![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119962882/rectangle_large_type_2_8aeae547f2a6ee83fce0ed9981c631ce.png?width=800)
Photo by
maverick62
【ショートショート】想像力
「校庭にセンターラインがあると想像してみろ」
と体育の教師が言った。
うちの高校のグラウンドは計ったような長方形をしている。
真ん中に白いラインがあると思い描くことは難しくない。
「さあ、センターラインに移動するぞ」
と教師が命令する。
ぼくはスタスタと中央付近に歩いて行った。クラスのみんなも付いてくる。
「ラインの左右に五十センチずつの道を思い描け。その外は谷底だ。険しい崖だ。落ちると死ぬぞ」
三十人ほどの生徒がまっすぐに並んだ。なかにはガクガク震えている生徒もいる。隣の女生徒は顔色が蒼ざめ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「おい、大丈夫だって。ただの空想なんだから」
と声をかけみたが、身体の震えが止まらない。
「さあ、向こうの端まで歩け」
空想のなかとはいえ、道幅は一メートル。楽勝ではないか。
「今度は半分。道幅は五十センチだ」
先生はどんどんハードルを上げてくる。ぼくもとうとう幻覚にとらわれた。視線の先に山の尾根が見える。細長い土の道だ。左右にはなにもない。
あ。
右足が岩につまづいた。
身体が空中に飛び出す。
はるかかなたに川底らしきものが見えた。
パン、と大きな音がした。
体育教師が手を叩いたのだ。
グラウンドには、ぼくも含め、生徒たちがあちこちに散らばってのびていた。
(了)
ここから先は
0字
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2631/profile_0442fbe1840df3955cb8f5545730f4d2.jpg?fit=bounds&format=jpeg&quality=85&width=330)
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。