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【ショートショート】宇宙蚤の市

「もし、旅のお方」
 と小さな旅館の女将に声をかけられた。
「街中の旅館は、もう人でいっぱいですよ」
「なにかあるのかい」
「明日から中央市場で蚤の市が始まるので、宿はどこも満員です。ちょっと距離はありますが、うちに泊まってはどうですか」
「そうしよう」
 私と下僕のケンタは案内された部屋に入った。ケンタはすかさず部屋の隅に設置されたコンセントに予備バッテリーをつないで充電を開始し、私の内蔵バッテリーにも充電を行う。足、腰のセンサーをチェックし、必要なら細かいパーツを交換。予備のないものは油で磨いて元に戻す。
「デフラグはいかがいたしましょうか」
「そうだな。時間もあることだたし、やっておくか」
 ケンタが操作を行い、私はひさしぶりに意識を失った。
 翌日。賑やかな蚤の市に足を踏み入れた。ロボット向け、人向け、高知能ペット向けにありとあらゆる商品が並んでいる。私は絨毯の上に並んだ古物をじっくり眺め、時代ものの大きなランプを見つけた。ケンタに磨かせれば、見違えるように美しくなるだろう。旅の途中でなければ買うのだがなあ。ケンタひとりに担がせるのはちょっと酷だ。
「あ」
 とケンタが叫んだ。
 人間の女がいる。商品だ。後ろにいるのは奴隷商人か。
 ケンタは私に理解できない人間語でさかんに話していたが、私のほうを振り返り、
「この女はヒマワリと言います。私と同じ村の出身です。奴隷商人に売られてしまったようです。なんとか助けてやることはできないでしょうか」
 と言った。
「ふむ。おまえのたっての頼みだ」
 私は商人と交渉し、200トークンでヒマワリを買い取った。
 下僕がふたりに増えてしまったが、なあに、ヒマワリは妻のマーガレットのお付きにすれば問題ないだろう。
「おまえたちは親しいのか」
 ケンタはもじもじした。ははあ、そういうことか。
 これからは宿でふたつの部屋を取らねばならぬなあ。
 ケンタとマーガレットのふたり交互なら担いでもいいかもしれないと思い返し、私は捨て値で大きなランプも一緒に購入した。
 私たちはなおも旅を続けた。購入したランプは次の宿でどうしてもと望まれて稀少なカセットデッキと交換した。カセットデッキは貴族ロボットに望まれてクラッシックカーと交換した。どんどん交換してしているうちに、ついに小型宇宙船になってしまった。
 帰路は一瞬だった。
「私の故郷の言葉でこういうのをわらしべ長者というのです」
 とケンタは言った。

(了)

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