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【ショートショート】夜のお勤め

 深夜、キタムラが墓場に到着すると、弟はホッとした顔をした。
「交代だ。大丈夫だったか」
「ああ。なんもねえ」
「腹減ったろ」
 キタムラは弟にサンドイッチを渡した。
「ありがてえ」
 弟は包装を破りながら墓場をあとにした。
 キタムラ家の墓は、六坪ほどの大きな地面にぽつんと建っていて、まわりに砂利が敷き詰められている。いかにもゾンビが好みそうな墓であった。
 右隣はモリヤマ家の墓、左隣はサトウ家の墓である。それぞれの家の墓守とはお互いに顔見知りであった。
 キタムラは持って来たランプを地面に置き、椅子に腰を下ろした。朝まで長い時間を無為に過ごさねばならぬ。
 この墓場からゾンビが出たことはなかった。しかし、最初の一匹を見逃せば、村はあっと言う間にゾンビ化する。
 これまで県内で三件のゾンビ発生が確認されている。二件はその場で処理された。一件は拡大し、鎮圧のため自衛隊が投入された。明言されていないが、村は消滅したはずだ。
 丑三つ時、キタムラは何杯か飲んだコーヒーのせいで、強い尿意を感じた。モリヤマとサトウに後を託して、トイレに向かう。
 あぶなかった。キタムラが小便器に向かったとき、後ろの扉が開いて、ゾンビが飛び出してきたのだ。
「ゾンビだ」
 キタムラは叫び、トイレからまろび出た。
 武器をもった村人が集まってきた。
 ゾンビは数時間前に別れたはずの弟であった。どこでやられたものか、目が赤く光り、骨格が一変していた。
 いくつもの銃弾が弟の身体を貫いた。ゾンビとなった弟は痛みを感じていない様子だ。キタムラはナイフで首を掻き切った。モリヤマが斧で首を打ち落とした。
 弟はようやく動きを止めた。
 村はゾンビが発生したことで、県警の厳重な警戒下に入った。
 モリヤマはホッとした。毎晩の辛い勤めから解放されたのである。

(了)

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