見出し画像

取った社員と取らせた管理職へのボーナス支給で、男性育休100%を続けるサカタ製作所さん

前回の記事では、長い歴史と伝統のある江崎グリコさんの育休制度について調べてみました。

今回の企業は、地方の小さな町工場、それも従業員の7割が男性。
男性育休からかけ離れたイメージ。
だからこそ、ヒントを探りたくなります。

男性育休の取りやすそうな企業
第6回(全6回の予定)
株式会社サカタ製作所さんです。

残業ゼロ宣言

サカタ製作所さんは、公共施設の波型屋根や家庭用のソーラーパネルを取り付けるための金属の部品を中心に、設計、開発、製造などを手掛けてみえる会社です。
新潟県長岡市にあり、従業員は150名ほどです。

2015年に男性2名が社内初の育休を取得しました。その後の男性育休取得率は、2016年0%、2017年50%、2018年100%、2019年100%と急激な変貌を遂げました。

この急激な変貌には、2014年の残業ゼロ宣言が深く関わっています。
当時、サカタ製作所さんでは、毎月同程度の残業をこなすことで、残業代も含めた収入が定常的に確保されるような働き方になっていました。
いわゆる残業の常態化です。
このような実態のあるなか、年1回従業員全員が集まる集会で、社長は突然、残業ゼロ宣言をしたそうです。

もし、自分の職場で残業ゼロ宣言が突然なされたら、残業をゼロにするために経営者や管理職に何を求めますか。
私なら、やらなくてもよい仕事を具体的に明確にしてもらうことを求めます。
また、やらなければならない仕事を勤務時間内で確保できるように、その他の仕事量を調整してもらいたいです。
そのためには、かなり大掛かりに、今ある業務の仕組みを変更しなければなりません。
仕組みが変わらなければ、どこかで大きなひずみが生じてしまいます。

このように、自分の職場に当てはめて考えてみると、サカタ製作所さんでの突然の残業ゼロ宣言は、かなり無理のあるものだったと想像できます。

社長からの明確な方針と管理職が評価される仕組み

かなり無理のある突然の残業ゼロ宣言。
なぜ、サカタ製作所さんでは、成功したのでしょうか。
それは、社長からの明確な方針が出されたからです。

「就業規則を何回書き変えてもいい。売り上げが落ちてもいい、赤字になっても構わない、納期が間に合わなくてもいい、お客さんの信用をなくしてもそれでもいい。君たちがやらなきゃいけないのはとにかく残業ゼロにすることだ。」
(エヌエヌ生命保険株式会社「ホワイト企業「サカタ製作所」残業ゼロの秘密」より)

そして、残業の削減ができたかを評価されるのは、管理職と設定しました。
すると、管理職が先頭に立ち、残業ゼロに向けた取り組みが開始されました。
残業の原因が取引先にある場合には、管理職が取引先と交渉して残業しなくてもよい状況を作り出しました。
同時に、業務内容を見直したり、時差出勤も取り入れたりしました。

管理職が評価される仕組みにしたところが、残業ゼロへの強い方向付けがなされたところだと感じます。
よくあるのは、次のようなパターンではないでしょうか。
トップが方針を打ち出す。
打ち出された方針の実現方法は、現場の一人ひとり、または小さなチームや係に任せ切り。
方針を守れたかを個人の評価項目にし、管理職は個人を管理指導し、守れていない個人の評価を下げる。
このようなパターンだと、失敗しそうな臭いがプンプンします。

削減された残業代を従業員のボーナスとして支給

残業の削減を管理職が評価される仕組みとしたサカタ製作所さんでは、残業ゼロへの取り組みは素早く広まりました。
2014年に月17.6時間だった残業が、2016年に月1.1時間と大幅に減少しました。
結果、年間で約3500万円もの残業代が削減され、その全額を従業員にボーナスとして支給しました。
従業員が150人ほどですので、平均23万円のボーナスアップです。
決断したことを即時に方針として打ち出し、達成する方法を提示する。達成後には、従業員に還元する。本当にすごいことです。

育休でも管理職を評価する仕組みとボーナス支給

残業ゼロへのとてつもなく大きな取り組みを背景に、男性の育休取得100%を達成。

初めに、男性が育休を取得できない状況の把握に努めました。
アンケートだけではなく、女性担当者による徹底的なヒアリングです。
育休を取得したいのにできない要因として「自分の仕事が忙しい」「みんなに迷惑がかかる」などの休めない雰囲気、「収入減で生活できない」「育休取得で評価が下がる」などの様々な不安があることを突き止めます。

続いて、社長から明確な方針が打ち出されました。
育休を取得した従業員と育休を取得させた管理職を高く評価するとの方針です。
高く評価するというのは、特別ボーナスの支給です。

そして、男性が育休を取得しやすくなるための仕組みを構築しました。
取締役から、直属の上司と本人への育休取得の説得。
育休・短時間勤務など制度の詳細な説明。
具体的な業務の引き継き方法の提示。
給与と給付金のシミュレーションデータの提示。

他にも、社内報で育児に関する情報を細かく掲載するようにしたり、イクメン、イクボスを表彰したりする取り組みも行いました。

サカタ製作所さんの取り組みの特徴

第一に、社長からの育休取得のメッセージが強い点です。
全従業員がいる前で、定期的に、目の前で声に出して発信しています。

第二に、取得したいと思っている従業員からの申請ではなく、会社側からのアプローチで始まる点です。
会社側からのアプローチにより、育休取得が当たり前の雰囲気が作られます。

第三に、従業員の気持ちに寄り添った関わり合いです。この寄り添った関わりにより、育休取得による不安が払拭されることになります。

第四に、育休取得した従業員やその管理職への高い評価です。社内報や表彰などだけではなく、ボーナスという目で見える形の評価により、評価されていることが伝わります。

サカタ製作所さんは、今後の在り方を決めたら、段階的に近づけるのではなく、初めからその在り方を目指すための環境を設定しています。
必要な環境を徹底的に追求し、環境整備ための改善を繰り返すことで、短期間で軌道に乗せることに成功しています。
見習いたい姿勢です。

男性の育休取得を阻害する要因

サカタ製作所さんの取り組みから、男性の育休取得を阻害する大きな要因が見えてきました。
それは、業務の属人化です。
小さな組織、異動の少ない組織では、業務が属人化しやすくなります。この人でないとやれないと思っている仕事。
この人に任せておけば何とか回してくれるという雰囲気。

私の職場でも属人化してます。
属人化させた方が、全体はうまく回ると考えてしまってる自分がいます。
簡単な業務であっても、長期間、固定化している業務を属人化とみなすならば、たくさんの業務が属人化しています。

サカタ製作所さんでは、残業ゼロ、男性育休推進の取り組みにおいて、この属人化を見直しました。
見直す方法はいたってシンプルです。
1日を振り返って、15分ごとに自分が何をやっていたのかをすべて書き出したのです。
1年間、この書き出しを続けました。
書き出されたデータと業務内容を規定している文書と照らし合わせ、業務の目的、業務にかける人数、担当する部署などを見直していきました。
見直していけば、明らかになります。
その人でないとできない仕事などないということが。

もしかすると、男性には、自分の担っている業務が自分にしかできないものだと認識したい欲求があるかもしれません。
この欲求が、育休取得を阻む本当の要因でしょうか。

いつも読んでくださってありがとうございます。 もしよかったら、もう少し私のnoteにお付き合いくださいませ💘 【全記事一覧】 https://note.com/fujiwaratakahiro/n/nd102e99cfc35