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【ショートショート】濡れない方法

 彼女と公園に花見に来た。
 空は薄曇りというより黒雲に近い。
「梅は天気がよくなくても風情があるね」
 と坂道を歩きながら彼女がいう。
「あ、このあたり」
 私は梅を写真に撮りながら答えた。
「なに?」
「紅白の梅が交じり合ってていい感じ。写真を撮ろう」
 彼女はマスクを外してポーズをとった。何枚か撮影したところで、ぽつ、ときた。
 地面がみるみるうちに黒く染みていく。
 私はあわててリュックから折り畳み傘を取り出した。
「たいへんたいへん。服が濡れちゃう」
 横をみると、彼女が上着を脱いでいる。そのままジーンズも脱ぎ、下着にまで手をかけた。
「おい、なにしてるんだよ」
「えっ」
 と彼女は私の顔をみた。
「雨だから服をしまっているんだよ」
「意味がわからない」
「私は防水加工しているからいくら濡れても平気だけど、服は防水じゃないから」
 まわりを見回すと、老いも若きも、バタバタと服を脱いでバッグやリュックにしまっている。銭湯みたいな光景だ。
 私だけがぽつんと黒傘をさしている。
 自然と声が小さくなった。
「ほんとに大丈夫なの」
「平気だよ」
 彼女の髪に触れてみた。たしかに濡れていない。きれいに撥水している。
 裸の彼女とざあざあ降りの道を歩き、バスに乗った。
 混雑している車内で服を着ているのは私だけだった。

(了)

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