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新規事業創出の極意④説明力と説得力

今までに、民間企業、大学、NPOの立場で新規事業創出にそれぞれ携わってきました。個別の具体例は色々と問題になってしまいますが、折角の経験なので考え方などをまとめて欲しいと知人に勧められました。もちろん、公開可能な範囲の内容だけです。

前回は「コミュニケーション力」と「雑談力」について記事化しました。

4回目のテーマは「説明力」と「説得力」です。新規事業創出は技術や市場の動向などを整理して、新事業の企画をまとめていく作業がメイン業務ですが、どこかのタイミングで必ず上司に説明をして、承認してもらうプロセスがあります。

既存事業と比較して、ここが非常に難関です。感覚的な議論論と感情で結論を出されることもしばしばです。きっと、上司もどうやって決めたら良いのかを悩んでいるだけです。

何をどうやって説明していけばよいのかを私の経験から共有できればと思っています。

少しでもマインドセットを良い方向にシフトさせて、新規事業創出につなげていきましょう!

新規事業を説明する際の課題

新規事業を企画する場合の最大の課題は、上司の承認を取るところかも知れません。特に、「市場」や「事業」などが分からない領域に新しく突入する際には何を判断基準にして良いかすら上司が分からないことも多いです。

こんなやり取りは日常茶飯事です。

担当:「こんな市場が伸びると思います」
上司:「そうなのか~、じゃあそれが分かるような資料を作っておいてよ」

根本的な問題は、それが分かるような資料がないのです。それがないと判断できないと言われると八方ふさがりの状況になってしまうのです。

既存事業であれば、「顧客訪問回数を増やせば売り上げが10%上がる」とか「工場の工程管理をデジタル化すれば不良率が20%下がる」とか感覚的に理解しやすいです。

特に日本企業はロジカルよりも感覚で判断されるケースがまだ多いのでなかなか難しいです。「自分が昔やったときはこんな感じでうまくいったから、部下がやっていることもその延長線上でやればうまくいくだろう」という判断です。

もちろん、こういったやり方は否定はしません。むしろ、これまでの知見を活かした判断ということで、既存事業では良い判断ができる場合が多いです。

一方、新規事業の場合はそうは行きません。そもそも、「新規」の事業と言っているので、判断する上司も分からない世界です。業界の常識も分からないし、同業他社がどこでどんな技術があるのかもちゃんと理解できていないことも日常茶飯事です。

そういった上司を説得するためには、市場や競合他社のデータをたくさん集めたりします。ただ、それだけだとやっぱりうまくいかないことばかりです。その辺の事業を可能な範囲で具体的に説明していきます。

たくさんのデータから何を選択するのか?

新規事業チームの人は非常にたくさんのデータを集めます。工場で黙々と作業している代わりにひたすらパソコンの前で作業している訳なので当然と言えば当然ですが・・・必然的に一見すると使えそうなデータがたくさん集まってきます。

一般的な調査は「ネット」や「市場調査本」を活用します、例えば、ネットで「太陽電池」&「研究」、「太陽電池」&「新事業」、「太陽電池」&「市場動向」などを検索すれば、山のように太陽電池の関する情報が出てきます。

そういった情報の中で「ロードマップ」や「市場調査」に関する資料もたくさんあります。多くの企業で情報収集や方針策定に困っているから、こういった部分を補うデータを整理しているところにお金は回ってきます。

そういった資料はきれいにまとまっていますし、これはこれで便利です。初期段階として情報を網羅的に収集できますし、ある程度深い調査をする前段階としては有効に活用させてもらいます。

また、会社に予算があれば外部のコンサルタントにお願いすることも多いです。コンサルタントは皆さんプロなので、こちらの希望に沿って多くの情報を集めて、きれいに整理してくれます。もちろん、「プロの調査結果です」というお墨付きを付けて!

こういった環境はある意味で平等になっていますが、それでも新規事業に成功してる企業(部署)とそうでない企業(部署)に何が違うのでしょう?優秀な人を集めて、予算を付けてやってもうまく事業に結びついていないケースが多々あるのが現状です。

市場調査本に書いてあることを信じてはいけない

私は市場調査本はよく活用します。
他の会社の人もそうでしょう。便利だから。

数10万円なのでちょっと高めですが、自分で調べると膨大な時間をかけても、ここまでの精度が出せるかが不安です。また、限られた時間でアウトプットを最大化するための、投資としては安いものです。自分の人件費を考えたら、そこに何日も時間をかけるくらいなら、アウトプットの全力を注ぎます。

市場調査本には未来の市場予測が良く書いてありません。何かしらの根拠があるとは思いますし、その数値を否定するほどの根拠は持ち合わせていないです。また、結構この予測があっています。

一方で、こういったデータは同じ新規事業を検討している企業は入手可能だという点です。そこに書いてある「今後はこういった領域が伸びる」っていう言葉を真に受けてもうまくいかないです。

自分のやりたいビジネスプランに対して、その有効性を検証するためのデータ、後は言い方が悪いですが、上司を説得するためのデータとして使うことが多いです。

結局は、こういったデータは新規事業の仮説を立てるためには必要ですが、そこから自分たちの新規事業のネタは生まれてこないということです。まずは自分たちがやりたいビジネスが何かを考えましょう。

顧客の声を聞くとは言っても・・・

また、新規事業を進めていくときに必ずと言っていいほど、「顧客の声を聞いてこい」と言われます。これも実は結構大変です。

既存事業であれば、今までの顧客に「こういった新製品ができそうなのですが・・・」と話をすれば良いですし、既存製品を新しい業界に展開するときにも、パンフレットや技術資料などを持参して説明すればよいだけです。

もちろん、こういった取り組みでもうまくいくかどうかは担当者の能力の大きく依存しますが・・・

一方、全くの新規事業では「どういった製品ができるのか?」、「市場で受け入れられるのか?」すら良く分からないことも多いです。そんな状況で社内からは「外部の情報が少ない」と言われたりしまう。じゃあといって、外部の企業にヒアリングにいっても、詳しい話ができないと何も良い情報は得られません。

それは当然ですよね。
顧客側も自分たちに何かのメリットがない限り、自分たちの貴重な情報は提供しません。

一方、海外のスタートアップの人と話をすると、「こんな良いアイデアがあるんだけど」と言ってきます。「じゃあ、実物を見せて!」っていうと、「それはこれからだ」みたいなやり取りが普通に行われます。

これがある意味でマーケティング戦略として正しい姿だと思います。
日本企業が新しいものを生み出す力が弱いのはこういった点にあると考えています。

特に保守的な企業だと「アイデアが盗まれるので特許を出願して、実際にモノを作ってから・・・」のような意見がでてきます。それでは変化の速い時代に取り残されてしまいます。アイデアが盗まれて困るのは、こちらが実行しないだけで、過剰に反応することは自分たちの活動のスピードを遅くしてしまうだけです。

まずは「アイデア」や「モックアップ」程度で良いので、それを世に出して意見を伺うこと、それを元に自分のビジネスモデルをブラッシュアップすることが大事です。

そうやって洗練されたビジネスモデルは説得力が増して、社内でも承認されやすくなります。何より、担当者が自分ゴトとして腹落ちして、納得感が高まると思います。

自分の価値観の源泉を知る

ビジネスモデルの作り方や論理的な説明は色々な教科書などがあるので、ここれは触れません。日常業務としてやり続ければ、それなりのスキルは身につきます。新規事業を担当するような人はそれなりに優秀な人がアサインされるので、すぐに最低限のスキルは身につきます。

ただ、私が一番強調したいのはビジネスモデルを「自分ゴトとしてストーリー化」して欲しいということである。自分が価値観がどこに向いていて、何を重視するのかは、ある程度のキャリアを積んできた社会人には特に大事です。

下記は一例ですが、どれも正解です。自分はどういった人間でなぜその事業をやりたいのかを、たまに立ち止まって考える習慣を身につけましょう。

・なぜ自分がこういった事業をやりたいのか?
・どういった人に役立てたいのか?
・自分の興味として事業を成立させたいのか?
・単に会社の売り上げが上がって、自分の評価が高めたいのか?
・身近に困っている人がいて、そういった人を助けたいのか?

常に自分が何のために仕事をしているかを考えていますか?

最後は情熱

精神論で全てがうまくいくとは思いません。ただ、情熱を持っていないと新規事業を進める際に遭遇するいくつもの障壁をクリアしていくことはできません。

新規事業を進めるにあたって、そもそも自分が何をやっているのか?何のためにやっているのか?などから分からなくなることもあります。もちろん、抵抗勢力に強く否定されることもあります。そういったときに強い意志を持って自分の進む道を進む勇気、それが大事です。

ただ、担当者としての熱意は周りに伝わります。それは、話すときの雰囲気かもしれないですし、あきらめずに説得する姿勢かもしれません。「どうやったら熱意が伝わるか?」はあまり意味を持っていなくて、「どうやって自分のやりたいことを前に進めていくのか?」を考えている人は周りが見ています。

全員とはいませんが、頑張って動こうとしている人をフォローしてくれる人は一定数います。如何にそういったフォロアーを見つけて、仲間にしていくのかも大事にして欲しいです。

承認者という相手がいることなので、相手に合わせたアプローチは必要です。何度も説明に行って分かってもらうことが大事かも知れませんし、しっかりとデータを整理したほうが良いのかもしれません。また、外圧に弱い場合も多いので、コンサルタントをうまく活用するのも良いかと思います。

結局は、その本人が自分がこれをやりたいという強い想いを持って、どうやったら壁を乗り越えていくのかを考え続けることが大事でう。

今回は精神論みたいな話が多くなりました。ただ、新規事業を進めるには最低限のスキルはもちろん必要ですが、熱い情熱は欠かせません。そういった想いを持ちながら書いていたら、やっぱりこうなりました。

次回は「幅広い知識」と「深い専門性」という観点で記事をまとめていきます。ご期待ください。

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