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【ショートショート】巨大猫

 前に飼っていた猫が亡くなってから半年。
 妻が新しい猫をもらってきた。
 今度は雄の赤ちゃんで、茶トラだ。毛並みがとても美しい。
 猫の成長は早い。半年もすればもう大人だ。
 つい先日まで掌に乗っていたと思うのに、もういまでは本棚の上やカーテンレールの上を歩いて、私たちを見おろして威張っている。
 五年たった。
 我が家の猫はまだ成長を続けている。体長は三メートルくらい。
 リビングの床にのび、だらんと身体をひろげるとまるでペルシア絨毯である。
 私も妻もよく猫の上で昼寝をしている。
「にゃあ」
「鳴いてるよ」
「水じゃない。もうご飯はあげたし」
「そうか」
 私は立ち上がり、バケツに水を酌んできた。猫の水皿にドバドバと注ぐ。
 ひとしきり、ぴちゃぴちゃという音が響いた。
 満足したのか、
「ふはー」
 と息を吐いて、猫はまたうとうとし始めた。
 十年後。
 とうとう狭い戸建てに収まりきらなくなったので、郊外に大きな家を建てた。
 このまま、いつまで飼い続けることができるやら。
 私の予感では、この猫は死なないような気がするのである。
 私たちがこの世から消えても猫は成長を続け、やがて町よりも大きくなるだろう。
「そこに暮らす人間はノミだね」
 と私たちは笑った。

(了)

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