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「陸上観戦がより面白くなる」または「未舗装の道を走り出したくなる」本

最近読んだ『ランニング王国を生きる-文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと』について少し書いていきたいと思う。
タイトルの通り、文化人類学者である著者がエチオピアでのフィールドワークを綴ったものだ。 

正直に言って、すごく良い本だと思う。

著者自身、フルマラソン2時間20分53秒という記録を持つすごいランナーなのだが、この本を読むと、それ以上のレベルのランナーは本当にゴロゴロいることがわかる。ただ、言いたいことはそこではない。この本のおすすめの点をネタばれしない程度にご紹介したい。

エチオピアのランニングカルチャーがわかる

オリンピック、世界選手権から箱根駅伝まで、
陸上観戦が好きな方ならアフリカルーツのランナーの「強さ、速さ」というのは目の当たりにしていると思う。彼らの強さを示すものとして、「生まれ持った骨格」や「少年期の走行距離」などがフォーカスされて、半ば無条件で速いみたいな理解になりがちだと思う。
そもそも、エチオピアのランナーについてどれくらい知ってますか?
僕はこの本を読んで、ほぼ知らないってことがよくわかった。
エチオピアのランナーたちが普段どう生活し、ランニングやトレーニングをどう考えているのか?
というリアルな部分がとても興味深く、この本の魅力的な点だと思う。
きっと、世界選手権やオリンピックでアフリカルーツの選手の走りを見る時、この本で描写されているアフリカの大地やランナー達を思い描きながら見るだろう。それは日本選手を応援するのとはまた違った楽しみ方になるような気がしている。

翻訳、編集が読みやすい

わかりやすい日本語、テンポ良く読み進められる文章…翻訳と編集が上手だと感じた。
編集をされた方もランナーのようなので、そういったことも関係しているのかもしれない。
ランナーの集団が後ろから近づいてくる気配、ドリルを集団でおこなう統率の取れた動き、設置音。すべてが目の前にあるかのように想像できる。

妙に共感したこと

本の中で、フルマラソンのレース中のメンタルで、こういう描写がある。

肉体に限界が訪れ、心に描いていたものはすべてこぼれ落ちてしまいそうになる。それでも、走り続けることで何が得られるのかを自問する。逃げていきそうになる言葉をつかまえながら、一つずつ積み上げるように考える。苦しみの底にいるからこそ、そこで生まれる言葉に真実味が宿っていく。なぜレースをするのか?なぜ、毎年この苦しい闘いの場所に戻ってくるのか?

ランニング王国を生きる

トーマス・ガードナーという方の言葉として紹介されているので、ここでは引用の引用になる。
この文脈、自分には特に最後のセンテンスが妙にしっくりきた。

「なぜ、レースをするのか?なぜ、毎年この苦しい闘いの場に戻ってくるのか?」

ただ走ることを楽しみたいなら、別にフルマラソンの大会にでなくてもいい(出ても別の走り方をすればいい)。でも、毎年、毎回、ほんの少しでもいいから自己ベストを狙ってマラソンを走っている僕がいる。
先日の東京チャレンジマラソンは35キロくらいから、この言葉が頭の中でぐるぐる永遠リピートしていた。この「答え」がまさに僕が走る理由なんだと思う。


限られた時間で少しずつ読み進めるのにも適しているので、就寝前や、移動中の合間など、是非読んでみてほしい。

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