補遺:過変態を行う昆虫類に関して

昆虫類の幼虫の起源については、カギムシの祖先との雑種形成という仮説で、白熱した議論が交わされた時期があった。しかし、過変態という特殊な変態によりふ化後の変態を進行させ、成体になる昆虫類については、幼生転移仮説の著書・論文においても、情報量が非常に少ない。


<過変態を行う昆虫類の一例>

ウィリアムソン博士は該当する昆虫類について、2003年の著書で、一例をあげている。ツチハンミョウの一種であるEpicauta vittataである。この昆虫は、卵から孵化した最初の段階はシミ型幼虫(三爪幼虫とも呼ばれる)と呼ばれ、三対の肢を持ったハサミムシのような幼虫になる。名前の由来はコムシ目のCampodea(この昆虫は羽がなく、幼生世代を持たない)に似ていることによる。この幼虫と、同じくコムシ目のAnajapyxと見比べてみても、系統的には近縁でないのに、外見がよく似ている。このタイプの幼虫は、Loricera(オサムシ上科)、コガシラハネカクシ属、Osmylus(ネジレバネ目)でも見られる。博士は、幼虫の有無と系統に関連性が見られないことから、初期のコムシ目と羽を持つ昆虫類との複数回の雑種形成によって、このような幼虫の放散が怒ったのではないか、と考えている。

このEpicauta vittataは、三段階の幼虫、二段階の蛹を経て成虫になる。前記の幼虫の次には、多肢の芋虫の外見をしたcaraboid幼虫(コガネムシの幼虫に似ている【原文はcarab beetle】)になり、その次は体の前部にのみ短い肢を持つ不活発な偽蛹(またはcoarctate幼虫)になり、続いてカブトムシの幼虫みたいなscarabaeoid幼虫(コガネムシの幼虫に似ている【原文はscarab beetle】)を経て、蛹になる。これが羽化して、触角や羽を持った細身の成虫になるのである。


<過変態の分類に関して>

オンライン検索においても、情報が乏しい中、昆虫関連の辞典があることを知り、過変態の項目を閲覧できた。過変態は2種類のタイプに分類できるというのである。

タイプIは母親の卵を産んだ場所に幼虫の餌がなく、幼虫が餌のある環境に移動する必要がある対応になる。餌のある環境にありつき、これ以降の変態は定住できる形態になる。知られている昆虫類としては、アミメカゲロウ目(カマキリモドキ)、甲虫類(数科)、ハエ目(モツレハエ、 Aeroceridae、大多数のツリアブ、数種のヤドリバエ)、ハチ目(Perilampidae、 Eucharitidae、ヒメバチ数種、チョウ目(セミヤドリガ科))になる。最初の幼虫が三爪幼虫またはplanidium幼虫になる。

タイプIIは産卵場所と餌の場所が一致している場合に見られる。最初の幼虫の形が個体発生における後半の幼虫とは大幅に形態が異なる。宿主に寄生する生活様式が特徴的である。ハチ目(寄生性の種)、ヒゲブトコバエ科(Cryptochetum)で見られる。一例をあげると、ハチ目の一種Hadronotus ajaxの一齢幼虫は鋭い歯を持つ肢のない蠕虫だが、三齢幼虫は樽形のずんぐりした芋虫である。


<松田隆一博士の著書で見る過変態>

もう一つの非公式の卒業論文で題材になった、松田隆一博士は、自らが書き上げた洋書の中に、過変態の知見を遺している。1979年出版の著書では、ゴールドシュミットが1940年に既に、甲虫類に属するSitaris humeralisで過変態を発表していることを述べている。この昆虫は、卵から一般的な甲虫の幼虫が孵化するが、宿主であるハチにくっつくまでは発生をこれ以上進行できない。この幼虫はハチにくっつき、そのハチに乗って、巣に居場所を変える。それからは、眼や肢を失い、第一段階のウジ虫になり、蜜を食べる。時々偽蛹という休止期になるが、普通は次の段階のウジ虫になり、続いて蛹になり、最後に成虫となる。

また、1987年出版の著書(松田本人は、惜しいことに既に病没していた)においても知見の記載がある。ツチハンミョウで過変態は最も知られているが、環境条件によって幼虫段階を跳躍したり、逆戻りしたりすると書いている。前項のE.vitattaと情報が若干食い違うが、本文に基づくと、ツチハンミョウの個体発生は次のようになる。最初は三爪幼虫といい、胸部の肢が発達している。ハチの食糧やバッタの卵を食べて育ち、一齢幼虫になる。ここからは3-5期にわたり、脱皮して育つ。頭部はいくらか下顎が小さい傾向にあり、肢は短い。続いて、この一齢幼虫は活動しない囲蛹殻に包まれた時期へと脱皮し、肢が短縮するなど、前段階の特徴を失う。この次に蛹になり、最後に成虫になる。E.segmentaでは、15℃ 90日間の飼育で、100%の幼虫が休眠する。高温の飼育では、幼虫が囲蛹殻に包まれた時期および第二の幼虫期を省略して幼虫から直接蛹になるのだという。


<過変態を幼生転移仮説で考える>

ウィリアムソン博士は、2013年の論文にて、Epicanta vitataの幼生転移による進化に関して、初めて具体的な考えを明かした。ツチハンミョウとコガネムシ科は、scarabeoid幼虫を持つ共通祖先から進化したが、この幼虫に関しては、有る爪動物を起源とする芋虫から進化したと考える。Scarabaroid幼虫と蛹の時期を盛るEpicantaの祖先は、caraboid beetleとの雑種形成によりcaraboid幼虫を得た。そして、caraboidの成虫も手に入れた。成虫の形は表現型としては発現されていないが、non-coding DNAに証拠があるはずである。Epicantaのその後の子孫は、コムシ目との雑種形成を通じて、シミ型幼虫(三爪幼虫)を得た。三爪幼虫はcaraboid幼虫によく似ており、蛹化することなく、この段階に変態できる。


ただし、昆虫類は基本的に陸上で生活を営むため、雑種形成を可能にした要因について、海水の酸性化による受精膜の剥離、といった原因を考えることが非常に難しい。幼若ホルモンについては無変態の原始的な昆虫の頃から存在し機能していたことを示唆する総説を幾つか読んでみたが、根本的な雑種形成を起こす因子を思いつくことができなかった。ただし、変態に寄与する内分泌系の働きは昆虫類で基本的に変わらないはずなので、祖先同士の交雑により、生まれた個体が一度幼生を獲得できていれば、ホルモン分泌の時期が変わることで、過変態のような、複数の形態を持った幼虫を単一の個体発生において、自由自在に出現させることもできるのかもしれない。


使用文献

The Origins of Larvae Donald I Williamson著 Kluwer Academic Publishers 2003

Introduction to Larval Transfer Donald I Williamson著 Cell & Developmental Biology 2012, 1:6

Larvae, Lophophores and Chimeras in Classification Donald I Williamson著 Cell & Developmental Biology 2013, 2:4

Encyclopedia of Insects (The Second Edition Academic Press Hong Kong 2009

ARTHROPOD PHYLOGENY A.P.GUPTA編 Litton Education Publishing Inc 1979

ANIMAL EVOLUTION IN CHANGING ENVIRONMENTS Ryuichi Matsuda著 Johne Wiley & Sons, Inc 1987

The origins of insect metamorphosis James W. Trumanら著 NATURE VOL.401 30 SEPTEMBER 1999

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