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コレステロールや脂質、脂肪と聞いてどのようなイメージがあるでしょうか。

おそらくあまり良いイメージを持たれないのではないでしょうか。

脂は太るイメージが強く肥満が連想されたり、血がドロドロになりそう、脳梗塞や心筋梗塞の原因になるなどの印象があるかもしれません。

確かに脂質異常症を放置していると、心血管系の疾患になるリスクが高くなりますし、動脈硬化や慢性炎症の原因にもなります。

一方脂質は細胞膜や血管など体のあらゆる部分の構成要素になっていますし、重要な栄養素でもあります。特に脳や神経細胞には必要ですので、適切な質と量の脂質が不可欠です。


脂質の問題を難しくしている理由の一つが脂質の種類の多さではないでしょうか。

油でもエゴマ油やアマニ油、オリーブオイル、脂肪酸の名前もα-リノレイン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸などたくさんの種類があります。

今回は脂質異常症の改善に取り組めるよう、原因や脂肪酸の種類、食材などについて勉強していきたいと思います。


脂質異常症の原因

食事の影響が大きいですが、食事以外にも多くの要因が関与しています。

腸内環境
腸内フローラ(腸内細菌叢)は、脂質代謝に重要な役割を果たします。腸内環境が悪化すると、炎症が増加し、脂質代謝が乱れることがあります。特に、特定の腸内細菌のバランスが崩れることで、コレステロールや中性脂肪のレベルが上昇することが知られています。

・遺伝

脂質異常症には遺伝的要因も関与しています。家族性高コレステロール血症など、遺伝的に脂質代謝が正常に機能しない場合があります。これにより、生活習慣に関わらず、脂質異常症が発症するリスクが高まります。

・ホルモン

ホルモンは脂質代謝に直接的な影響を与えます。例えば、甲状腺ホルモンが不足すると、コレステロールの代謝が遅くなり、血中コレステロールが増加します。また、女性ホルモン(エストロゲン)はHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させる効果があるため、閉経後の女性はエストロゲンの減少に伴い、脂質異常症のリスクが高まります。

・性別

性別も脂質異常症のリスクに影響を与えます。一般的に、女性はエストロゲンの保護効果により、閉経前までは男性よりも脂質異常症のリスクが低いです。しかし、閉経後はエストロゲンの減少に伴い、リスクが増加します。

・添加物や加工食品

添加物や加工食品には、トランス脂肪酸や高フルクトースコーンシロップなど、脂質異常症を引き起こす可能性のある成分が含まれています。これらの成分は、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を増加させ、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を減少させることが知られています


これらの中でも特に腸内細菌の役割はとても重要であると考えられますので少し詳しく解説します。

腸内環境と脂質代謝

腸内には数百兆個もの細菌が存在し、これらは腸内フローラ(腸内細菌叢)として知られています。腸内細菌は消化や栄養吸収だけでなく、免疫機能や代謝機能にも重要な役割を果たしています。特に、腸内細菌は短鎖脂肪酸(SCFA)という代謝産物を産生し、これが脂質代謝に関与しています。

短鎖脂肪酸は、食物繊維が腸内細菌によって発酵される過程で生成されます。これらの短鎖脂肪酸は腸壁のエネルギー源となり、腸の健康を保つ役割を果たします。また、短鎖脂肪酸は肝臓での脂質代謝を調節し、コレステロールやトリグリセリドの生成と分解に影響を与えます。特に、酪酸、プロピオン酸、酢酸の3つの主要な短鎖脂肪酸は、脂質代謝に重要な役割を持っています。

腸内フローラのバランスが崩れると、炎症の増加やコレステロールの再吸収の増加が起こることがあります。これにより、血中コレステロールレベルが上昇します。


またホルモンにおいても脂質異常症と関連するため少し詳しく解説します。

ホルモンと脂質代謝

・甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモン(T3とT4)は、基礎代謝率を調節し、脂質代謝にも深く関与しています。

低下症(甲状腺機能低下症)
甲状腺ホルモンの不足により、脂質代謝が遅くなり、血中コレステロールとトリグリセリドのレベルが上昇します。これが、動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めます。

亢進症(甲状腺機能亢進症)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、脂質代謝が促進され、血中コレステロールとトリグリセリドのレベルが低下することがあります。

・インスリン

インスリンは血糖値を調節するだけでなく、脂質代謝にも関与しています。

  • インスリン抵抗性: インスリン抵抗性があると、細胞がインスリンに反応しにくくなり、血糖値が高くなるだけでなく、脂肪細胞が脂肪を分解することを促進します。これにより、血中の遊離脂肪酸が増加し、肝臓でのトリグリセリドの生成が増加し、結果として脂質異常症を引き起こすことがあります。

・コルチゾール

コルチゾールは副腎皮質から分泌されるストレスホルモンで、脂質代謝に影響を与えます。

コルチゾールの過剰分泌
慢性的なストレスやクッシング症候群などの病態により、コルチゾールが過剰に分泌されると、脂肪の再分配(特に腹部脂肪の増加)を引き起こし、インスリン抵抗性が悪化し、脂質異常症のリスクが高まります。

・性ホルモン

エストロゲンとテストステロンなどの性ホルモンも脂質代謝に影響を与えます。

エストロゲン: 女性ホルモンであるエストロゲンは、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させ、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減少させる効果があります。閉経後にエストロゲンレベルが低下すると、これらの保護効果が失われ、脂質異常症のリスクが増加します。

テストステロン: 男性ホルモンであるテストステロンも脂質代謝に関与しており、テストステロンの低下は脂質異常症を引き起こす可能性があります。特に加齢に伴うテストステロンの減少は、脂質代謝の悪化と関連しています。

・成長ホルモン

成長ホルモンは脂肪分解を促進し、筋肉の成長を助けるホルモンです。

成長ホルモンの不足
成長ホルモンが不足すると、脂肪の蓄積が増加し、脂質異常症のリスクが高まります。特に成人期における成長ホルモン欠乏症は、血中脂質プロファイルの悪化と関連しています。


次に脂質や脂肪酸の種類と、脂質異常に対していい影響、悪い影響を与えるものを紹介します。

改善効果の高い脂肪酸

  1. オメガ-3脂肪酸

    • 代表的な脂肪酸: エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸(ALA)

    • 主な供給源: 魚油(サーモン、マグロ、イワシなど)、亜麻仁油、チアシード、クルミ

    • 効果:

      • 血中トリグリセリド(中性脂肪)のレベルを低下させる

      • 炎症を抑える

      • 血液の粘度を低下させ、血栓のリスクを減少させる

      • HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させる

  2. オメガ-9脂肪酸

    • 代表的な脂肪酸: オレイン酸

    • 主な供給源: オリーブ油、キャノーラ油、アボカド、アーモンド

    • 効果:

      • LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる

      • HDLコレステロールを維持または増加させる

      • インスリン感受性を改善する

悪影響を与える脂肪酸

  1. 飽和脂肪酸

    • 代表的な脂肪酸: パルミチン酸、ステアリン酸

    • 主な供給源: 赤身肉、バター、チーズ、ラード、ココナッツオイル、パームオイル

    • 影響:

      • LDLコレステロールを増加させ、動脈硬化のリスクを高める

      • HDLコレステロールを増加させる可能性があるが、全体的なリスクの方が高い

  2. トランス脂肪酸

    • 代表的な脂肪酸: 工業的に生成されたトランス脂肪酸(部分水素化油に含まれる)

    • 主な供給源: マーガリン、ショートニング、揚げ物、加工食品(スナック菓子、クッキー、クラッカーなど)

    • 影響:

      • LDLコレステロールを増加させる

      • HDLコレステロールを低下させる

      • 炎症を引き起こし、心血管疾患のリスクを大幅に増加させる


このようにコレステロールや脂肪酸の中でも、体に悪影響のあるものを摂取したり、蓄積する環境を続けると、体内に炎症を引き起こされ、心血管系疾患の危険性が高まるといった影響があります。

つまり体が酸化して、炎症が起こりやすくなっている状態から、抗酸化、抗炎症アプローチを行い正常な状態にしていくことが大切であることがわかります。

抗酸化アプローチについては別の記事にも記載してありますので、そちらをご覧ください。


いかかでしょうか。

脂質異常症の方は診断されていない方も含めるとかなりの数になると考えられます。
飽食の時代であり、効率化を求め、加工食品、添加物の影響は年々大きくなっています。

食事の内容や質も大切ですし、食事を作る手間や環境をもう一度見直す時なのかもしれません。

循環器内科、腎臓内科を診療している当院としても、これらの考え方は今後も継続して啓蒙していく必要があると考えています。

少しでも心血管系の疾患が少なくなるように今後も精進してまいります。