【後編】文化祭ファーストゴースト (2023.9.12)
001
文化祭が好きです。
前回の記事
の後編になります。
「学校で文化祭をやっていた」「うちのクラスはお化け屋敷」「わたしはウサギの亡霊」の3点を覚えていてもらえれば、正直、前編を読まなくてもいいです。
適当です。
なんか最近の日記、結構適当。
でも、初めて目次ってやつをつけてみます。試み大事。そんなに長い記事じゃないですけどね。
それでは早速行きます。
002 第1の脅かし
ウサギ役のわたしは、1番最初の「1番最初のおばけ」として、入り口の裏のカーテンに隠れました。
さあ、そろそろ始まります。
入り口を開ける係の人の声。お化け屋敷の暗さに、3人くらいの女子が怯えながらはしゃいでいる声。そして足音。
わたしは、彼女らがトラップの鏡を覗き込んでいることを察知すると、怯えながら(失敗しちゃまずいので)カーテンから飛び出しました。
そして、『音を立てない』ように鏡に映り込みます。
女子たちはそれに気づくと……
「ぎぃやああああ〜〜〜〜〜!!!!」
「やばいやばいなんかいるなんかいるなんかいる!」
「いやっ! ちょっと! 早く!」
なんて叫びながら駆け足でコースを進んで行きました。女子たちが振り向かないうちに、わたしは『目を盗み』『音もなく』カーテンの裏へ隠れました。
その瞬間、わたしは思わずほころんでしまいました。
オオカミの亡霊の「わあっ!」という叫び声と、それに呼応する女子たちの驚き声が聞こえてきます。
やった! 見なさいザーボンさんドドリアさん! 綺麗に成功しましたよ!
幽霊の中の人って、こんなに嬉しいんですね!
どんどんいっちゃいましょう!
003 ハプニング発生
1組目が終わり、2組目がやってきます。
今度はさらに難易度が上がり(?)女子4人組でした。
わたしはさっきのように、彼女らが鏡を覗き込むのを待つのですが……お?
あれ? ちょっと待って。
待ってください、違う、鏡を覗いてくださいよ。
なんでこの人たち、鏡を無視してどんどん進んでいっちゃうんですか!?
やばいです!
史上(開始10分)最大のピンチが到来しました!
そうだ、何十人も客が来るのですから、当然、全員が全員思い通りに動いてくれるわけではありません。こんなこともあり得る!
彼女たちが「オオカミの亡霊」がいるエリアに行ってしまったらもう手遅れですが、それまではまだ少し時間があります。
もはや鏡にこだわっているわけにはいきません。
あとをつけましょう。
そして、誰かが振り返ったところでビビらせる、というか勝手にビビってもらう作戦です。
鏡をスルーされるという思わぬ攻撃を喰らいましたが、裏を返せば、彼女たちはお化け屋敷にビビっているということです。
クマは怖いから人間を襲うんですよ(たぶん)。
わたしは『目を盗み』『音もなく』彼女たちのうしろについて歩きました。
街で見かけた友達の背後を、わたしが声をかけるまでの30分間、ほぼゼロ距離で尾行していた記録を持つわたしです。怯えている4人組の背後にぴたりとくっつくことなど余裕のよっちゃんですよ。
ちなみに犯罪歴はありません。
作戦は成功。
曲がり角を曲がるところで、少しこちらに体を向けた女子が叫び声をあげました。
それからは、音叉が連鎖するみたいに全員の女子が声を上げます。
彼女たちは走って逃げ、とどめはオオカミさんがやってくれました(殺してはいません)。
ようし、なんとか成功!
こっちがビビりましたけど、ギリギリセーフでよかったです。
004 本物の幽霊
そんな感じで時は過ぎて行きました。
無事に。
いや、無事でなく。
途中、わたしは背筋の凍る恐怖体験に遭遇してしまいます。
何番目の人たちが終わって、何+1番目の人たちが来るまでの待ち時間でした。
慢性鼻炎のわたしは、我慢できずくしゃみをしてしまいます。
英語圏ではくしゃみは悪霊を吸い寄せると言います。だから海外の人は、くしゃみをした人に対して『ブレスユー(神の恵みを)』と言うんです。そのせいで、本当にわたしにも悪霊が現れたのでしょうか。
お化け屋敷という恒例術らしき儀式の舞台で、生贄のウサギの格好をしているのもダメだったのかもしれません。
わたしの隠れていたカーテンがモゾモゾと動いて、外から恐ろしいモンスターが現れました。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!」
わたしは怯えます。
モンスターはわたしの目を見るなり、恐ろしい顔でこう言いました。
「ブレスユー」
「…………」
よく見ると、その人はあの「オオカミの亡霊」さんでした。中の人は、カナダ人の留学生です。
な〜んだ。
オオカミの亡霊かあ〜。
カナダ人の留学生くんかあ〜。
「……あは」
ビビらせないでよ。
005 最後にして最大の事件
それ以外のハプニングはなく、わたしの仕事は順調にすすんでいき、残すところあと1組となりました。
今、その最後の1組がやってきました。
話し声を聞くに、どうやら男子2人組のようです。
男子か……厳しいですね。
傾向として、女子と比べてなかなか叫び声を上げないんですよ、男子は。
ああ、どうにかして怖がらせたい。
モンスターズ・インクのキャラたちの気持ちが初めてわかりましたよ、わたし。
さあ、早く鏡を見てください。
そしてわたしを捉え、わたしに恐怖してください!
——パンッ!
え???
——パン!ボフ!パン!パン!
ちょっと待ってくださいよ。
この人たち、なんでわたしのいるカーテンを叩いているんですか?
え? いやいやいや、人間が怪異に干渉していいの? 違うよね? 我亡霊ぞ? 障りはしても触られることはないぞ? 待って待って待って、そもそもお化け屋敷のシステムに触るのってダメじゃない? というかなんでわたしがここにいるってわかったの? ちゃんと『目を盗み』『音もなく』カーテンのうらに隠れてるんだよ? え、やば、怖い怖い怖い。なにこの人たち助けてくださいねえだれがお願いしますオオカミさんカナダの留学生くん助けてくださいお願いします!
そう祈っていたら、20秒ほどして、彼らは先へ進んでいってしまいました。
わたしの命は、亡霊の亡き命は、どうやら助かったようです。
よかったー!
って、やばいやばい。
再度問題が発生しました。
彼ら、進むスピードがあまりにも速過ぎます。用意されたオブジェクトらには目もくれず、すたすたと先に進んでいってしまいます。
えっ、ちょっ、待って、
わたし、まだ脅かしてない!
脅かされただけ!
急いで後を追いかけます。
しかし追いつかず、先にオオカミさんが脅かす声が聞こえました——その声にも、2人組は反応しません。
「よう!」とか言ってます。
よう?
オオカミ「Oh! ◯◯kun! ⬜︎⬜︎kun! Sorry, I mistook you guys for the customer! I didn't expect you guys are operator!」
What?
え、この2人、客じゃないんですか?
◯◯「俺たち、客を入れる前の見回りしてたんだよ。ごめんごめん、すぐに次のお客さん来るから待機してて」
わたしは驚きましたが、ともかく、急がなければならないみたいなので、すぐに持ち場のカーテンに戻ろうとします。
曲がり角を曲がり、入り口の方に戻ろうとした時。
さらなる事件が発生しました。
入り口にいる、本当のお客さん5人と、目が合ってしまったのです。
006 最後の脅かし
入り口にいる、本当のお客さん5人と、目が合ってしまったのです。
わたしの姿をみた女子5人組は、口々に
「え……やば、もう怖いやついるんだけど」
「ちょっとまじ無理! 入りたくない!」
「めっちゃ本格的じゃーん! やばいんじゃね?」
「いやもう無理無理、いるから、すぐ前にいるからいけない!」
「ねえ帰ろ帰ろ帰ろ」
みたいなことを口走っています。
あ……やっちまいました。
ウサギの幽霊はここに現れる仕様じゃないんですよ、あなたたち!
わたしはどうしようかと思って、とりあえず来た道をひき返します(つまり客から遠ざかるように曲がり角を曲がります)。
やばい、どうしようか。
鏡もないしカーテンもない!
この曲がり角から飛び出て脅かす?
いや、でもな……ここにわたしがいることはバレてるし、あんまりそれじゃ驚かれないかもしれない。
この期に及んで脅かすとか驚くとかどうでもいいかもしれないけれど……いや、違う。
違う!
わたしは! 亡霊だ!
宿命とか宿題とかシフトとか関係なく、わたしはわたしの思うままに驚かせたい!
おどかしたい!
こんな貴重な経験、これ以降2度とないかもしれないんですから、全力で驚かせて全力で楽しまないと!
まずは、「姿が見えていたはずのウサギがいなくなっている」というホラーです。
これは簡単です。
彼女らが曲がり角を曲がる前に、『目を盗み』『音もなく』『さらに深部へ』進めばいいだけなんですから。
進んだところで……どうする?
わたしの姿が消えていた、だけでも充分驚くかもしれませんが、それじゃわたしの気がすみません。
そう、わたしは驚かせたいのです。
自分という存在全体で。
自分の頭と、体と、声で、驚かせたいのです。
思慮の末、わたしはカナダくんを頼ることにしました。
「Okami-kun! Help! I need to hide! Thank you very much!」
わたしは小声でそう言って、オオカミさんのいるカーテンの中に隠れます。
そして、『オオカミ』と『ウサギ』の2人がかりで、最大規模の5人という猛者たちを迎え撃つのです。
結果、脅かしは大成功しました。
叫び、飛び出て、驚かせました。
仕事内容を破ったわたしはボスにちょい怒られしましたけれど、しかし、あの5人の驚きを思い出すと、その程度どうでもよくなります(ごめんなさいですけどね)。
それで、こんな風に、わたしは文化祭のウサギの役を大成功させたのでした。
いやー! 楽しかったー!
あんな困難を乗り越えたわたしたち(わたしとオオカミくん)には、もうこれから先、どんな恐怖もなさそうです!
007 エピローグ
後日談というか、今回のオチ。
わたしのシフトが無事(怒られたけど)終わって、もう何も怖いものなんてないぜ! と思っていたわたしの元に、一緒に回る約束をしていた部活の友達がやってきます。
「お化け屋敷に行きたい」と。
そう言って。
え、まじすか?
うちのクラスのお化け屋敷はネットで抽選で入場券を入手する仕組みになっているのですが(クラスにネットに強い人がいたため実現した)その抽選に、どうやら彼女は当選していたようなのです。わたしの分も含めて。
いやあ、わたし、知ってるんだけどな……。
そう思いながらも、抽選に当たった以上は行かないわけには行きません。倍率4倍だったらしいのでもったいないです。
時間は空き、午後1時からの順番でした。
文化祭を見て回った後、我がホームグラウンドお化け屋敷に行きます。
入り口を抜け、暗いホラーエリアへ突入。
わたしはわざとらしく、「LOOK!」と血文字の書かれた鏡を見つめます。
その鏡に……。
あれ、映ってこない?
そう思い振り返ると、そのタイミングで、カーテンから『ウサギの亡霊』が飛び出してきました。「ウガアッ!」という叫び声を上げて。
え? 叫び声?
ウサギの亡霊って、叫ぶの?
わたしは怖くなって、友達と一緒に駆け抜けます。
そしたら、『オオカミの亡霊』が叫んで飛び出してきました。
オオカミの隣には、もう一体『ウサギの亡霊』がいます。
え、なになになに? 知らない知らない知らない!
進んでいくと、すると今度は、叫びながら、机の下から『謎の死体』が這い出てきました。さらに、『何者か』から壁が叩かれ、別の場所では『不気味な手』が何本もこちらを引き摺り込むように生えてきて、『トランプ兵』たちが暗幕からわたしたちを攻撃してきました。
ええ、なにそれ!
このお化け屋敷、3時間の間にわたしの知らないお化け屋敷になってるんですけど〜!?
結果、めちゃくちゃ怖かったしめちゃくちゃ楽しめました。
知らなすぎて笑っちゃいましたよ。
誰だよ、あの机の下から這い出てきたやつ。
その確認のために、もう何回でも挑戦してみたい、そんな高校2年生のわたしのお化け屋敷でした。
もちろん、驚かせるためにも、ですね。
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