【ショートショート】ブーツ
オレは口がいやしい。そのせいで腹やら尻に脂身がついてしまう。
ある日、彼女が、
「バースディプレゼント」
と言って茶色のブーツをくれた。散歩して痩せろということだろう。
「かっこいいね」
とオレは喜んでみせ、毎日一時間以上散歩するようになった。
ふと気がつくと、くるぶしの上あたりだったはずのブーツの高さが、膝下まで伸びている。成長のエネルギーは余分な脂肪であるらしく、だらしなかった体型がだいぶ締まってきた。
デートの回数が増えた。
「散歩の効果が出てるみたいね」
と彼女はうれしそうに言った。
「ブーツのおかげだな」
「ダイエットにてきめんと書いてあったの」
ブーツはいまや股下まで迫っていた。
いちいち脱ぐのが面倒なので、ブーツを履いたまま飯を喰ったり、ベッドで寝たりするようになった。
一年後。頭のてっぺんまでブーツに覆われた。あいかわらず散歩は続けているが、もはや自分が人間なのかブーツなのか、区別がつかない。
ひさしく顔を見せていなかった彼女が、仲間を引き連れてオレの前にあらわれた。
「あなた、何者なの」
「なに言ってるの。オレはオレだよ」
ひとりが電動鋸を取り出した。
ばりばりばり。ブーツを引き裂く。
なかをのぞき込み、彼らはあっと叫んだ。
「からっぽだ」
オレはすーっと空中に溶け、あとには傷ついた人型ブーツだけが残った。
(了)
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