【ショートショート】お気に入り
夢の中で髑髏がかたかた笑うのである。
毎日だ。
「あなたはどなたですか」
と夢のなかで聞いてみたが、返事はない。髑髏はかたかたと笑うばかりだ。
三十五坪の一軒家、3000万円は安いと思ったのだが、やはりこういう罠があったか。
あまり想像したくはないが、きっとこの家の地中深くに頭蓋骨が眠っているにちがいない。
私は床を剥がし、スコップで地面を掘り始めた。
小さな庭に土を積み上げ、寝室のあたりをひたすら掘り進んでいった。
地下二メートルあたりまで発掘したとき、なにがコツッと音をたてた。注意深くあたりを掘ると、みごとな頭蓋骨が出てきた。
やった。
私は丁寧に布で包み、どこへ持っていこうかと考えた。警察かお寺か。
とりあえず、警察へ持っていった。
次の日、警察官が飛んできた。
「あれはなんですか」
「頭蓋骨です」
「わかってます。留置場に留めた人が、髑髏の夢をみて大変なことになってます」
「うちはずっとそうだったんです」
「わかっていて、持ち込んだんですね」
警察官は恨みがましい目つきで睨んできた。宿直だったのかもしれない。
警察は髑髏を調査したが、古すぎてどうにもならなかった。
「引き取ってもらえますか」
「とんでもない。私にはなんの関係もない髑髏です」
「うちにも関係ありません」
押し問答となった。結局、髑髏は無縁仏として自治体が埋葬した。当然の流れだろう。
しかし、髑髏にとって、この処置はよろしくなかった。出現する場所がなくなって、不満が溜まったらしい。
結局、古巣である私の夢に戻ってきた。
ひさしぶりというように、かたかた笑う。
困ったなあ。懐かれてしまったよ。
(了)
ここから先は
朗読用ショートショート
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。