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【ショートショート】グミ

「ただいま」
 私はリビングのソファに腰かけ、テレビをつけた。
「お、グミか。懐かしいな」
 ローテーブルの上にあった袋をあけると、なかに入っていた細長いグミをいくつか取り出して口に含んだ。
 そのままニュースを見ていると、階段から降りてきた息子が私の姿を見て、
「ひっ」
 と叫んだ。
「おとうさんがグミを食べた-」
 シャワーを浴びていた妻もやってきて、
「なんてことをするの」
 と鬼の形相になった。
 妻と息子から指摘され、袋をよく見ると、ブロックグミと書いてあった。そういえば、このグミ、表面にポッチがついている。食べ物をおもちゃにするのはどうかと思ったが、ふたりはたいそうな剣幕だ。
「わかったよ。明日買ってくるから」
「そんなに簡単なものじゃないのよ。これは原宿店だけで売ってるスペシャルバージョンなんですから」
「そんな面倒なの」
「コンビニやスーパーじゃ、正方形のブロックしか手に入らないのよ。色の種類も少ないし」
 なんでも、本店は創業の地である埼玉県の山奥にあるという。
 お詫びのため、次の日曜日、車を出した。のどかな田園風景が、山道に入ってから一変した。数時間続く渋滞である。
 やがてディズニーランドみたいな建物が見えてきた。
 息子には「お菓子の家を買って」とせがまれた。本店でしか売っていないそうだ。私は値段を聞いて卒倒しそうになった。十三万円!
 ふたりの形相に負けて十二回払いで購入し、段ボールの箱をいくつも車に積み込んで帰宅した。
 それ以来、息子はリビングに作ったお菓子の家で暮らしている。

(了)

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