【ショートショート】見守りカーディガン
朝昼の寒暖差が激しい。
アリサはブティックでカーディガンを見繕っていた。
「なにかおすすめはある?」
と聞くと、店員は待ってましたというように、ピンクのカーディガンを取り出した。
「こちら、デザインもさることながら、AI機能を搭載した最新のカーディガンとなります。体温を感知して、自動的に着脱するんですよ」
「それは便利だわ」
効果はすぐに確認できた。
次の日、朝は十二度だったのに、午後には二十度に達した。建物の外に出ると同時に体温が上昇する。
カーディガンはすばやくその変化を察知し、アリサの身体から外れ、しゅるりと縮小すると、鞄のなかに潜り込んだ。
「賢いわね」
アリサは感心しながら、午後の仕事をこなす。
夜になると、また気温が低下してきた。
カーディガンが自動的に上半身を覆う。
アリサはちょうど合コンに向かっているところだ。女性はアリサと彼女の同僚ふたり、男性は関連会社の社員だという触れ込みである。
六人は酒場で乾杯した。
自己紹介から始まり、和やかな雰囲気。
三杯目のカシス・オレンジを飲んでから、アリサの様子がおかしくなった。カーディガンは血液検査の結果から、睡眠薬の存在を感知。警察と自宅に警報を出す。
ふらふらしているアリサの肩を抱こうとして、男はびくっとした。
感触が鉄のように硬かったからだ。
じつはカーディガンが硬度を高めていたのだが、男は勘違いして、
「こいつ、アンドロイドだっ」
と叫んだ。
「なんだと」
「罠か」
男たちが立ち上がると同時に警察官がやってきた。アリサの両親も駆けつける。
あたりが騒然とするなか、アリサは眠りに落ちた。
「きさまら、なにをした」
「酒を押収しろ」
男たちはその場で緊急逮捕された。
「AIカーディガン、犯罪を未然に防ぐ」というニュースが流れ、同じ型のカーディガンはバカ売れしたそうである。もっとも、アリサは両親にさんざん叱られたのだが。
(了)
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