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花留多唄【そ】ソメイヨシノ

 『ソメイヨシノ』は言わずとしれた桜の代表種。別名は夢見草というそうです。なんて儚くて素敵なんでしょう。
 花言葉も『精神美』『高尚』『心の美しさ』など日本人が桜に重ねてきたものそのものだと思うのです。

 『純潔』『美人』といった花言葉もあります。
 高河ゆんの未完コミック『源氏』の冒頭で、主人公が恋人の『桜』という名の女性に用意していたプレゼントはソメイヨシノでした。結局渡せないまま、物語は動き出すわけですが。
 その恋人は実に気高く、花言葉の通り『優れた美人』でしたが、記憶をなくしてしまいます。そう、花言葉には『私を忘れないで』というものもあるんですが、その通りになっているのが面白いですね。願わくば完結して欲しい作品です。

 さて、童話の世界にもソメイヨシノは咲きます。安房直子著『花びらづくし』という作品です。
 年に一度、山の人間だけが招待される『さくら屋』という不思議な店のお話。
 そこでは100円まで使えるのですが、商品は全て桜で出来ています。首飾りや腕輪、花びらを染めぬいたハンカチ、花びらゼリーにさくらのおすし。

 安房直子のすごいところは色彩の鮮やかさと共に、どこかに怖さや残酷さを漂わせて世界観をきゅっと引き締めるところ。この物語も単なる桜色の物語ではありません。

 そう、桜ってどこか怖いですね。梶井基次郎の短編小説『櫻の樹の下には』のイメージでしょうか。人を惑わせるような、儚いような、すうっと背筋が冷たくなるものを抱えているようにも見えます。

 そうかと思えば、柔らかく慰めるように散る花びら。そこに青春や淡い恋、出逢いと別れを重ねる人もいるのでしょう。いろんな人の想いを重ねて散り、空を、大地を染める花。なんとも物語のある花です。

文字札:そこに散る想い

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