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〜第1章 お金はあとからついてきません〜▷売上はあるのに、なぜお金が足りなくなるの?

【前回までのお話】
はじめに ~世にも奇妙な花屋の物語~ 案内人 田中靖浩(公認会計士)

▲暇つぶしがきっかけで始めたネットショップが大人気に

僕、古屋悟司は、脱サラをして激安を売りにした花屋「ゲキハナ」を始めました。

住宅街でひっそりとお店を開いたところ、オープン当初は「珍しい激安の花屋が東京の郊外にもやってきた!」ということで、レジは長蛇の列。
「よしよし! この調子なら3年もしないうちに大金持ちだ!成功者だ!」と意気揚々となりました。

しかし、そんな光景も数か月もすれば、何ごともなかったかのように静まり返り、ただの暇な花屋に。花屋を始めて1年ほど経ったころには、お店には閑古鳥が鳴き続けるようになってしまいました

「しっかし、誰も来ないなぁ......」

暇を持て余していた僕は、自分でも気づかないうちに、そんなひとり言をこぼしていました。

やることもないので、ノートパソコンをお店に持ち込み、お客さんの少ない時間帯は暇つぶしにネットサーフィンをするのが習慣になりつつあります。
たまたま、ヤフオク!(ネットのオークションサイト)を見ていたら、僕のお店で1500円で売っても、誰も見向きもしない観葉植物と同じものが、7000円で落札されているではありませんか!

「もしや、これは......」と思い、翌日に同じ観葉植物をヤフオク!に出品すると、数日後、なんと僕の出品したものも同じく7000円で落札されてしまったのです。

「もしや、これは......」という僕の思いは、確信めいたものに変わりました。

お店が暇な時間を利用して、仕入れた花をせっせとヤフオク!に出品していきます。店頭で激安でも売れない花が、ヤフオクでは、高値で売れていくんです。ただ、ヤフオク!はあくまで副業的な規模で、本業の実店舗での花の激安販売は鳴かず飛ばずのままでしたが。

ヤフオク!の売上が順調に伸びてくると、「もっと売れる場所はないかなあ?」と探し、たどり着いたのがネット上のショッピングモールの楽天市場でした。

楽天市場に出店の申し込みをして、激安の花の販売店としてオープンしました。いきなり月に90万円もの売上になり、なんと店頭販売での売上を超えてしまったのです。

楽天市場はヤフオク!とは価格帯が違いましたが、翌月には200万円の売上になりました。その後も、毎月100万円ずつ売上が増えるという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの成長ぶりです。

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確信は揺るぎないものになり、僕は寝食を忘れ、昼夜を問わず、ネットでの販売に打ち込んでいきました。

時代はネット通販の成長期でもあり、「ネットは実店舗で買うよりも安い!」とか、 「珍しいものが見つかる!」などという口コミが広がっています。
そして、単純に価格を他店よりも下げるだけで、圧倒的に売れる「場」でもありました。 さらに、価格競争がさほど激しくない花のジャンルでは、ウチみたいな激安店はネットに進出すると非常に珍しかったようです。あっという間に口コミで噂が広がり、売上はうなぎのぼりに上がっていきました。

▲売上は上がっているのにお金が足りなくなる

花を仕入れてネット上に出すと、すぐに売れていきます。
花は生物ですから、古くなったら廃棄します。1週間も保存はできません。ですから、3日以内にはすべてを売り切りたいんです。でも、全体の10%程度は売れ残るので廃棄します。それでも、売上は十分にあり、順調な伸びを見せていまし

ただ、1つ気がかりなことがありました。仕入れている花市場への支払いが思うようにいかないんです。早い話が、お金が足りなくて期限通りに支払えないのです。
花市場の経理の方から「お支払いはまだですか?」と催促をされるのですが、「来月末には支払えますので、少し待ってください」とお願いをしていました。
売上は絶好調なので、翌月には余裕を持って支払えるだけのお金が入ってくることはわかっているのですが......、支払いはどんどん滞っていくんです。


最初、その原因が僕にはまったくわかりませんでした。
しかし、よくよく考えてみると、クレジットカードでお買い物をされたお客さんの売上は、カード会社から1か月遅れで入金されてくる仕組みになっていて、このタイムラグに原因があることに気づいたんです。


僕は、花屋を始めたときは、現金だけの商売をしていました。だから、売上が10万円あれば、レジには10万円の現金がある状態です。もしも、急に5万円の請求があってもサッと支払えるわけです。

でも、ネットでの販売を始めてからカード払いを導入したので、お客さんがクレジットカードで支払いをすると、その入金は翌月になります。なぜ手もとにお金がないのかというのは、具体的には下の図にある状況になっていたからです。

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たとえば、今、手もとには60万円の現金があるとします、前月の売上の200万円は、現金として僕の会社の口座に振り込まれてくるのは今月末です。
今月の10日、20日、月末の3回、花市場の支払いがあります。それぞれの日に仕入額の70万円を支払わなくてはなりません。
月末には手もとにある60万円と合わせると260万円になるはずですが、10日と20日の支払いはできず、月末に総額の210万円を一気に支払うことになってしまうというわけです。

▲理屈はわかるけど、しっくりこない

ですから、僕には、売上が伸び続けているのに、手もとに現金が足りない状態が ずっと続いてしまうというジレンマが常にありました。

毎月100万円ずつ売上が伸びている状態なのに、花市場の方には申し訳ないので すが、待ってもらうしかないんです。「理屈はわかるけど、しっくりこない不安」みたいなものがずっとあるんです。

僕は日々のお金の計算などはとくに行っておらず、当時は税金を納めるための、年に一度の決算書しか出していませんでした。

というよりも忙し過ぎて、それすらもままならない状態で、「売上があるから、たぶん大丈夫だよね。だって、こんなに売れているんだから」と思っていたくらいです。

しかし、心のなかでは無理矢理、自分を納得させているようなところも少なからずありました。
今思うと、まるで外の現実世界を見ずに、目隠しをして車(会社)を運転(経営)しているような状況です。そんな勘が頼りの経営なんて、今ではとてもじゃないけど怖くてできません。でも、それを、さも当たり前のようにしていました。

数字に弱い僕は、「売上が上がっていれば、いつかはきっとお金が足りている状態になる(かも)」と思いながら、日々忙しく業務をこなしていました。 「専任の経理担当者を雇おう」とも思わなかったので、会計業務はもっぱら税理士さんにおまかせです。

そして、年に一度、税理士さんから上がってくる決算書を、よくわからないながらも目を通して、なんとなく「大丈夫だよね」という感じでスルッと流して、日々の業務に戻っていきました。

そんななか、銀行口座にあまりお金が貯まっていかないことが、だんだん気がかりになってきました。貯まっていかないというよりは、むしろ、マイナスになっているような感覚のほうが強いんです。

「売上はどんどん上がっているのに、銀行口座のお金は足りなくなっていく」という状態を僕は飲み込めないままでした。

「ほかのネットショップの人もきっと同じ状態なのかな?」と考えたけれど、まあこんなものだろうと思い、とくにお金に関しての悩みを誰かに相談もしませんでした。

それに、当時は僕が知るかぎり、ネットショップという新しい業態の仕事に関して詳しい人もいなかったので、暗闇のなか、手探りで前に進むしかなかったのです。

僕の周りには「月商が3000万円超えた!」などと、どれだけ売上が上がったかを、自慢を交えながら会話しているような社長ばかり。

そんなライバルたちに、「ウチも負けるものか!」と食らいついて売上をどんどん上げていくことに僕は熱中していました。ただ、そんなふうに売上をどんどん上げて いっても、いつまでたっても銀行の口座にお金が貯まっていきません。

▼次回
第1章 お金はあとからついてきません
お金が足りなくなったら、銀行に借りればいい

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▼この本の関連note

【この本のもくじ】

はじめに ~世にも奇妙な花屋の物語~ 案内人 田中靖浩(公認会計士)
●2020/2/7公開●

第1章 お金はあとからついてきません
▷売上はあるのに、なぜお金が足りなくなるの?●2020/2/10公開●
▷お金が足りなくなったら、銀行に借りればいい
▷「税務会計の知識」と「経営の知識」は別
▷決算書が読めなくても、年商1億円に
▷会社のお金は使い放題。調子に乗ってレクサスまで買う
▷忙しくなったら、もっと人を雇えばいい
▷高い授業料を払ってわかったのは「お金はあとからついてこない」
▷第1章を読み終えた読者へ

第2章 「数字」が読めると 本当に儲かるんですか?
▷なけなしのお金を払った最後の一手
▷「経費」と「費用」って違うんですか?
▷「儲けるための会計」を学ぶ
▷会社が続くために大切なのは「利益」
▷「限界利益」という「魔法のメガネ」
▷会社の「儲けパワー」
▷決算書で見るところは2つだけ
▷儲けパワーの正体は「限界利益率」
▷第2章を読み終えた読者へ

第3章 「儲けパワー」を高めるには、 どうしたらいいんですか?
▷黒字になるか、赤字になるかの分岐点
▷「こうしたら、こうなる」というシミュレーション
▷「値上げ」によって、限界利益率はどう変わる?
▷「値下げ」によって、限界利益率はどう変わる?
▷「商売」とは、誰かに喜んでいただいて、その対価を得ること
▷第3章を読み終えた読者へ

第4章 「値上げ」をしたら、 天国と地獄を見ました
▷「値上げ」をしたら、お客さんが来なくなりました
▷会社の利益に貢献する商品、しない商品
▷値上げが、会社の利益に与える影響
▷値上げするかどうかの適切な判断
▷第4章を読み終えた読者へ

第5章 「数字」が読めると 本当に儲かりました
▷なぜ、会社にお金が残らないのか?(資金繰り)
▷やっぱり広告を出せば、もっと儲かるんだろうか?(費用対効果)
▷やっぱり忙しくなったら、人を増やしたほうがいいですか?
▷計画は「ほしい利益」から立てる
▷計画が順調かどうかは、どう確認すればいい?
▷利益を出すために、できること
▷できるだけ高く売るか、できるだけ安く仕入れるか?
▷ずっと赤字体質の会社が、なぜ黒字が続くようになれたのか?
▷「数字」に想いを乗せよう
▷第5章を読み終えた読者へ

▷おわりに ~「自分だけのため」から「人のため」に儲けたい~ 古屋悟司


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