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過去を捨てた女達 8 悲壮感の花嫁

悲壮感の花嫁 8

よく友達に、結婚式やハネームーンの写真を見せるとよく言われた言葉。
幸せの結婚式の写真は、悲壮感が漂っていると。

でも、それは友希にとっては、正しい表現のように思う。22歳という若さで結婚を決め、やり直しがきくとはいえ、本当にこの隣りの人と結婚をして良かったのかと。
マリッジブルーみたいな感覚は、結婚をしてもなお続いた。
結婚をする前に、別れのタイミングは何度もあった。しかし、その別れのタイミングに、別れという選択が出来なかったのは、友希が良い人であろうとした、良い人でないといけないという呪縛があったからだ。

別れを切り出すと荒れ果て、まるで友希自身が悪い人というような感覚に陥ったのだ。もしかしたら、それがモラハラの始まりだったのかもしれない。容易に被害者のように罪悪感を感じさせるのが上手で、ただ気持ちが離れてだだけなのに。それはもの凄い悪いことをしているような感覚になっていたのだ。廃人のようになってしまう恋人に、よりを戻す選択肢しかなかったのだ。

後から離婚になる結婚は目に見えていたはずなのに、わざわざ苦労する道を選択していた過去の自分をなんて愚かなのか。初めてモラルハラスメントという言葉や現象の文章を読んだときは、もう子供もいたが、限界に達していた。だから、このモラルハラスメントという現象や、モラハラ夫という言葉は、自分が悪いとか、罪悪感を感じていた友希にとって、救いのような言葉だったからだ。そして、二人目だけは身篭ってはいけないという、境界線が正しいかった事も、今思えばストッパーだったんだ。離婚を決意してからは、
弁護士をたて、離婚した。離婚さえも過去の自分になりつつある。

友希はバーテンダーに話しながら、最後にこう締めくくった。だからね、悲壮感ただよう花嫁写真を塗り替えたくなったのよね。

マスターは、カシスソーダを友希に手渡した。

懐かしい味が蘇る。

また結婚されるのですか?とマスターは素朴な質問してきた。

友希は苦笑いをしながら、結婚ではなく、花嫁写真を撮り直したいのよ。
最高の笑顔の写真で、旦那様は不在でよいの。

今流行りのソロ活よ。
これから、撮りに行くの。

友希は、カシスソーダを飲み干し、颯爽と出ていった。悲壮感というものは、今の友希には感じられなかった。

そんな姿を黒猫はバーの隅で佇みながら、見送った。


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