見出し画像

人間が怖い【#本紹介】

時々無性に、怖い本を読んでみたくなることがある。
怖いもの見たさというか。
たまたま書店で手に取ってパラパラめくると、続きが気になってしょうがない作品があった。

櫛木理宇・著『執着者』である。


著者の作品はたくさんあるのに、私にとってはじめましての作家さんである。

怖さ、というのはいろんな種類があると思う。
超常現象といった得体の知れない怖さかも知れないし、動物や虫に襲われるのも怖い。

でもこの本の怖さはズバリ、人間が怖い。
付きまとわれ、追い込まれる焦燥感を、じわじわ味わえる。
地味にイヤな感じの怖さで、目が離せなくなった。

若い女性が、ある日突然、嫌がらせを受け始めるところから物語はスタートする。
深夜、ぐっすり眠っている時に人の気配で目覚める。ベランダから聞こえる風鈴の音。一晩中、誰かが窓の向こうに潜んでいる。
人の気配がして、玄関のドアスコープを覗くと、向こうもこちらを覗いている。ドアを隔てて様子を窺っているのだ。

相手はわかっている。

黄ばんだ白髪。煮しめたような色合いの粗末なコート。右頬に当てられた大きなガーゼ。そして、首から提げた風鈴。
老婆は笑っていた。

P49

老婆の嫌がらせは、ドアをガンガン叩く、家の前に汚物をまくなど、次第にエスカレートしていく。
たまらず交番に相談するのだが…。

通報してからが、さらに怖い。
「なにを大げさな」と訴えた警官に、舌打ちすらされるのだ。
自分が感じる恐怖が、まったく世間に受け入れられない。
「相手は老人なんだから」
「優しくしてあげなくちゃ」

一番くつろげるはずの自分の家で攻撃される。
その攻撃を他人に訴えても、笑われて終わり。

いやー、めっちゃ怖いんだけど。
本当にありそうで。

なんだろう。
すぐ隣にある恐怖というか、自分のことを弱い生き物だと自覚している人ほど、ひたひたくる恐ろしさというか。

その後、場面は一変して、今度は殺人事件を捜査している刑事の目線に切り替わる。
この刑事パートがいい。
自身も変質者に姉を殺害された経験があり、過去の事件の詳細を記憶している巡査部長の佐坂が、先輩たちの協力を経て、真実に近づいていく。
佐坂と一風変わった先輩刑事たちが被害者に寄り添って捜査する姿が、まだまだ警察も捨てたもんじゃないと思わせてくれる。

ストーキングされる女性たちと殺人事件の捜査が交互に交わりあったところで、真実が明らかになるサスペンス小説だった。

怖いのにオチが気になってやめられない。
でも夜読んでいたら、物音とかでビクってなる。
読んではやめ、やめては読んでの繰り返しだった。

人間のイヤな部分をいやらしく書いているけど、文体が読みやすく、登場人物に感情移入しやすい。
どこかに、こんな人いそうって思わされる。
そして不思議と読後感の悪くない作品だった。

著者の本、映像化作品もあるようだし、もっと読んでみようかなと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?