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【桐生ロケ】旅を忘れられないものにする失敗の話

旅って凄く不思議だと思う。行く前は、綺麗な景色やご当地グルメを調べて、あれ見ようこれやろうって凄くワクワクする。でも帰ってきてから何年たっても覚えてるのって、なんか全然別の出来事だったりしませんか。

入り口と出口が違う。それが旅の面白さな気がする。

実家でいまだに語られるのは、3歳頃にいった東京ディズニーランド。その時いつもと違う場所で、幼い私が極度の便秘になったらしく、ディズニーランドのホテルで夜通し泣いていたんだとか。その時は若い夫婦であった両親も大変だったと思うけど、なんかその話をする時面白そうなんだよな...。

あとは金沢旅行。お気に入りのぬいぐるみ(これがないと寝れない)を連れて行った私が見事にぬいぐるみを失くし、まずいと感じた母親が隠密に似たような二代目を調達。母がついた「ぬいぐるみは旅立った」という嘘と二代目を、怪訝そうな顔をしながらも受け入れたエピソードとか。

自分自身もそう。大学生の時に友達とニューヨークに行った時、街のキラキラ感と最先端に疲れて、怪しげなレンタルビデオ屋さんでダウンタウンのごっつええ感じとガキの使いをレンタルして、友達と笑いながら1日過ごしたこととか。
いつも優雅な仕草の友達が、ディズニーランドでファストパスを駆使した効率的な周り方を映画の香盤表なみに組み上げて、ジャンヌダルクのように先頭を走っていく姿とか。

とにかく、何年たっても思い出すのって人に付随する、どっちかというと失敗やふとした瞬間の出来事の方が多くて、写真に残る綺麗な風景や、おいしかった食事を通じて何故かそのことを思い出すんです。

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それは仕事でも一緒。やっぱり、大変だったよねとか、あれはやばかったな!という苦労や失敗や一瞬の断片的な出来事の方が、温度のある面白い話として後々盛り上がったりするものだと思う。

そういった意味では、去年ロケで行った桐生での体験は、語るに相応しい旅であり、仕事になりました。

クラフトが生き続ける街、桐生

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東京から2時間の山間にある都市、群馬県桐生市。東京からは関越道からも東北道からも行けるサービスエリア好きにはたまらない立地です。

古く奈良時代から織物業のまちで、江戸時代には天領として栄えていた桐生。織物産業の最盛期だったのは昭和で、その頃は織物工場の機織り機の音が夜通し止むことはなかったとか。

まず目に着くのは桐生の建築の面白さ。織物業の街らしく糸のつく工程でできないものはないほど、街中に工場がたくさん。伝統的な工場は三角屋根という独特の形状をしていて、今も数多く残っています。これは電力の供給が安定しない時代に、少しでも消費電力を減らそうと考えられた形状で、北側が傾斜で大きな天窓がついていて、そこから1日中安定した光を取り込んだんだそう。

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明治から昭和にかけて織物業の最盛期だった頃に建てられた歴史的建造物も多く現存し、有鄰館や群馬大学工学部同窓記念会館、築100年たつ金善ビルなど、10分街中を歩くだけでスマホをめちゃくちゃ構えたくなりますよ。

いいなと思うのは、それがただあるってだけじゃなく今も使われているということ。工場としてはもちろんのこと、アクセサリーショップだったり、大学の講堂として。歴史として存在しているんじゃなくて、今も生き続けているレトロ建築なのです。

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桐生のクラフトシーンは最高に面白く、大量生産時代を経て、今はオリジナリティを感じるクラフトやブランドがたくさん。糸の切れ端を使ったアクセサリー「000」(トリプル・オゥ)、月の最初しか営業しない洋品店「リップル」、桐生発のアウトドアブランド「Purveyors」など唯一無二の存在感を醸すお店があります。

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東京で、新しく建てられたビルたちに同じ店が入っていくのを見て、なんとなく「標準化」という単語が浮かぶことが多いけど、桐生にはそれがないような気がする。スクラップビルドでなく伝統と新しいものが融合して、また面白いものが産み出され続けている。桐生の「伝統」の器の大きさを感じたし、職人さんの柔軟さもきっとあるんだろうな。

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街中から車で10分も行けば清流に出会えるし、山もあり、鉄道もあり、温泉もあり、「自然」と「カルチャー界隈の刺激」と「郷愁を感じるレトロ感」が混ざり合ってなんとも独特な空気感があります。

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クラフトが生き続ける街桐生を、建築、クラフト、自然という3つの切り口から紹介する「Kiryu craft Story」というメディアの制作だったのですが、巡りたいものが多すぎて、3泊4日の中に詰め込めるだけ詰め込みきったのでした。

ロケは一期一会。地方めしもしかり

企画が終わり、制作段階になると段取りや交渉になります。ひとつひとつ作業していく工程は、地道で時には苦しいこともある段階。そんな中、ロケ時に特に私が大切にしてることは「今日のご飯何にしよう」です。

それより大事なものはないのかよという感じですが、ロケでごはんを成功させようと思ったら大変です。知らない場所、香盤、人数という通常よりも多くの枷があるから。

そもそも通常の昼ごはんだって、365日のうち成功してるのは何日あるか。見慣れた街、自分で決めるスケジュールの中だって、「これだよな」という気持ちになる昼ごはんてきっと数えるくらい。

地方ロケとなるともっと難しい。からこそ燃える。ロケは一期一会。地方めしもしかり。抜群の仕切りを発揮して「これだよー」って皆に言ってもらいたいし、私も言いたい!

群馬は日本に8県しかない海に面していない都道府県の一つで、さらに小麦の一大生産地。なので地元グルメの中に海鮮はなく、「桐生 グルメ」で調べるとでるわでるわ小麦由来の食品。ラーメン、うどん、ソースカツ丼など、そこはかとなくB級グルメ感が漂い、はらぺこな制作スタッフにぴったりの品々が揃います。

中でも有名なのはひもかわうどんという一見湯葉のような平べったい麺。このソースカツ丼とひもかわうどんは絶対に食す!と決め撮影に挑んだのでした。

でもこの桐生のロケ、とにかくご飯がうまくいかなかった。少人数だったのでお弁当にはせずお店で食べようと、ロケめしマップを作り、定休日も調べていったにも関わらず、ことごとくそれがハマらない。臨時休業だったり、中には昨夜ボヤがあったことによりお休み...というお店があったり。

一番の目当てだったひもかわうどんは平日昼間なのに県外客で行例。30分くらいで入れると思いますよというお姉さんの目論見は外れ、おおよそ2時間の余裕を見ていたのにも関わらず入れなかった。
1時間10分粘った段階で次の撮影のため諦め、地元チェーン店っぽいラーメン屋さんに入ることになったのでした(美味しかったけども)。

結局、夜なら空いてるよという地元の方のアドバイスに従い、ロケ最終日の夜にようやくひもかわうどんにありつきました。味は、想像通りのうどんで、普通に美味しかったです笑
幼い頃から父の影響で、毎週土曜日は讃岐うどんを食べ続けている私が美味しいと思うので、美味しいです。

旅の断片

面白いクリエイターも、伝統を守ってきた職人さんも、自然も、面白いブランドやお店もある桐生は本当に素敵な場所だった。

でもやっぱり「あんなにひもかわうどん並んだのに結局普通のチェーン店に入ったよね」というのを、かなり時間がたっても覚えてるんじゃないかな。そしてそれをきっかけに、きっと色々思い出せるんだと思います。

時にはいきあたりばったりで瞬発力を鍛えるのもいいけども、旅も仕事も、やっぱり準備と段取りはした方がいいです。予定調和も失敗も、それがないと発生しないから。

Photo:鈴木 慎之助 (C)Kiryu Craft Story / 桐生商工会議所

横山ふみ
1984年徳島県生まれ。2児の母。映像制作会社に⼊社後、現在はPRエージェンシーのプロデューサーとして、分析・企画から、制作、情報発信。
主な制作物は、⾃治体観光プロモーション映像制作、企業CM、WEB制作、広告配信、ライティングなど。ブランディングに繋がるコンセプトの開発とクリエイティブ制作を頑張っています。
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