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【ショートショート】遠距離デート

「いい天気だね」
 と私は言った。
「うん。出発しよう」
 とユウ君はいい、アクセルを踏んだ。
 ソーラーパネルの電気で動くEV車だ。本体価格二万円なので、蓄電池はごく小さなものしか搭載していない。
 最高速度は五十キロメートル。
 海辺にある水族館を目指すのはこれで三度目である。
 途中で曇り空になると、車はトロトロ運転しかできなくなり、やがて止まってしまう。
 今までは、
「仕方ないね」
 といって途中で引き返していた。
「今日は調子いいなあ」
「水族館まで行けるといいね」
 到着した。
 ペンギンも観たし、イルカショーも堪能した。
 近場のデートもいいけど、遠距離だとテンションが上がる。
 私たちは海鮮丼を食べて、帰路についた。
 私はずっと空を見あげていた。黒い雲が遠くに見えている。
「こっちに来るな来るな」
 と心の中で唱えていたが、残念ながらあたりは薄暗くなってきた。
 ちょっとでも電気を持たせたいので、ユウ君はラジオも止めた。
「どう?」
「速度が落ちてきた」
 あと一キロくらいというところでついに車は止まった。
 私は、
「押そうか」
 と聞いた。
「悪いね」
 回りの車からも続々とドライバーが出てきて、車を押し始めた。
 ひとりでも押せるくらい軽いから、二人ならラクラクだ。私たちは、二十分もたたないうちにユウ君の家のガレージまでたどり着いた。
「最後まで走れなくてごめん」
「うんうん。楽しかったよ!」
 念願の水族館に行けて私は満足だった。

(了)

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