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【試し読み】R・E・ラングレン、A・H・マクマキン 『リスクコミュニケーション 標準マニュアル 』|第1章 序論より抜粋

 突然の災害、事故、不祥事などに見舞われたとき、企業や組織は自らの立場や行為についてどう情報発信し、社会に受け入れてもらう必要があるでしょうか。または、計画中のプロジェクトが健康被害や環境汚染を引き起こす恐れがある場合、周辺住民をはじめ利害関係者とどのように意見交換し、理解を得る必要があるでしょうか。このようなリスクに直面した際に企業や組織が行うコミュニケーション活動を、「リスクコミュニケーション」と呼びます。
 本書は、この「リスクコミュニケーション」の定義から考え方、そして実践の方法と評価までを網羅した解説書。アメリカをはじめ世界20か国以上で四半世紀にわたり活用されている、リスクコミュニケーションの「古典」と呼ばれる一冊です。

 R・E・ラングレン、A・H・マクマキン (著)神里達博(監訳)堺屋七左衛門 (訳)『リスクコミュニケーション 標準マニュアル』はただいま好評発売中!
 リスクコミュニケーションの専門家、リスクコンサルタントの方々はもちろん、企業や団体の広報、総務、リスク担当、コンプライアンス担当の方々にもぜひご一読をおすすめします。今回は試し読みとして、本文冒頭の一部を公開します。
※2021年12月4日付の朝日新聞でも紹介されました(→書評記事はこちら)。

(以下は好評発売中の『リスクコミュニケーション 標準マニュアル』から該当部分を転載したものです。)

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第1章 序論

 リスクコミュニケーションは、さまざまな種類のメッセージやプロセスを含んでいる。その一つの例は、食品工場の作業者に対して、大腸菌を拡散せずに食品を安全に扱うように呼びかけるポスターである。また、洪水の水位が上昇している最中に、緊急事態に対応する者が地域住民に避難を呼びかけることである。あるいは、危険のあるゴミ焼却炉の設置と運用について、住民代表と工場側とが同席して討議することである。
 リスクコミュニケーションには、親や子ども、議員、監督官庁の職員、科学者、農民、工場経営者、工場労働者、記者など、あらゆる職業や地位の人が関与する。それは、リスクアセスメントの技術の一部であり、リスクマネジメントのプロセスの一部でもある。
 本書は、米国において、次に示すような健康、安全、環境のリスクに関するコミュニケーションを実施する人のために書かれたものである。

● メッセージを作成したり、講演者を指導したり、パブリック・インボルブメント(住民参加)の推進役をしたりする、記者、編集者、コミュニケーションの専門家
● リスクアセスメントの結果を説明する科学者、技術者、ヘルスケアの専門家
● リスクマネジメントの決定事項を提示する組織の代表者
● リスクコミュニケーションの初心者、リスクを説明する役割を初めて担当する人

 このような読者は、リスクコミュニケーションについて、それぞれ異なるニーズと疑問を持っていると思われるので、それに応じて本書は5部構成としている。それぞれの部、または部の中の章は、比較的自己完結するように書かれているため、読者は、いくつかの章を選択して読んで、あまり興味のない他の章を読み飛ばすこともできる。
 第Ⅰ部は、リスクコミュニケーシと実際を理解するのに必要な予備知識を提供しており、第Ⅱ部以降の内容を理解するための基礎となっている。
 第Ⅱ部では、コミュニケーション活動の計画方法について述べる。
 第Ⅲ部では、リスクコミュニケーションのさまざまな方法についてより詳細な知識を提供し、さらに他分野のコミュニケーションとの違いを説明する。
 第Ⅳ部では、リスクコミュニケーション活動の成果を評価する方法、さらに、その成功度合いの判定についても述べる。
 第Ⅴ部では、リスクコミュニケーションの特殊な事例、すなわち緊急事態、公衆衛生活動、および国際的なコミュニケーションについての助言を提供する。
 また巻末には、追加資料のリスト、用語集、索引を用意した。重要事項の理解を深めるため、各章の末尾には、まとめの項目がある。リスクコミュニケーションの実施方法を説明する章(原則や倫理などの理論的側面を扱う章を除く)には、末尾にチェックリストを掲載しているので、読者自身のリスクコミュニケーション活動の計画や検討に利用することができる。


(中略)

 リスクコミュニケーションには、さまざまな形態がある。本書では、リスクコミュニケーションを機能によって分類し、ケア・コミュニケーション、コンセンサス・コミュニケーション、クライシス・コミュニケーションに区分する。これについては、本章でこの後詳しく述べる。
 この三つの形態には、テクニカル・コミュニケーションの他の形態と共通する要素もある一方で、それぞれの受け手に効果的にメッセージを伝えて参加してもらうためには、独自の駆け引きやコミュニケーション方法が必要になる状況が必ず存在する。
 たとえば、コンセンサス・コミュニケーションでは、ケア・コミュニケーションやクライシス・コミュニケーションと比べて、受け手との交流がはるかに多くなる。扱う対象によってリスクコミュニケーションを分類することもできる。たとえば、環境、安全、健康に関するリスクコミュニケーションである。
 ケア・コミュニケーションは、リスクに関するコミュニケーションの中でも、受け手の大部分が認める科学的研究に基づいて、危険性およびその取扱方法が十分に明確になっているものである。その他の特徴として、コミュニケーション担当者にとっては、人命尊重以外には投資に対する利益がほとんどないことが多い。アメリカ心臓協会(American Heart Association)および地域の公衆衛生機関などを考えれば良い。
 ケア・コミュニケーションには、二つの種類がある。一つは、ヘルスケア・コミュニケーション(健康教育、ヘルスマーケティングという場合もある)であり、喫煙やエイズなどの健康リスクについて、受け手に情報を提供して助言することである。もう一つは、産業リスクコミュニケーションであり、職場における潜在的な安全衛生のリスクについて労働者に情報を提供することである。
 産業リスクコミュニケーションをさらに分類すると、労働衛生に関する継続的コミュニケーションと、労働者に対する個別の情報提供とがある。労働者への情報提供としては、過去の死亡事故を調査して、ある労働者群の死亡率を標準と比較した結果を労働者に知らせることが考えられる。たとえば、時計の文字盤にラジウム夜光塗料を塗る作業が労働者にとって有害かどうか(すなわち、標準よりも死亡率が高いかどうか)を調べる長期的調査がある。
 コンセンサス・コミュニケーションは、情報提供と協業の促進を通じて、リスクマネジメント(防止または軽減)の方法について合意を形成するためのリスクコミュニケーションである。その一例は、市民諮問委員会と、地元のゴミ処分場所有者または運営者が協力して、処分場で発見された有害化学物質の最適な処理方法を決めることである。
 リスクに関するコンセンサス・コミュニケーションは、「ステークホルダー参加」の一種である。ステークホルダー参加とは、リスクマネジメントの方法について利害関係のあるすべての関係者が、合意形成に関与することである。通常は、最も大きな経済的利害関係を有する機関や組織が、その実施費用を負担する。しかし、ステークホルダー参加は、リスクコミュニケーションをはるかに超えて、紛争解決や交渉の領域に踏み込むことがある。このような領域は、それ自体が一つの専門分野であり、本書の対象範囲を超えている。
 クライシス・コミュニケーションは、過酷で突発的な危険事態、たとえば、工場事故、ダム決壊の予兆、生命に関わる病気の大流行などが生じた場合のリスクコミュニケーションである。緊急事態発生中のコミュニケーションと、事後のコミュニケーションの両方が含まれる(潜在的な緊急事態への対応を計画する際のコミュニケーションは、受け手がその計画に関与する度合いに応じて、ケア・コミュニケーションまたはコンセンサス・コミュニケーションのいずれかに分類される)。

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