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【ショートショート】動かない女

 ぼくはその日、十時過ぎの地下鉄に乗った。右肩が重くなった。女性の頭がぼくの肩に寄りかかっている。
 終着駅に到着したので降りようとしたが、目覚めない。
「ちょっと」
 声をかけたが、反応がない。
 ぼくが立ち上がると、娘はずるずると倒れた。
 背中から出たコードが足下のハブににつながっている。
「最近、多いのよね」
 と隣の女が言った。
 ぼくは女性を背負い、駅員室に運んだ。
「断線してますね」
 駅員はスマホでケーブルコネクタを撮影して拡大した。
「片方は汎用ですが、もう片方はなかなか手に入らないやつです」
「どうするんですか」
「いちおう、注文はしてみますが……」
 と言って、駅員は裏口を開けた。
 たくさんの人が無造作に積み上げられている。ぞっとした。
 ぼくは自分のリュックから予備のコードを取り出した。
「これではダメですか」
「お、いけるかも」
 駅員は新しいコードをつなぎ、充電を始めた。ぼくは自分のバッテリー残量を確認してから会社に向かった。

(了)

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