見出し画像

【ショートショート】想像力

「校庭にセンターラインがあると想像してみろ」
 と体育の教師が言った。
 うちの高校のグラウンドは計ったような長方形をしている。
 真ん中に白いラインがあると思い描くことは難しくない。
「さあ、センターラインに移動するぞ」
 と教師が命令する。
 ぼくはスタスタと中央付近に歩いて行った。クラスのみんなも付いてくる。
「ラインの左右に五十センチずつの道を思い描け。その外は谷底だ。険しい崖だ。落ちると死ぬぞ」
 三十人ほどの生徒がまっすぐに並んだ。なかにはガクガク震えている生徒もいる。隣の女生徒は顔色が蒼ざめ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「おい、大丈夫だって。ただの空想なんだから」
 と声をかけみたが、身体の震えが止まらない。
「さあ、向こうの端まで歩け」
 空想のなかとはいえ、道幅は一メートル。楽勝ではないか。
「今度は半分。道幅は五十センチだ」
 先生はどんどんハードルを上げてくる。ぼくもとうとう幻覚にとらわれた。視線の先に山の尾根が見える。細長い土の道だ。左右にはなにもない。
 あ。
 右足が岩につまづいた。
 身体が空中に飛び出す。
 はるかかなたに川底らしきものが見えた。
 パン、と大きな音がした。
 体育教師が手を叩いたのだ。
 グラウンドには、ぼくも含め、生徒たちがあちこちに散らばってのびていた。

(了)

 目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

97,043件

#眠れない夜に

69,749件

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。