見出し画像

【ショートショート】水枕

「あなたあなた」
「なんだい」
「水枕をもってきて」
「どこにあるんだ」
「冷凍庫の中。凍っているのがあるとおもう」
 持ってくると、妻は枕と後頭部の間に氷枕を差し入れた。
「あー、楽」
 水蒸気が立ち上っている。どれだけの熱があるんだ。
「体温はかった?」
「頭だけ熱いの。あ、触らないほうがいいわよ。火傷する」
「救急車呼ぼうか」
「大丈夫よ。いつもの知恵熱だから」
 固かった枕がすぐにくにゃっとした。お湯枕だ。
「大変だ。とりかえてくる」
 お湯を捨て、水を入れる。
 妻は目を閉じ、顔をしかめている。
 何度も繰り返しているうちに朝になった。私がほんのすこしうとうとした隙に知恵熱は収まったらしい。
「終わった」
 妻は頭に刺さっていたLANケーブルを抜き取った。

(了)

目次 

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。