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【ショートショート】一風呂浴びる

 私はバスターミナルでバスが来るのを待っていた。
 インバウンドが主流産業になるつけ、へんなものがいろいろと登場する。
 「バス・バス」などはその最たるものであろう。
 バスの中が温泉になっているのである。
「都会でも楽しめる移動温泉!」
 というのがうたい文句だ。
 バスの階段を登って天井で料金を支払い、更衣室で裸になって湯に浸かる。
 男風呂、女風呂、混浴湯、選びたい放題である。全国からバス・バスがやってくるので、いろいろな名湯を楽しむことができる。
 日本人にも好評である。
 私のように昼休みにさっと一浴びしたいという需要があるのだ。四十分ほど都内を回って戻ってくる。血行をよくして午後の仕事に向かうのも悪くない。
「ミタさん、温泉に入ってきましたね」
「わかる?」
「体中から湯気が立ってますよ!」
 湯に浸かったあとですぐスーツを着るのはちょっとつらい。今度から会社のロッカーに浴衣を用意しておくことにしよう。
「はい。これ、昼休みのお土産、温泉饅頭」
 私は課員たちに茶色いこぶりな饅頭を渡した。
 バス・バスはちゃっかりお土産スペースまで確保しているのだ。

(了)

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