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『ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか』を読んで

先日読んだ、『ドイツのスポーツ都市』を読んで興味深いな〜って感想を書いて、著者のSNSをたどっていったらタイミングよく最新刊が出るじゃないか!ってことで早速読んでみました。

ドイツはフライブルクの街づくりや、住宅街を子どものための遊び場にする取り組みがあったりと参考にすべき事例があるのを知っているので、今回もとても興味深く読みました。

何より大切なのは著者も冒頭で述べているけど、
(以下引用)

「読者の中には、ドイツが素晴らしい国に見えてくる方もいるかもしれません。しかし、実際には問題もあるし、日本に右から左へコピーできるものでもない。ただ他国のスポーツの構造を見ることで、日本の問題を議論するために刺激にはなる。そのように使っていただけると本望です。」

とある。
おっしゃる通り、礼賛か否定かという極端な話でなくこういう方法や取り組みがあった素晴らしいね。いいところは学び日本式に取り入れる。そんなヒントの本だと僕は思っている。

以下、僕が印象的だった部分をいくつか一部引用しながら、ピックアップしていくので、ぜひ参考にして欲しい。

スポーツクラブは共同体に欠かせないリビングスタンダード

スポーツクラブがクラブハウスやレストランを持っているところも多く、そこを活用して地域行事や交流会、歓迎パーティーなどが開かれるそうだ。ここからスポーツクラブが地域の生活に密着していることが伺える。

なお、
ドイツではNPOの数が日本と桁違いに多く、
人口11万件のエアランゲン市に100件のスポーツクラブがあり、
小さな村でも必ずとよって良いほどクラブがある。

こういった施設を持っているスポーツクラブ(日本でいう地域総合型クラブ)は日本でどのくらいあるのだろう。地域に欠かせないものとして地域住民がどの程度投資してこれらを建てているのか、またどのようにして運営費などを捻出しているのか知りたい。

「引退」という概念がなく、誰もが幅広くスポーツを楽しめる

ドイツでは日本の部活のような制度がなく、スポーツをしたいと思ったらスポーツクラブのメンバーになるのが一般的だそうだ。そのため、例えば高校卒業による「引退」という概念がなく、大学に入ってもスポーツクラブにおいて、勉強とバランスをとりながらスポーツを続けるとのこと。

それもあってか「ブライテンシュポルト=幅広いスポーツ」という形で、就学期間を終え、働き始めても気軽にスポーツを楽しめる。

日本で言うと、草野球を楽しむとか、そういった感覚に近いようだ。

自身の目標に応じて、健康管理や仲間とのコミュニケーション、自己研鑽など
それこそ幅広くスポーツを楽しむというあり方だそうな。

「可処分時間」を快適に過ごせる時間作りと「職住近接」

平日夜7時からでもトレーニングが普通に行われるが、これはドイツが日本に比べ労働時間が短く職住近接の成果と言える。

参考:日独の年間労働時間(2017)
日本:1710時間
ドイツ:1356時間

参考:連邦統計局統計(2012)
ドイツの労働人口の70%以上が通勤時間30分足らず、23%が10分未満

補足:ドイツの多くの企業は30日の有給休暇を規定

「公共」に関する捉え方の違い

ドイツにおける「公共」とは「誰にでも開かれている」ことを指す。
自由意志で率先的な活動が誰でも出来るので、創造的空間のようなものだ。

一方で日本における「公共」は逆に「行政的」で国やお上が用意するものであり、主体性を伴わない。

真逆の意味合いを持っている。

われわれ意識

スポーツクラブでは年齢、国籍などで分け隔てることなく付き合う。スポーツクラブはスポーツ活動を共にする仲間であり、こういった人間関係を意識的に作ることで、生活の中に「われわれ意識」を持てる場所を作ることができる。仲間がクラブのために何か貢献したり顕著な働きをすると「われわれの〇〇がこういうことをしてくれた!!」と称え、われわれ意識が持てる環境が身近にあることは、特に外国人や難民などにとっては孤独感や排除された感覚が薄らぐのでとても重要。

「余暇」に対する捉え方の違い

ドイツ労働時間の推移(ドライグリーダルング研究所資料より筆者作成図表より)
1900年:60時間(週6日)
1932年:42時間
1941年:50時間
1950年:48時間
1956年:週5日へ移行
1965年:40時間
1984年:38.5時間
1995年:35時間(印刷・金属・電気産業)
*現在は週40時間が多い。

休暇の取りやすい国ドイツ
1963年施行連邦休暇法により、病欠とは別に最低24日の年休が取得できるよう決められ、多くの企業は年30日の休暇を取得できる。

スポーツクラブ加入者数の変化(余暇スポーツハンドブックより筆者作成)
1970年:スポーツクラブ加入者数1010万、全人口に対する比率16.7%
1980年:スポーツクラブ加入者数1700万、全人口に対する比率27.6%
1989年:スポーツクラブ加入者数2090万、全人口に対する比率34.3%
1990年:スポーツクラブ加入者数2370万、全人口に対する比率30.0%
2000年:スポーツクラブ加入者数2680万、全人口に対する比率32.6%

余暇がとりやすいことでスポーツクラブ活動への参加の敷居が下がり、スポーツ人口増加につながる可能性が高いと筆者は考えている。

スポーツを通して学ぶもの。

様々なスポーツ体験を通じて親が子どもに期待するのはフィジカル的なものばかりではない。自己認識、コミュニケーションスキル、批判する力など「社会的能力」を身につけること。加えて、寛容や公平さといった倫理的成熟である。ドイツでは教育と職業が密接な関係を持っており、スポーツをするにしても人間的成長を期待するのだそうだ。

「仕立て上げる」のでなく「引き上げる」

育成方法もアジア的な根性論で育てる(仕立て上げる)のではなく、「才能があればその分野を伸ばせるように引き上げる」というこを重視する。スポーツで将来食べていける、プロになれるのはごく一部。それを目指すのではれば別だけど、そうでなければやってみたいこと、やりたいことを自分で考え、選ぶということを尊重する。自己決定を重要視するのでアジア的なやらされている感は無くなると指摘している。

もう一つ加えると「役に立つ」「役に立たない」でなく、教養を重視している。スポーツだけでなくベースとして教養を身につけることを大切にする。そのため、短期的に役に立つかどうか?でなく、教養に基づいて物事を判断する力がつくので視野狭窄が起こりにくい。こうして事例を挙げていくとスポーツが教育、職業、コミュニティと密接に結びついているのを感じる。

もちろんドイツも完璧ではない。

色々とスポーツにおける取り組みを紹介してきたけれど、ドイツももちろん完璧ではない。その一例として著者が「サッカーコートの立て札」にある注意喚起を紹介している。SNSでも拡散されたものだそうなので、気になる方は探してみていただきたい。

「忘れないでください!」
・(試合をするのは)子どもたちです!
・あくまでも試合です!
・トレーナーも趣味でやっています。
・審判もまた人間です。
・これはワールドカップではありません。

こんなことが書いてあるのだそうだ。

まとめ

一連の流れで僕はドイツの取り組みで良いなと思う一方で、例えば自治体ごとにクラブチーム(総合型クラブ)のようなものがあればいいなと思う。都市の周りに広がる森のようなフィールド、たくさんのグランド、走りやすい道など…インフラ的には日本はスポーツ環境を充実させようと思うとこういったものがそもそも足りておらず、随分とハードルが高いように思う。見方を変えて、では、学校のグランドや体育館はどうだろうか?既存のルールはあるけれど、運用の見直しや繋がり作りで突破できないだろうか?考えてみれば色々なアイデアが出てくるかもしれない。

また、ドイツのスポーツ環境の実現には職住近接と余暇の取得しやすさが大きく影響している。これを制度として日本で実現しようと思うとあまりにも大きな話だ。それよりは昨今の社会情勢を踏まえ、働き方や暮らし方を変えた人たちが一つのモデルになるのではないかと考える。

本を読んで、振り替えながら考えていくのは本当に面白い。今回はドイツの事例だったが、他の国はどうだろうか?いやいや、そもそも日本でそういった事例はないだろうか?1冊の本を読むことで色々なアイデアが生まれる。本を読むことは大切なインプットの機会であり、頭の体操だ。

僕のnoteを読んでくださる方は既にご存知だと思うが、

僕は神奈川県の逗子市でトレイルランニング(山を走る)ことを通じてスポーツを身近にする環境作りをしている。特にジュニア世代の育成に力を入れているし、彼らが楽しめる環境を残すこと。そして、トレイルランニングでの体験を通じて子どもたちがのびのびと育ってほしいと願っている。

チャンスがあれば逗子にとどまらず活動を広げたいし、そもそも同時多発的に色々な活動や取り組みが広がれば実現度合いは高まるし、面白いアイデアも出るはずだ。

どうしてもこういう話をしようとすると「ドイツでは、」「日本では、」といった括りをせざるを得なくなる。どこにでも課題はあるし良い取り組みはある。なのでドイツの事例を踏まえつつ、今回の読書を通じて今後の活動のヒントにしたい。そそして、このnoteが読んでくださった方のヒントになればとても嬉しい。



今後の予定 *いずれもエントリー受付中!

12/1(火)~ 開催中 Happy Holiday Run Online Challenge
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12/12(土)ジュニアトレイルランスクール@横須賀
12/20(日)ジュニアトレイルランスクール@逗子葉山
1/31(日)ジュニアトレイルラン横須賀田浦大会


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2017-04-28 18.07.02 のコピー


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