つまんない話ではなかった話
「あ〜、つまんないな〜」
口癖のように声に出していたときがあった。会社と自宅の往復、今の状況を変えたいと思いながらも、何も行動していないときがあった。
その姿は、まるで親鳥が餌を取ってくるのを待っている雛鳥のような状況だ。地元の友達と遊んでいても、会話は先週と同じ話。
「どうやったら女の子と付き合えるのだろうか……」
頭の中は、新垣結衣のようなピュアで、可愛い女の子が自分の隣で腕を組みながら、街を歩いてる妄想を何度も繰り返している。そして閉じた瞼を開いても、目の前にいるのは地元の男友達の「S」だ。一気に現実に引き戻される。
「あ〜、つまんないな〜」
いつものように、声に出していた。そんなときだった。友人Sから
「一緒にビジネスをやらないか?」
「……ビジネス?」
話を聞くと、友達を紹介していくと自分の利益になるという。そんなうまい話があるのかと思ったのが、面白そうだなって思い話を聞くことにした。
「それじゃあ、14時にフレンドリーに集合な!」
地元の友達で疑うこともなく、ついていくことにした。すると、高校の時のリーダー格の存在であった友人「M」が、目の前にいた。着ている服も、いいお値段のするものであった。
売り物は健康食品である。水素が入ったカプセルの錠剤、どこにでも売っていそうな酵素。どれもドラッグストアで売ってそうなもので、どうして通信販売をするのか疑問であったが、疑うことを知らない自分がそこにいた。
そんな説明よりも彼は「お前はどんなふうになりたいんだ」
「どんなものが欲しいのか」「どんな生活を未来で送りたいのか」
まるで、自分がお金持ちになったかのように、叶うかどうかわからないような話をしていた。それはまるで、宝くじが当たってもいないのに当たっているような話をしているようだった。
「会社員でも、そのビジネスはやってもいいのかい?」少しばかり不安になり、「M」に確認をした。
「大丈夫、会社員でもこのビジネスを副業としてやっているよ」
その目には嘘はないようにみえたのだ。「高校の友人」というのはカテゴリはそれほどまでに強いのだ。
「今度、阿波座でセミナーがあるんだ。ぜひ来てアップラインの人に会って欲しい……」
「……アップライン?」疑問に思ったがそんな疑問も一瞬のうちに消え去った。
当日、仕事が終わり19時ごろに阿波座のセミナー会場に着いた。会場内には10〜20人ほどの人が集まっていた。メモ帳やビジネスも持っていき方をアップラインと呼ばれる人が指導をする。
キラキラしたスーツで、ルイヴィトンのビジネスカバンを持った30代前半の男性が、どんな思いでこのビジネスをやっているのか……を力説していた。
結局のところ、熱い思いを持って話すことがこのビジネス本質だったそうだ。具体性がなく抽象的なものであった。
その後、その人が自分に対して「お金は欲しいかい?」と聞いてきたのだが、「いや、あんまり欲しくないです」と答えた。少しばかり驚いた顔をしていたが、お金を稼ぐことができたら、世の中のお金の単位が一桁減ってみえて、いつもどんなときにでも好きなものが手に入るとのこと。
あまりにも流暢に話していたため、ふつふつと胡散臭さが出てくる。
「これからのビジョンについて話そう」と誘ってくるのだが、時間を見ると終電の時間が近くなっていたため、その場を後にすることにした。
「次の日も仕事なんだから、そこまでできないよ……」と
自宅についたのは、夜中の1時。すぐに寝ないと明日の疲労が残ってしまうため、すぐにベットにダイブをした。
クリアになった頭で、その健康食品の会社をググる。
「〜マルチ、違法……!?」
どうやら、当時流行っていた。マルチ商法の類であった。契約書に名前を書いていたが、市役所の消費者窓口の方に電話をしてみると、クーリングオフができるとのことで、すぐさま契約を解除する。通帳は口座引き落としとなっていたため、マイナス数字が印字されていた。
「あれ、契約が解除されているけど、なんかあった?」
すぐに友人Sからメッセージが飛んでくる。疑問に思って当然である。
「いや〜色々あって辞めることにしたよ。」適当な言葉を並べて、電話帳にある『S』名前をすぐに削除して着信拒否にするのであった。
あれから10年。
実家に結婚の招待状が届いていることの連絡があった。
「Sくんから結婚式の招待状が来ているよ〜」
「嘘やん……」
どうやら結婚するらしい。
どんでん返しは、時間がたてば、たつほど……
衝撃が大きくなるってことだ。
コンテンツをお読みいただきありがとうございます。 サポートのお金はライティング向上のための資金として使います。