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【ショートショート】青空町のゴロウ

 縁側から凪の海が見える。
 ちゃぶ台の上にはレトロなラジオがひとつ。
 サブロウじいさんは、座椅子に座り、孫のゴロウがプレゼントしてくれたラジオのスイッチを入れた。
 デューク・エイセスの「筑波山麓男声合唱団」が流れてきた。カエルの歌である。じいさんはちょっと笑う。
「ケロケロケロ」
 と声を合わせていると、
「では、ここでリスナーからのお便りです」
 とパーソナリティーが言った。
「ラジオネーム「青空町のゴロウ」さんからのお便りです。おはよう! じいちゃん、元気? もう朝ご飯、食べた?」
「おお、ゴロウか。飯はまだだよ」
 青空町は息子と嫁と孫が住む町だ。ここからはずいぶん離れている。
「いいご飯のおともをみつけたんだ。いまから送るね」
「いつもありがとうよ」
 じいさんはちょっと惚けているので、自分がラジオと会話している奇妙さに気づいていない。
 デューク・エイセスの続きを聴いていると、縁側にドローンの出前が着地した。
 箱から取り出してみると、ごはん、お茶、焼き鮭、海苔の佃煮が並んだ。
「おお、こりゃうまそうだ」
 じいさんの息子、ケンイチはここ何年か、じいさんにスマホを持たせようと思って苦労したが、いくら教えても、
「わからん!」
 と投げ出してしまった。
 それを拾って、古物市で探してきたラジオの中に入れたのが、孫のゴロウである。スマホで会話するのを嫌がるじいさんも、ラジオとなら平気で話をする。
 ふだんは昭和歌謡のチャンネルを聴いているが、ここにはよく「青空町のゴロウ」が登場する。
「じいちゃん、おやすみっ」
「ああ、おやすみ」
 今日も穏やかな一日だった。

(了)

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