ありそうでない昔話
昔話の語り手のおじさん。
その前には双子。
「むかしむかし、あそこに…」
(どこ?)
(どこに?)
「居たはずの、
おじいさんとおばあさんを見失いました」
(なにやってんだ、この人?)
(なにしたいんだ、この人?)
「私は村中探しましたが、
二人はどこにも居ません」
(二人居なくてもいいんじゃないの?)
(二人居なくても話って進むよね?)
「私は捜索を諦め下山しました」
(行方不明になってる)
(大掛かりになってる)
「どこへ行ったのおじいさ~ん。
どこに行ったのおばあさ~ん」
(あなたは誰なの?)
(なぜ名乗らない?)
「もう勝手に、
部屋を覗かないから出てきて~」
(これってあの話?)
(でもちょっと違うよね)
「おじいさ~ん。
ほら見て!
木の根元の…ここっ!
掘ったら…ほら!
すっごいの!
ほんとすっごいの出てきた!
見たくなったぁ~?
ちょ、ちょ~っと見てみて?
チラ~ッとでいいから、ほら!
ちょ~っとでいいから、ね!」
(何もないパターン)
(もう必死のトーン)
「おばあさ~ん。
帰ってきて~。
パンも準備したのよ~。
いつもの黒パンじゃなくて白パン!
ヤギのチーズもあるのよ~。
美味しいから~。
これ絶対、美味しいやつだから~」
(海外の昔話まで出してきた)
(なりふり構わず、世界観お構いなし)
「仕方がない。
じいさんとばあさんは諦めて、
都でひと暴れしてくるか!」
(鬼?)
(まさかの鬼目線)
「待てっ!
そうはさせないぞ!」
「誰だ!」
「ある島で鬼退治をして、
帰ってきた英雄だ!」
「ちっ!
もう戻ってきたのか。
お前のじじばばを人質に取ろうと、
こっそり奴らの様子を伺ってたのに、
隙をみて逃げられたのはぬかったわ。
でも、もうそれはどうでもいい!
お前を倒してしまえば同じこと!
姑息な手段で、
お前を確実に倒したかったのだがな!」
「黙れ!悪党!
成敗してくれる!」
(鬼の上に外道…)
(自分を英雄と言っちゃう人って…)
「貴様のようなチビに、
わしが負けるわけがなかろう?
見たところお前の身体は、
五尺五寸ほど。
わしは20倍の10丈じゃ。
どうだ?勝てる気がせんだろ」
「え?知らないの?」
「何がじゃ?」
「歴代の鬼退治の話。
大抵の鬼は大きさを過信して、
口の中や耳の中に侵入されて、
退治されたんだよ」
「え?!そうなの?それ、初耳!」
「人の世界には古来よりの言い伝えがある。
小は大を兼ねる!
小を制する者は世界を制すと!」
「なんだと!!
小さい者が世界を制するだと?」
「だからお前のような図体のでかい奴が、
勝つことなど断じてない!」
「フッ!良いことを聞いた!
わざわざ教えてくれるとは、
お前は間抜けな英雄だ!
これを見ろ!!」
「まさか?!
お前は身体を小さくできるのか!」
「気付いた時にはもう遅い!
世界を制するのはお前ではない!
このわしじゃ!!」
プチッ
(やっぱり)
(読めてたよね、この展開)
「さて鬼も退治したし、
おじいさんとおばあさんを見つけて、
安心だと伝えないと…
どこに隠れたんだろう…」
「お~い」 「ほ~い」
「あっ!
おじいさん!おばあさん!」
「よ~帰ったのう。
元気じゃったか~?」
「はい。
助けの手紙を受け取り、
これはいけないと慌てて、
半日で鬼退治を済ませ、
大急ぎで帰ってきたんです。
でも無事で良かった~。
どこに隠れてたんですか?」
「いや、わしらは手紙を出したその足で、
道後温泉に行っとたんじゃ」
「???」
「いいお湯でしたね~おじいさん。
ほれ。お土産の坊ちゃん団子」
「ほんといいお湯じゃった~。
これは道後温泉名物の木刀じゃ。
かっこいいじゃろ~。
男の子は一度は持ちたいものなあ。
ほら、お前にピッタリじゃ」
「時代錯誤と、
修学旅行生の買うやつ!
そして…
あんたらこそ鬼や!!」
(これはないし、わけわからん)
(わけわからんけど、これはあり)
「めでたし、めでたし」