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【ショートショート】燃える眼

「火事だぁっ」
 とお父さんの怒鳴る声が聞こえた。
「サエコっ、アツヒロ、逃げろっ」
 ぼくはベッドの上でばちっと目が開いた。
 逃げなきゃ。
 とっさに机の上にあったスマホを掴み、部屋を出た。階段にはすでに煙が上がってきている。
 つっかけに足をひっかけて、外に出た。野次馬がたくさん集まっている。
 ぼくはその姿をスマホで撮影した。
 ホームルームの雑談で、担任の先生が「放火魔というのはたいてい野次馬に交じっているんだよ」と言ったのを頭の片隅で覚えていたのだ。
 お父さんとお母さんも間もなく家から出てきた。
 消防車が来た。ぼくたちは家が燃え落ちるのを眺めた。
 翌日、現場検証が行われ、ぼくたち家族もその場に呼ばれた。
 一通りの調査が終わったようなので、
「あのー」
 とぼくは手を挙げ、警察の人に、
「火事をみていた人たちの写真を撮ったんですが」
 と言った。
「お、それはお手柄だ」
 とでっぷり太ったおじさんがぼくの頭をなで、
「そのスマホ、しばらく貸してくれるかな」
 と言った。
 しばらくして放火魔が逮捕された。
 太ったおじさんは鑑識の人だった。ぼくの写真が逮捕の決め手になったと教えてくれた。
「ほら、よく見てごらん」
 三枚目の写真が拡大された。黒いジャージを着た猫背の男の顔をみて、ぼくは驚いた。眼のなかにメラメラと炎が踊っていたのだ。ほかの人の眼にも炎は映っていたが、こんなにくっきりとはしていない。
「放火魔の眼には炎がこんなふうに映るらしいんだよ」
 と鑑識さんは言った。

(了)

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