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花留多唄

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花言葉の歌留多に寄せたエッセイ。 イラストは无域屋さん。
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#植物

花留多唄【つ】椿

花留多唄【つ】椿

 薔薇に負けず劣らず様々な色や形のある樹木、椿。大昔から私たちの暮らしに馴染み、沢山の品種が生み出されてきた植物です。
見た目だけでなく、その名前もなんだか雅なものばかり。美しい女性の名を冠したものもあれば、『青い珊瑚礁』『朝露』『雲竜』などあでやかなものもあります。

 品種改良を重ねられただけあって、花言葉も『理想の愛』『完全な愛』『完全な魅力』『感嘆』など高嶺の花といった印象がありますね。

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花留多唄【た】ダリア

花留多唄【た】ダリア

 『ダリア』(dahlia)の名は、スウェーデンの植物学者でリンネの弟子であったアンデシュ・ダール(Anders Dahl)にちなむそうです。
 和名はテンジクボタン(天竺牡丹)といい、牡丹に似ているからだとか。意外にもメキシコ原産。日本には1842年にオランダ人によってもたらされました。

 非常に豪華な花弁をしておりまして、まるで魚の鱗か花火か金細工か……というような規則正しく並んだ美しさ。色

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花留多唄【そ】ソメイヨシノ

花留多唄【そ】ソメイヨシノ

 『ソメイヨシノ』は言わずとしれた桜の代表種。別名は夢見草というそうです。なんて儚くて素敵なんでしょう。
 花言葉も『精神美』『高尚』『心の美しさ』など日本人が桜に重ねてきたものそのものだと思うのです。

 『純潔』『美人』といった花言葉もあります。
 高河ゆんの未完コミック『源氏』の冒頭で、主人公が恋人の『桜』という名の女性に用意していたプレゼントはソメイヨシノでした。結局渡せないまま、物語は動

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花留多唄【せ】ゼラニウム

花留多唄【せ】ゼラニウム

 ゼラニウムの別名は天竺葵(テンジクアオイ)といい、フクロソウ科に属します。
 アロマオイルでは不安やストレスを抱える方に向いているんだとか。
 特に女性特有の更年期障害や月経による不調からくるストレスにおすすめらしいです。
 そのせいか、花言葉には『愛情』『真の友情』『慰め』『君ありて幸福』といった優しい言葉がたくさんあります。

 面白いのはそれだけじゃなく『上流気取り』だとか『愚かさ』なんて

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花留多唄【す】スイートピー

花留多唄【す】スイートピー

 スイートピーの別名は麝香豌豆(じゃこうえんどう)や、香豌豆(かおりえんどう)そして麝香連理草(じゃこうれんりそう)といいます。
 麝香はジャコウジカという鹿のオスから得る分泌物を乾燥させた香料もしくは生薬のことで、ムスクとも呼ばれます。日本の一般医薬品の強心剤には大抵入っているかと思います。

 とにかく別名すべてに香りとつくんですね。そもそもスイートピーも英語で「香りのいい豆」という意味ですか

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花留多唄【し】シンビジウム

花留多唄【し】シンビジウム

 『シンビジウム』は最もポピュラーな洋ランなんだとか。パソコンで画像検索すると、なんとも華やかな画面でいっぱいになります。

 ランの種類は本当に豊富で、観賞用として人気が高いですね。その花言葉も『高貴な美人』『華やかな恋』『壮麗』『深窓の麗人』など華麗なものが多く、ラグジュアリーといいますか、絢爛豪華な姿ですね。

 栽培そのものは難しくないそうなんですが、花をつけるのが大変だそうです。気まぐれ

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花留多唄【け】ケシ

花留多唄【け】ケシ

 ケシの別名はポピーです。ケシの仲間には栽培が禁止されている種もありますが、ポピーはヒナゲシとも呼ぶそうで。

 アグネス・チャンの『ひなげしの花』という歌がありましたね。ケシの花言葉『慰め』にふさわしい歌詞です。もっとも、花言葉には他にも『恋の予感』『いたわり』というものもありますから、希望が見えますけれど。

 さて、私はケシで思い出すのがバウム著『オズの魔法使い』です。
 カンザスから竜巻で

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花留多唄【く】グラジオラス

花留多唄【く】グラジオラス

 『グラジオラス』という名前は古代ローマの剣グラディウスに由来しています。花よりも葉がそっくりなんだとか。そのせいか、花言葉にも『勝利』『尚武』『武装の準備ができた』という勇ましいものが目立ちます。

 『密会』『忍び逢い』『忘却』『準備』という花言葉もありますが、どうしてでしょうね。いかにも球根っぽいなぁとは思いますが。

 以前、借家に住んでいたときのこと。
 初めての夏になると、玄関までの石

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花留多唄【き】菊

花留多唄【き】菊

 『菊』といえば皇室の御紋であり、日本の国花の一つです。それだけに花言葉も『高貴』『高尚』『清浄』といった立派なものです。

 古くは『日本書紀』に登場する菊理媛神(ククリヒメのカミ)の名にもあります。
 この神はイザナギが死んだイザナミに会いにいった際、口論を取り持ったとされます。結局、イザナギは変わり果てたイザナミと袂を分かつわけですが。
 なんだか神産みの神話は菊の花言葉である『破れた恋』『

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花留多唄【か】カスミソウ

花留多唄【か】カスミソウ

 カスミソウはその名の通り、花束に加わるだけで霞のごとく全体的にほわっと広がりを生み出すものです。

 以前、自分の短編小説にカスミソウのような女性という設定の人物を登場させたことがありました。
 普段はそばにいることが自然すぎてわからないけれど、いざ失ったときにその存在の大きさがまざまざわかるような女性。それが私にとってカスミソウそのもののイメージでもあります。

 カスミソウだけで主役になるこ

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花留多唄【お】鬼百合

花留多唄【お】鬼百合

 目の覚めるような鮮やかな橙色に黒い斑点という、なんとも印象的な百合です。
 聖書に出てくる白百合とはまた違い、毒々しいまでの鮮やかな色合いです。

 祖父母の庭に鬼百合がありました。庭木の手前にすっと立ちはだかるように咲くのです。

 キノコも虫もけばけばしい色のものほど毒性が強いイメージのせいでしょうか、なんだか触れたら恐ろしいことが起こるのではないかとびくびくしたものです。
 鬼百合がまるで

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花留多唄【え】エリカ

花留多唄【え】エリカ

 『エリカ』の別名はヒースというそうです。どうも私にはヒースという呼び名の方が馴染み深く感じます。

 というのも、ヒースと聞くとバーネットの小説『秘密の花園』を思い出すからなんです。

 主人公は我がままで気難しいメアリー・レノックスという少女です。両親がコレラで急逝し使用人も逃げた無人の屋敷で、取り残されたところを発見されます。
 そのとき、「呼んだのにどうして誰も来ないの」とかんしゃくを起こ

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花留多唄【う】梅

花留多唄【う】梅

 梅といえば思い出すのはこの短歌です。

『東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主なしとて春を忘るな』

 出典は拾遺集、詠んだのは菅原道真ですね。

 身分が低いながらも学問に秀でていたため右大臣まで出世した道真ですが、それを左大臣の藤原時平に妬まれ、あらぬ罪で大宰府に左遷させられます。そのときに京都の自宅、紅梅殿の梅を思い詠んだそうです。
 この梅は主を慕って太宰府へ飛んでいったという『飛び梅』伝

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花留多唄【い】いちご

花留多唄【い】いちご

 『いちご』の花は白くて可憐なもの。私たちが食べる部分は果実ではなく、花托と呼ばれる部分なのだそうです。

 以前、一緒に働いていたパートさんで仲の良い女性がいました。
 安定した職業の夫を持ち、子宝にも恵まれ、家族仲良く新築の家に住み……という絵に描いたような幸せそうな姿。

 彼女のお宅に招待されたとき、庭の一角に案内してくれました。
 そこは一面のいちご畑。真っ赤な実が鈴なりになっています。

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