そう…なります？

中高年向けのパソコン講座。
 
講師の女性が説明を始める。
 
「まずはノートパソコンを、
　起動させましょう。
　どこのメーカーさんも大体、
　この右上に電源ボタンがあります。
　軽く押してみて下さい」
 
指示に従したがう受講生たち。
 
「起動しましたか？
　してない方？
　……
　大丈夫ですか？
　……
　では画面が出てきたと思います。
　では、テーブルに置いてある
　このマウスで操作していきます。
　まずは動かしてみましょう。
　左右に動かすと同じように、
　画面の中の矢印が移動します。
　このようにやってみて下さい」
 
私はホワイトボードを机に見立て、
マウスを左右に動かして見せた。
 
そして受講生の方を振り返ると…
 
まるでマウスをペンライトのように、
振っている人たちが…。
 
（そう…なっちゃう？）
 
3割の受講生が、
私に手を振ってくれている…
 
パソコン教室とは思えぬ光景。
 
最前列は全滅。
 
後列の方は明らかに、
前の人の行動に、
合わせたと思われる人物がちらほら。
 
自信なさげで目を合わせようとしない。
 
パチパチパチパチパチ。
パチパチパチパチパチ。
 
中央付近の受講生が、
マウスをキーボード上で、
スライドさせ小気味いい音を立てている。
 
そしてそれを見て、
隣の人も…真似しようとしている。
 
（…そうよね。
　私ただマウスを左右に動かしなさいって、
　指示しただけだから…）
 
拍手のような音の中、
壇上だんじょうで立ち尽くす私は、
はたから見れば、
初めてステージに立った、
アイドルのように見えたでしょう。
 
（今日、大丈夫かなぁ…）
 

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。