10億分の1 秒の世界を整える驚愕の技術。日本のインフラを支えるフルノの"時刻同期" vol.1
生活の中で当たり前になっているGPS。
車のカーナビゲーションから始まり、スマートフォンのマップ機能などなくてはならない存在です。
このGPSは自分の位置が分かるだけではなく、実は私たちの社会にとって重要なインフラを支えているといいます。それが "時刻同期" という仕組み。
聞き馴染みがないこの "時刻同期" という言葉を今回特集します。
正しい時刻って誰が、どうやって決めているの?
まず時刻のお話から始めたいと思います。これまで "時計を見たことがない" という方はいないと思うのですが、正確な時刻はどうやって決まっているかご存知でしょうか。
それは原子時計という超高精度な時計を用いて定められています。なんとその誤差は高精度なものなら3000万年に1秒程度なのだとか。
そして、この原子時計のデータを世界中から集めて算出されているのがUTCと呼ばれる協定世界時、これが私たちの時間の基準です。
これがGNSSと何の関係があるのかというと、GNSSで位置が分かる仕組みを理解すると見えてくると思います。
各国のGNSS衛星はそれぞれ決まった軌道で地球の周りを回っています。そして衛星からは「衛星の軌道情報(軌道のどの位置にいるか)」と「電波を発射した正確な時刻」の2つの情報が常に発信されています。受信機は複数の衛星から信号を受信し、これらの情報を得ることで自分の位置を計算しています。
ここで言う「電波を発射した正確な時刻」もUTCを基準に作られていて、そのズレは数ナノ秒程度。10億分の1 秒単位という極めて高精度な誤差です。つまりGNSS受信機は自身の位置が分かると同時に、極めて正確な時刻も得ることができるのです。
時刻同期とはなんなのか?
今回のテーマである "時刻同期" を簡単に言うと、"みんなで同じ時間を見る" と言うことです。もう少し説明するために具体例を示すと、AさんとBさんが11時に公園で待ち合わせをしていたとします。もしここでBさんの時計が15分遅れていたとすると、Aさんは15分公園で待たされることになります。その後の予定も全て15分遅れてしまいますよね。
そうならないように "みんなで同じ時間を見て、タイミングを合わせよう" というのをナノ秒単位で行うのがGNSSを用いた時刻同期です。
そんなに細かい時間を揃えることで何ができるのか。これが実は私たちの日常生活に不可欠なものになっています。
まず、地上デジタルTV放送。そして5Gなどのモバイル通信。その他、地震計や証券取引の場でも活用されています。
なぜこれらに時刻同期が必要なのか、スマートフォンでの5Gモバイル通信を例に説明させていただきます。
5G通信では、データのアップロードとダウンロードを同じ周波数で行います。その中で「今はアップロード」、「今はダウンロード」と交互に切り替わって通信をしています。
また5G通信に使われる周波数はキャリアごとに分けられていて、例えばD社は3.6GHz〜3.7GHz、A社は3.7GHz~3.8GHzと会社ごとに割り振られています。
もしここでD社とA社が時刻同期されていなかったらどうなるのでしょう。
アップロードの時間とダウンロードの時間が各社でバラバラになってしまったり、自由なタイミングで切り替わってしまうことになります。
すると例えばD社のキャリアではアップロードしているのに、A社ではダウンロードになっている、というようなタイミングが生まれてしまいます。そうなるとお互いに影響し合い上手く通信が出来ない事象が発生するそうです。つまり時刻同期にもし失敗すると、スマートフォンなどが完全には使えないということになります。
この問題が起こらないように、実は日本の全てのキャリアの基地局が時刻同期してタイミングを合わせているのだとか。
みんながハイッ!ハイッ!と手拍子を合わせている風景を想像するとちょっと面白いですよね。
どうやって時刻同期しているのか?
場所も、事業者も異なる基地局の時刻を合わせるにはどうしたらよいのでしょうか。仮に「A社さんのあの基地局の時計を基準に!」と決めたとします。しかし他の会社はその時計を見に行くことができませんし、その基地局から時刻情報がシェアされたとしても、基準から近い基地局と遠い基地局ではズレが発生してしまいます。どこにいても、どんな場所でもみんなが同じ時計を見る必要があります。そのため世界標準として定められている時刻=UTCが基準となるのです。
そして、このUTCを日本中の基地局にどうやって届けているのかというと、世界中どこでも極めて正確な時刻を得ることができるGNSS受信機が使われていると言うわけです。ようやく繋がりましたね!
流れとしてはこうです。
世界中の原子時計からUTCが定められています。そのUTCを基準にGNSS衛星は "自身が信号を発射した正確な時刻" を地球に向けて発信します。そしてGNSS受信機は衛星からのデータを受け取り、 "現在の正確な時刻" を算出しています。
そしてGNSS受信機はPPSと呼ばれる "極めて正確な1秒" の信号を周囲の機器に供給します。その信号を受け取った機器はその時刻を基準に動作をします。なので受け取った機器群は例え離れていても、ネットワークで繋がっていなくても、同じ時計を見ている、つまり時刻同期ができているのでタイミングを合わせて正しい働きができるというわけです。
フルノのGNSS受信機は時刻同期の分野で国内トップシェア
さて、今回は時刻同期の概要をお話させていただきました。
ちなみにフルノのGNSS受信機はこの時刻の誤差が4.5ns(1σ)という世界最高水準を実現しており、なんと時刻同期の分野で国内トップシェア。
そこに至るには様々なストーリーがありそうです。
さて、第二弾では実際GNSS受信機の開発・販売に携わっている方々に伺った「なぜフルノが時刻同期を始めたのか」「フルノのGNSS受信機の開発ストーリー」などをお話いたします。
お楽しみに。
執筆:高津 みなと