「はい?」
「最初からホウキって何だね!?」
「え?」
「それに私の中では、
ホウキはモヤモヤではないよ!
むしろ便利道具だよ!」
「す、すいません!」
「君は素人か?
最初からホウキを勧めてくるなんて!」
「申し訳ございません!」
「あの~お客様~
うちの松本が何か?」
「あなたは?」
「ここのフロアチーフをしてます、
高橋と申します。
何かうちの松本が失礼なことを?」
「いえね。
この…松本くん?にね…
お掃除ロボットの代わりが欲しいって、
お願いしたんですよ。
そしたら彼!
いきなりホウキを勧めてきたんだよ!
私はもっとモヤモヤしたのが欲しくて、
ここに来たのに!」
「そうでしたか~。
松本は研修済みの新人ですが、
私の指導が至らなかったようです。
お客様には不快な思いをさせてしまい、
誠にすいませんでした」
「いや…まあ…、
ホウキも確かに人によっては、
モヤモヤするかもしれないけど…。
私の中ではなかっただけで…。
松本くん…ちょっと言い過ぎた…
ごめんね」
「いいえ。
フロア2日目で
お声掛け頂けたのが嬉しくて、
つい舞い上がってしまいました。
もう少しお客様のお話を聞いてから、
商品をご紹介できれば良かったと、
反省してます」
「お客様、ご提案ですが、
フロア歴20年のこの高橋が、
家電選びをお手伝いしたいのですが、
よろしいでしょうか?」
「あなたが自ら?
それはこちらも助かります。
よろしくお願いします」
「ありがとうございます。
では私、高橋が担当させて頂きます。
お客様はお掃除ロボットの代わりを、
お探しとのことですね?」
「はい」
「日中のお掃除ロボットは、
どのようなご様子でしたか?」
「そうだね~。
とにかく目が離せなくてねぇ…。
トイレから戻ったら、
同じ場所をグルグル回ってて、
よ~く迷子になってたっけぇ…。
そうそう、
いっつも充電器まで戻れなくて…
私が充電器まで抱っこして、
連れてってました~」
「とても可愛がられていたんですね」
「もう子供のようでした」
「当店は残念ながら、
お掃除ロボットはございません」
「お掃除ロボットないの!?」
「はい。
ですがうちはモヤモヤ電気。
モヤモヤっとしながらも、
思い出を紡ぐ家電がございます。
まずこちらの掃除機を、
ご紹介させて下さい」
「これはコード式の掃除機ですか?
実物、初めて見ました?」
「はい。
こちらは当社オリジナルブランドです」
「これが…モヤモヤするんですか?」
「まずコード式なので、
一定距離までしかいけません。
ひとフロア…
よくてその隣の部屋までが、
移動範囲の限界です」
「モヤモヤ……するね~」
「そしてその移動ごとに…
このコンセント…
いちいち抜き差しする必要があります」
「それも…モヤモヤするね~」
「そしてこれの最大の特徴!
ちょっと見てて下さい。
このコード引き出します!」
ビビーーービビーーーー!
「この掃除機の特徴は、
このコードにあります!
ちょっとお客様。
試しにこのボタンを押して、
コードを収納してみて下さい」
「これ…押すのね?」
ポチッ!
シュルシュルシュルシュル!
「お~!
コードが本体に吸い込まれてく!
面白い!!」
「お客様!
ここです!
ここ見て下さい!」
「ん?!
どこ?!」
「この収納口です!」
「ん?
あっ!」
「そうなんです!
この掃除機…
コードがあと10cmのところで、
収納されずに止まってしまうんです!」
「うわ~モヤモヤする~!」
「しかもこれ!
残ったコードを押しても入りません!
もう一度、伸ばしてやっても同じです!」
「毎回、モヤモヤする~!」
「ですが…
1ヶ月に1~2回…
収納できる時があります!!」
「うわ~褒めてあげたくなる~!」
「そうなんです。
この掃除機なんと!
お客様、愛され度、
No1の商品になっております!」
「これ!
買います!」
「お買い上げ~
ありがとうございま~す!」