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【ショートショート】旅の不思議

 まなじりを決した侍がふたり、ススキ野に入ってきた。
 入口のあたりで茅を刈っていた百姓の権兵衛が顔を上げて、
「お侍様がた」
 と呼びかけた。
「なんだ」
 若いほうの侍が振り返る。
「このあたりは奇怪ヶ原と呼ばれております。深くお入りになって、戻れなくなる方が多うごございます」
「なにをバカな。一本道ではないか」
 ふたりはずんずんとそのままススキ野のなかに足を踏み入れていった。
 すこし開けた場所に出る。
「ここらでいいか」
 剣客風のしぶい男性が立ち止まると、ふたりはばっと分かれて距離を取った。
 名乗りを上げ、遺恨を告げると、果たし合いが始まる。
 打ち合うこと数合、肩から背中にかけ、ずばりと切り裂かれて、若侍は倒れた。
 刀をしまうと、壮年の侍はゆっくりと歩き出した。
 だが、いつまでたっても、ススキ野から出られない。
 数日後、侍の見たものは、自分が切って捨てた若侍の屍である。
「そんなバカな」
 それから、道を逆にたどってみたり、ススキ野のなかに分け入ったりしてみたが、どうしても奇怪ヶ原から出ることができない。
 とうとう力尽きて倒れた。
 そんなことがあってから半月後、高僧が通りかかった。
 権兵衛は同じことを告げた。
 高僧はうなずくと、道を進んでいった。白骨がふたつ折り重なるように倒れていた。
 その回りのススキは真っ赤に染まっている。
 高僧がお経を唱えると、道がさあっと開いた。

(了)

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