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2020年末にふり返る、亡き人へ

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 <大江 正章 さんとの出会い>          初期(1980年前後)からのふり返り

 11月に95歳の父が逝去し、12月には旧知の方々が次々に逝去されました。時がたつ儚さを思いつつ、とくにお付き合いが長く私より一回り近い若さで早逝された 大江 正章 さんについての一文を書きます。

 大江さんとの出会いは、ふり返れば1970年代後半に全国自然保護連合という団体でした。当時、公害問題の激化とともに地域開発という自然破壊が山間部(リゾート開発、大規模林道・森林皆伐)から海浜・干潟(埋め立て・コンビナート・原発ほか)まで、列島各地に急拡大していた時代です。まだ早稲田大の学生の時で団体事務局などでのお手伝いに来られていました。
 日本列島が蝕まれていく実態を目にしつつ就職された学陽書房では、精力的に地域主義、農業、地方自治などの各分野で次々に重要な書籍を刊行されました。

 とくに玉野井芳郎・坂本慶一・中村尚司編『いのちと“農”の論理』(学陽書房1984年)では、執筆メンバーの研究会を彼が組織して「地域主義」の潮流とその可能性を世に問うものとして、たいへん貴重で意欲的な書籍を刊行しました(地域主義は紆余曲折をへて今日の世界に再び甦る)。その当時、私も研究会メンバーの末席に加えさせていただきました。

 同書のあとがき、編者から彼の仕事ぶりについて、次のように記されています。ここに記されている彼の仕事ぶりは、世話になった多数の方々が共有する思いでしょう。

・・・・・ここでどうしても記しておかねばならない名前がひとつある。それは学陽書房の大江正章氏である。
 大江氏は、私たちの研究会を企画し、連絡・調整の労をとられたばかりでなく、本書のライトモチーフをつくるうえでの協業に加わってこられた。私たち編者をはじめ、ほとんどの執筆者は再三にわたって、大江氏から改稿をいいわたされた経験をもっている。それぞれの分担にしたがって、文責が執筆者にあることはいうまでもないが、多くの読者にとって、本書が少しでも親しみやすいものになっているとすれば、その功績の大半は大江氏に帰すべきであろう。この実質上の監修者に対して、私たちはいくぶんの怨嗟の声をはさみながらも、心からの謝辞をささげたい。

     1984年11月      玉野井芳郎 坂本慶一 中村尚司 」

 この書籍が、彼にとってもその後の活動の原点となったことが、彼の書いた文章に記されています。

 「地域主義」への熱い思い

「・・・・・・・・ぼくは80年代前半に編集者として最晩年の玉野井と仕事し、『いのちと農の論理―都市化と産業化を超えて』という本をつくった。ここに、いまに至るぼくの原点がある。」
 <グローバル化からローカルへ、私の視点> 大江正章の言葉
出典はナマケモノ倶楽部、辻伸一さんのブログにて全文が掲載:
https://theslothclub.wixsite.com/2020/post/_1218

そして、1990年には『玉野井芳郎著作集・全4巻』を刊行しています。https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN04434427

さらに玉野井芳郎さんとの繋がりでは、中野佳裕さんのブログでも重要な契機として引き継がれている様子がうかがえます。
「追悼文──大江正章さん、ありがとう」:
http://postcapitalism.jp/index/2020/12/19/cahier20201219/

*こちらも関連情報です:https://note.com/ngodear/n/n43eb78e9d288?

その後、協同組合の新潮流にも注目されて、石見尚編『日本のワーカーズ・コレクティブ  新しい働き方が社会を変える』 (学陽書房1986年)でもお世話になりました。
https://books.rakuten.co.jp/rb/236213/

そして光栄にも、私の大学院時代の論文や論考に関心を持たれて、博士論文でもある『共生社会の論理 いのちと暮らしの社会経済学』(学陽書房1988年)を刊行していただきました。当時は、ワープロなど普及してない時代でしたので手書き原稿をていねいに校正、編集して、目次立てからタイトル案までお世話になり出版にこぎつけていただきました。感謝のかぎりです。

 大手出版社の学陽書房を退職して、ご自身の理想を追求すべくコモンズを設立されましたが、その後も様々な場面で、大江さんとのお付き合いは広がり、コモンズの書籍では、アースデイ2000日本編『地球環境よくなった?──21世紀へ市民が検証』、『安ければ、それでいいのか!?』山下惣一編著2001年、『儲かればそれでいいのか──グローバリズムの本質と地域の力』2006年、『本来農業宣言』宇根豊ほか編著2009年、翻訳書『フード・ウォーズ ―食と健康の危機を乗り越える』2009年、などでお世話になるとともに、とくに有機農業学会の活動ではまさに下支え的な存在として今日に至っています。

 そしてついこの間、心にしみる言葉として、最近(退職時)に出版した『食・農・環境とSDGs 持続可能な社会のトータルビジョン』農文協2020年への書評を、日本農業新聞に執筆、掲載いただきました。
 書評での心温まる励ましの言葉の最後に、

「・・・・・・本書は著者の最初の単著『共生社会の論理』(88年)の問題意識を継承した総括でもあるという。実は、評者は同書の企画・編集者だ。手書き原稿を苦労して整理し、まとめたことは、今も忘れられない。それが32年後にスケールの大きなパラダイム転換を提唱する本書として結実したことを心から喜びたい。」(日本農業新聞2020年6月7日、書評。新聞記事を添付)

書評 大江

 この書評を書かれたときは、すでに病魔との闘いの最中であったことを想うと、長い年月をへてのお付き合いの日々を思い起こして書かれたものと想像いたします。まさに、心からの励ましの言葉を投げかけて頂いたこと、身にあまる思いとともに彼の心血を注いだ努力が今の私にも引き継がれていることを実感いたします。
 彼のひとかたならぬ心遣いと努力は、歪を拡大し続ける社会と世界への怒りとそれを克服すべき道筋を求める力として、筆をにぎりつつ全国各地の多くの方々と出会い、繋がりながら、共鳴の輪を拡げてきました。その願いと努力の結晶が、彼の諸活動の中で大きく膨らんできたさなかで、早逝されましたことは、本当に心より悔やまれます。
 笑顔で元気な大江さんの姿が、今でもまぶたに浮かびます。彼の歩みと思いを受けとめてきた方々が、数えきれないほど数多くおられる様子が、偲ぶ会のメーリングリストにて日々実感されます。大江さんが織りついできたタペストリー(つづれ織り)の大きさには目を見はるものがあります。どのように偲ぶ会を催すか、コロナ禍で見通せない今日この頃ですが、可能なかぎり彼が織りあげてきた数々の模様を浮かび上がらせたいし、それを未来に引き継いでいくことができるような場として、多くに方々と設定できればと願います。

*大江正章さん追悼オンライン・シンポジウム(6/13)
「地域主義とコモンズ―農と自治、アジアを結んで」

多数の参加で、とっても有意義な開催となりました!! 動画掲載しておりますので是非ご視聴ください❣❣

http://www.parc-jp.org/freeschool/event/210613.html


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