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柿の木、枇杷の木、キウイの木、桃の木、栗、梅、いちじく、ブルーベリー、茱萸その他。

柿ってのは多分熟れて柔らかくなっている方が美味しいんだと思うんだけど、子どもの頃から今に至るまで熟れている柿というのがどうも苦手だ。腐っているのか熟しているのかの区別がつかない。ので怖い。ああ、熟してるな、熟してるなと思いながら放置してしまいだいたい腐らせて水になってしまう。引き上げるタイミングがよくわからない。しかし死んだ父はよく私から見ると腐敗しているようにしか見えないグジュグジュの柿を好んで食っていた(ので、お前も食うかと聞かれてもいいえいいえと固辞していた)。

実家には柿の木があって大した木ではないのだけど毎年たわわの実をつける。実家は築30年近くで越してきてすぐ植えた柿の木が実をつけるのにはだいたい噂通り8年くらいかかったので、実をつけ出した頃は皆喜んだ。

この家に私は2年弱しか住まなかった。そのくせ建てる時には散々我を通した。しかし当時大学生だった私の我など本当にバカの物知らずで、特にかっこいいからという理由で1階の北西に作った納戸の窓をジャロジー窓にしたことなど死ぬほど愚かすぎてタイムマシンがあったら自分の頭をスリッパで二、三発引っぱたきたい程度には阿呆すぎるリクエストだった。

柿の木を植えるのを所望したのも私だ。私は借家育ちで長らく庭の果樹というものに憧れていたので、その他、栗、いちじく、梅、プラム、キウイ、枇杷、茱萸なども植えてもらった。キウイは大きな棚にして10年程度はとんでもない収穫量を誇ったのだがキウイの木というのは信じられないくらいに野蛮な木でベロベロ蔓が伸びてどうしようもなく、近所のオスの木が切られて以降、実をつけないまま暴れまくっているのでついに切られることになってしまった。その頃には老いた親がもうキウイの世話をする元気がもうなかった。

柿も相当量を食べずに野鳥の餌にしてきたはずだ。長いこと。私も重いので実家に帰った折にもろくにもぎもせず放置してきた。植えてくれと言っておいて無責任なことである。

父が死に母が死んで(コロナ禍に立て続けに)、妹ももうだいぶ前に死んでいるので私がこの家屋敷を相続することになってしまった。注文住宅で床も壁紙もシャンデリアもインテリアも散々私が打ち合わせで嘴を挟んで建てた家だったので自分のものになってさぞかし嬉しいかと思いきや相続してみると嬉しさというのはほとんどなくて、あるのは「責任を負った」感ばかりなのだ。そのくせ私の目の黒いうちは手放す気もさらさらなく、ともかく維持管理するだけでもどえらい手間なのだが家族の手を借りまくってなんとかしてもらっている。

果樹はいつの間にかブルーベリーまで植っていてそれは父が死んでからわかった。聞いてなかったので驚いたけどブルーベリーというのは素晴らしい木だ。何せ食べやすくて採取しやすくて美味しい。

いちじくと枇杷は、父が身動き取れなくなった後に草ぼうぼうになったのを見かねた親戚が入れた業者によって、なぜか「良かれと」「邪魔だと」伐採されてしまった。信じられない。私の意思はない。父の意思でもなかった。そもそも特に枇杷は死んだ妹が子供の時に食った琵琶のタネから巨木に育てた思い出の枇杷だった。私は怒りまくった後、絶望した。

父が死に母が死んだあと、荒れまくった庭の整備を改めて行い、いちじくは別の木を植え直した。枇杷は奇跡的に種が落ちて一本の幼木が育っていたのがわかった。

私は果樹をもっと増やしたいと思い、ホームセンターでレモンと柚子の木を買い足したが、植えたところで片方は溶けた。環境に合っていなかったらしい。

そいで、柿だ。

この家や果樹に「責任を負った」感ある私は、この果樹の実をできる限り食い尽くすことで何か恩を返しているような気がしていて、今夏は10キロ以上の梅をもぎ、先日も実家整備の後(草ぼうぼうになっている畑などもあるのだ)徒歩と電車と新幹線を乗り継いでの帰路を13キロ程の柿を抱えて帰宅した。

前回持ち帰った分の柿はあらかた水にしてしまったので今回は若めの柿を厳選したのだがそれでもどんどん熟れていく。柿好きの義父母(80代)に5キロを1時間かけて持参し(家人が)、柿好きの塾の先生老夫妻(80代)にいいのをいくつかお持ちする予定だが後は自家消費せねばならない。ところが私の家族で生の柿を食うのは私しかいない。柿好きな若い人(4、50代含め)というのはすごくレアな気がする。柿って果物としてはちょっと変なんだ。何がだろうと思って思いついたのは「酸味がまるでない」

数年前当時、不登校だった子がこの状況を見かねて「柿パイ」を作ってくれた。柿をリンゴのように甘煮にしてパイ生地に入れて焼いたものだがこれが絶品で、煮た柿にレモン汁を加えることで柿が柿ではない謎の果実に化けるのを知った。煮た柿は家族にも好評でものすごい個数が一気にはけた。「今年も柿パイ食いてえな、何せまだ10キロ近くあるし」と言ったら、今は多忙な子はそれでも「冷凍パイ生地買ってくれたら作るよ」と言ってくれた。冷凍パイ生地高いけどな。やっぱ食べたいな。柿パイ。


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