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【ショートショート】店の名はバード

 オレは、経営するバーの止まり木を自然の横木に改装した。
 人間は来なくなったが、そのかわり、コツコツとドアをノックする音が増えた。
 貧乏な人間を相手にしているより、富裕な鳥を相手にしているほうがマシだ。
 鳥たちは人の言葉を理解するし、流暢に喋るものもいる。
 鶏のケンさんが入ってきて、止まり木の右端に止まった。
 オレはいつものダブルを出した。
「どうです、奥様の具合」
 ケンさんは首を突き出し、
「変わりないねえ」
 と言った。
 妻が文京区の病院に入院しており、栃木県から毎週見舞いにやってくるのだ。
「免疫系の病気だから、そう簡単にはねえ」
「たいへんですね」
「鳥専門の病院は少ないから、入院させてもらえるだけでありがたい」
 とケンさんは言った。
 乱暴にドアを開け、人間が三人入ってきた。なんのつもりか警棒を持っている。
「見回りだ。こら、鳥ども。呑気に酒なんか飲んでいるんじゃねえ。とっとと出ていかないと」
「やめてくださいよ。迷惑なのはあんた方だ」
「なんだと。ふざけたことを言ってると」
 真ん中でしずかにバーボンを飲んでいたスズキさんがぼそっと、
「うるせえな」
 とつぶやいた。
 つやつやと黒光りした大きな身体のカラスである。
 バサバサバサ。
 五、六羽のカラスが店に飛びこんできて、無礼者をつつき始めた。
「あいてて」
「目ん玉ひっこ抜いてやれ」
「ひゃあ」
 三人組はあわてて逃げ出した。
「邪魔したな」
 スズキさんは、代金を置いて出ていった。
 店に静穏が戻った。
「マイルスでもかけましょうか」
 とオレは言った。

(了)

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