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【ショートショート】BB

 子どもたちが教室の前に集まってきた。
 眼鏡をかけた男性はPTAの朗読ボランティアだ。彼は子どもたちを見回し、あたりが静かになったことを確認すると、口を開いた。
「MKS、MKS」
 子どもたちの頭の上にはてなが浮かんだ。
 横にいた担任の先生が通訳する。
「むかしむかし」
「ATN」
「あるところに」
「OTOがいました」
「おじいさんとおばあさん」
 サッちゃんが叫ぶ。
「正解っ」
「OYS、OKS」
「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました」
「DD」
「どんぶらこどんぶらこ」
 今度は山本君が叫ぶ。
「OOMK」
「おばあさんは大きな桃を持って帰ってきました」
「MOA!」
「桃から大きな赤ん坊が!」
「SKSKS」
 教室に沈黙が落ちた。
「すくすく育った」
 サッちゃんがおそるおそるたずね、眼鏡の男性はうなずく。
「MOD」
「桃太郎は鬼退治に出かけました」
 と先生。
「MM」
 全員が唱和した。
「めでたしめでたし」
 深くお辞儀をすると、ボランティアの男性は教室を出ていった。
「ねえ、先生」
 とサッちゃんが聞いた。
「あの人、外国の人なの」
「違うよ。あの人は単に省略が好きなだけの、頭文字の人。FTさんだよ」
「え」
「深川岳志さん、略してFTさん」
「略さないで」
「疲れるからもう来てほしくなーい」
 FTさんの評判は散々だ。
「あ、FTさんが手を振ってる」
 サッちゃんが窓の外を指さした。
 みんなは、
「BB」
 と叫んだ。
 FTさんも「BB、BB」と叫び返してきた。

(了)

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