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【アニメシナリオ作品】 アルスナイト 第一話「騎士、爆誕」(改訂一稿・2022.12.24)(スマホ版)

 本作がどのような作品かについては、こちらをご覧ください。

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アルスナイト  第一話「騎士、爆誕」
改訂一稿

脚本 藤野崇志
登場キャラクター
蒼羽 庵(あおば いお)(イオ・アラバード 18歳・男)

レイナ・ハル・エリオスト(17歳・女)

カイ・ラグレシア(22歳・男)
近藤佳奈(こんどうかな)(22歳・女)
近藤慎一(こんどうしんいち)(51歳・男)
尾川喜美子(おがわきみこ)(49歳・女)
南雲佑磨(なぐもゆうま)(24歳・男)
石岡桐人(いしおかきりと)(25歳・男)

アウルス整備員

少女(6歳)とその母親(35歳)

街頭テレビのアナウンサー

アウルス基地のオペレーターA・B

ヘリ隊員

異界雷牛・タウロギア

その他


□日本・太平洋沿岸地域(朝)
  朝日に照らされた平野の中心部には、デ
  ィズニーリゾートのような大型テーマパ
  ークがあり、その中心から沿岸まで、放
  射状に道路や鉄道が敷かれている。

□坂浜市・市街D地区・大通り(朝)
  陽の光で窓ガラスが白く反射するビル街
  には、『UNーD』と書かれた、パネルだ
  けが並んだ建物が所々に建っている。
T『坂浜市・市街D地区』
  その一角に、巨大な街頭テレビがついた
  駅ビルがあり、画面には、空を飛ぶ巨大
  なハナカマキリと、それを追いかける戦
  闘機(アウルスガリバー)の映像、『衝
  撃映像 異界生物とアウルスの空中戦!』
  のテロップが映し出され、
アナウンサーの声「こちらは、岐阜市内で撮
 影された、異界生物を追う、アウルスの戦
 闘機の映像です」
  煙が上がる山間部の映像に切り替わる。
アナウンサーの声「本日未明、坂浜市山中か
 ら新たな異界生物が出現し、激しい空中戦
 の末、滋賀県の山中で撃退されました」
  そのビルの足元に敷かれた広大な道路に
  は、大量の車と二台の路面電車が走り、
  歩道は大勢の通行人でごった返している。
  その中には、犬や猫、兎のような耳が生
  えた人間(以下、獣人)や、鋭く尖った
  耳の人間(以下、エルフ)もいる。
アナウンサーの声「国連軍によりますと、こ
 の個体は先日、坂浜市山中で撃退したもの
 と同一種であり、新たな繁殖地の発生や…」
  赤い風船を持った少女(6歳)、母親(
  35歳)と手を繋ぎながら歩いている。
アナウンサーの声「異界人テロ組織による攻
 撃の可能性もあるとして、調査を続けてい
 ます。次のニュースです…」
  風船を持っていた手が通行人とぶつかり、
少女「わっ!」
  風船が手から離れる。
  少女と母親、立ち止まって顔を上げ、
少女「ああ…」
  風船は空に向かって浮かんでいく。
  そこに紺色のスーツを着た青年がひとり、
  飛び上がるように現れ、風船の紐を掴む。
  その姿に、少女は驚いているようだ。
  青年が着地し、しゃがんで少女に風船を
  手渡すと、
青年「はい」
少女「ありがとう! お兄ちゃん」
  母親が頭を下げ、
母親「ありがとうございます…」
青年「(照れ臭そうに)いえ、当然のことを
 しただけです。それじゃ!」
  青年は手を振り、駅に向かって走り出す。
  呆然とする母親の隣で、少女が手を振り、
少女「バイバ〜イ!」
  青年、意気揚々と人混みを駆け抜ける。
  右腕には、銀と赤と紺のラインが光る小
  型の通信機がキラリと輝く。

□同・駅のホーム(朝)
  ホームにはモノレールが停まっており、
  そこに青年が乗り込み、
青年(N)「日本の地方都市、坂浜市。この
 街には、人間以外に、獣人、エルフなど、
 異世界から来た人間たちが暮らしている」
  振り向くと、ドアが閉まる。

□同・駅ビル(朝)
  駅ビルからモノレールが出てくると、
青年(N)「彼ら異世界人は、十年前、この
 街の山奥にできた時空の歪み、異世界の
 『扉』から現れ、この世界に住み始めた」
  徐々にスピードを上げていく。

□モノレール車内(朝)
  青年は扉近くの手すりを掴み、車内の映
  像モニターを見上げている。
青年(N)「だが、同じく『扉』から現れ、
 猛威を振るう巨大な異界生物や、異界人に
 よる凶悪犯罪は、今もなお後を絶たない」
  モニターには、先程の街頭テレビで流れ
  ていた映像が映っている。

□市内中心部・大型テーマパーク前(朝)
  巨大な木にも見える高層タワーにジェッ
  トコースター、観覧車が並ぶ大型テーマ
  パークの前を、モノレールが走り去り、
青年(N)「この事態に国連は、多国籍企業
 と協力してこの街を統治し、異界生物から
 街を守る要塞を築き…」
  隣の道路には装甲車や自走式対空砲、ジ
  ープやトラックなどの軍用車が行き交う。

□湾岸地域(朝)
  モノレールがショッピングセンターや大
  型商業施設のそばを通り抜けると、
青年(N)「異界生物や特殊な異界人犯罪に
 対抗するための特殊精鋭部隊、アウルスを
 結成した」
  その先には、国連のマークが描かれた建
  物と、アメリカの航空空母、エンタープ
  ライズが見える。

□モノレール車内(朝)
  窓の外を眺めている青年、蒼羽 庵(18
  歳・男)は嬉しそうに目を輝かせ、
庵(N)「俺は蒼羽 庵、十八歳。今日から
 その新入隊員だ。ここから俺の、新たな第
 一歩が始まるんだ…」
  決意を決めた凛々しい表情に変わる。

□アウルス基地・全景(朝)
  係留されたエンタープライズの甲板には
  『AWLS』の文字が描かれている。

□同・基地前の広場(朝)
  庵、巨大な船体を見上げ、
庵「ここが、アウルスの基地…」
  緊張した面持ちで拳を握ると、
女性の声「どう? 間近で見た家(うち)の感想は」
  ハッと気づいて後ろを振り返る。
  庵と同じ紺色スーツを着た女性がおり、
女性「あなた、今日来るって言ってた新入隊
 員さんね?」
  庵、背筋を伸ばし、敬礼すると、
庵「…はい! 蒼羽 庵、ただいまアウルス
 基地に現着いたしました」
  その女性は答礼し、
女性「ご苦労。休んでよし」
  にこりと笑うと、
女性「私は近藤佳奈。あなたの教育係を務め
 ることになっているわ」
  佳奈、右手を差し出し
佳奈「これからよろしくね。 庵隊員」
  庵も右手を出し、握手を交わすと、
庵「…はい! よろしくお願いします!」
佳奈「うん! いい返事。それじゃあ、司令
 室まで案内するわ」
  佳奈、左目を閉じてウインク。

□基地内部・格納庫
  戦闘機がいくつも入りそうな巨大空間の
  壁際を、佳奈と庵が歩いており、
佳奈「ここは見ての通り格納庫。整備班がこ
 こで装備品の保守点検をしてくれているの」
  庵が周りを見渡す。
  停まっている赤と青のラインで装飾され
  たセダン車やバンの周りには、大勢の整
  備員が忙しなく行き交っている。
  その隣の何もない空間を見て、指を差し、
庵「あそこはもしかして…」
佳奈「うちの主力装備、アウルスガリバーの
 スペースね。今は任務に出ているところよ」
庵「今朝、ニュースでやっていたやつですね」
佳奈「そう。最近ちょっと出番が多くて…お
 かげで私たちに、別の任務が回ってきてい
 るんだよね〜」
  佳奈、顔を人差し指で掻く。 

□同・エレベーター内
  庵と佳奈、二人並んで乗っており、
庵「私たちって…早速実戦ってことですか?」
佳奈「まぁ、実戦といっても、異界生物と戦
 ったりとかじゃないから、安心して」
庵「そうでしたか…」
  チンという音とともに扉が開く。

□同・廊下
  すれ違える程度の幅の廊下を進んでいく
  と、自動扉の前で立ち止まり、
佳奈「…じゃ、記念すべき初任務の内容は、
 この先で説明するわね」
  佳奈、右腕につけている銀と赤と紺のラ
  インの小型通信機を扉にかざす。

□同・司令室
  音が鳴ると、扉が開き、すっくと立つ庵
  と佳奈の姿が現れ、
佳奈「さぁ、ここが私たちの司令室よ」
  目を輝かせる庵を後目に、佳奈は敬礼し、
佳奈「近藤佳奈、蒼羽 庵隊員を連れて参り
 ました」
男の声「お疲れさん」
女の声「案内ご苦労。入ってきて」
  中へ入ると、庵も敬礼し、その後を追う。
  いくつか並んだ机の奥、大型モニターの
  前にある座席には、白い棒を口に咥えて
  いる男性と、片手にタブレットを持った
  女性がおり、
佳奈の声「こっちが近藤慎一隊長、あちらが
 副隊長の尾川喜美子さんよ」
  近藤慎一隊長(51歳・男)口に咥えてい
  る白い棒を右手に持つと、
隊長「君が庵隊員だね」
庵「はい。蒼羽 庵、本日付でアウルスに配
 属となりました!」
隊長「これからよろしく。そうそう…」
  隊長、左手でポケットから棒付きキャン
  ディーを取り出し、庵に差し出す。
隊長「入隊祝いってことで。あげる」
  庵、戸惑い気味にそれを受け取り、
庵「あ…ありがとうございます…」
  隊長がニコリと笑い、庵は首を傾ける。
  その間に尾川喜美子副隊長(49歳・女)
  が割って入り、白い棒を指で摘むと、
副長「隊長、そろそろ…」
隊長「あら、もうそんな時間?」
副長「装備チェックはもう終わってます」
  白い棒を隊長の後ろ側に投げる。
  白い棒は宙を舞い、隊長の机の端にある
  ゴミ箱の中に入る。
  それを見ていた庵と佳奈、小さく拍手し、
庵&佳奈「おお〜っ!」
副長「任務の説明、お願いします」
  副長がタブレットを操作する。
  全員が大型モニターを見ると、豪華な黄
  色いドレスを着た、栗色ロングヘアの少
  女が映し出される。
  目を丸くして固まる庵を佳奈が見て、
佳奈「庵隊員、どうかした?」
庵「あ、いえ…」
佳奈「(ニヤケ顔で)もしかして、一目惚れ?」
庵「いやいやいや、そういうのでは…」
  副長が咳払いし、二人とも背筋を伸ばす。
  隊長、副長からタブレットを受け取り、
隊長「えー、この綺麗な女の子が、坂浜市と
 交流のある異界の国、エリオスト皇国の第
 三皇女(おうじょ)、レイナ・ハル・エリオスト皇女だ」
  大型モニターの画像が、大使館に充てら
  れたメールの文章に変わり、
隊長の声「彼女が本日、お忍びで市内を訪問
 したいとの要請があり、庵、佳奈、両名に
 は、皇女の護衛をしてもらうこととなった」
  続いて坂浜市の地図に切り替わり、自動
  車のルートが線で表示される。
  山間部から『旧市街』と書かれた地域を
  通り、『市街D地区』へと進むルートだ。
隊長の声「ここ最近の異界生物出現の件もあ
 り、現在、このルート以外で目立たずに通
 行することはほぼ不可能になっている」
  隊長、そのルートを親指で指差しながら、
隊長「このルートでも、皇女を狙う輩が現れ
 るかもしれない。十分目を光らせてくれ」
  庵を見て、
隊長「なので庵隊員、美しくてもお姫様に見
 惚れるのはほどほどに」
庵「(顔を赤くし)しょ、承知しました…」
  佳奈、少しクスリと笑い、
隊長の声「佳奈隊員、サポートをよろしく」
佳奈「(さっと真剣に)承知しています」
隊長「よし、それじゃあ…」
  隊長、両手をパチンと合わせ、
隊長「お仕事、始めちゃおう」
  庵と佳奈、敬礼し、表情は真剣そのもの…
  かと思えば、庵は左目を細め、少し嫌そ
  うな顔をする。

□坂浜市山間部
  岩山に張り付くように建てられた、空港
  のようなターミナルビルがあり、ビルの
  壁面には大きく、『坂浜ビヴロストポー
  ト』と書かれている。

□ビヴロストポート・ターミナル前の停留所
  バスやタクシーが並び、おしゃれな格好
  をした異世界人が集まっている。
  黒いセダン車、リムジンの前に庵と佳奈
  が立っており、
佳奈「ようこそおいでくださいました。レイ
 ナ皇女。護衛を務めさせていただく、近藤
 佳奈です」
庵「同じく、蒼羽 庵です。よろしくお願い
 します」
  白いワンピースを着た少女、レイナ・ハ
  ル・エリオスト(17歳・女)は、ワンピ
  ースの端をつまみ、少し持ち上げ、
レイナ「レイナ・ハル・エリオストです。本
 日はよろしくお願いいたします」
  隣に立つタキシード姿の青年、カイ・ラ
  グレシア(22歳・男)も一礼すると、
カイ「執事のカイです。以後、お見知りおきを」
  佳奈が車のキーを出し、ボタンを押すと、
佳奈「それでは、早速出発いたしましょう」
  リムジンの扉が自動で開く。
  佳奈がレイナに右手を差し出すと、
佳奈「こちらにどうぞ」
  レイナが佳奈を見て、
レイナ「…そうだ、佳奈隊員…」
  庵を見つめると、
レイナ「できれば、こちらの隊員さんとお話
 してみたいのですが…よろしいでしょうか?」
佳奈「(キョトンとした顔で)…え?」
  佳奈が庵を見ると、庵は自分を指差し、
  額に一粒、汗が垂れる。

□坂浜市山間部・高速道路上
  山に囲まれた四車線の道路をリムジンが
  走っていく。
  通り抜けた案内標識に描かれている矢印
  の先には『旧市街・D地区』と書かれて
  いる。

□リムジン・車内
  運転席には佳奈、助手席にカイが座って
  おり、背後はスライド窓付きの仕切りで
  覆われている。
  佳奈、カイをチラリと見て、
佳奈「カイさん…で、よろしいでしょうか」
カイ「構いません。後ろ、気になりますか?」
佳奈「まぁ、皇女の希望とはいえ、入ったば
 かりの庵隊員に任せるのは少し…」
カイ「我々はアウルスの皆様を信頼していま
 す。むしろ、レイナ様が色々と、彼を質問
 攻めにしてご迷惑をかけるかと…」
佳奈「まぁ、彼も訓練校でこの街のことを学
 んでいるはずですから、基本的なことであ
 ればお答えできるかと思います」
カイ「…で、あればいいのですが…」
  憂鬱そうなカイに、佳奈、首を傾げる。

□同・後部座席
  レイナ、席の左側で訝しげな視線を向け、
レイナ「まったく…勝手にこっちの世界へ行
 って、一年も音沙汰がないと思ったら…ま
 さか本当にアウルスに入っちゃうなんて…」
  右側の庵は無表情で視線を逸らし、
庵「…それで、何故突然、お忍びでこの街に?」
レイナ「へぇ、そういう反応するんだ。なら
 この後、佳奈さんにあなたのこと、色々教
 えてあげちゃおっかな〜」
庵「(振り向き)なっ…お前!」
レイナ「フフ…冗談よ。やっとこっち向いた」
  庵、怒るに怒れず、呆れてそっぽを向く。
  レイナ、鼻高々に顔を少し上げ、
レイナ「心配しなくても、あなたのことをば
 らすつもりはありません」
  一転、寂しげな表情で窓の外を見ると、
レイナ「…あなたがこの街で何をしようとし
 ているかなんて、私が知らないわけないで
 しょ…」
  庵もレイナの方に顔を向ける。
  窓の外には、人気もなく、煤で汚れ、破
  壊されたままの建物が残るゴーストタウ
  ン、旧市街が広がっている。
  レイナ、曇った表情のまま、
レイナ「ここなんだ。いつも話してたとこ…」
庵「ああ。十年前、最初の異界生物に破壊さ
 れ、今もなお大半が手付かずのままだ…」
  庵、スーツのポケットに手を入れ、握り
  拳を出すと、
庵「あの時、俺はただ見ていることしかでき
 なかった。だから…」
  手を開き、青く透明なクリスタル状のペ
  ンダントが現れる。
  レイナがそれを見ると、
レイナ「…それ…」
庵「父さんが持ってたやつ。お守りだよ」
レイナ「…そっか。決意は固いんだね…」
庵「ああ。この街と、父さんのためにもな…」
  ペンダントを握りしめると、拳を胸に当
  て、険しい表情を浮かべる。
  レイナ、庵に向かって手を伸ばし、
レイナ「あのさ、庵…私さ…」
  庵がレイナを見たそのとき、突然、窓の
  外から閃光が瞬き、爆発音が響きわたる。
  その衝撃で車内が揺れ、
レイナ「きゃあっ!」
  バランスを崩したレイナを庵が咄嗟に抱
  き寄せる。
庵「レイナ!」
  レイナが目を開け、庵と顔面ギリギリで
  目を合わせ、
庵「大丈夫か?」
レイナ「…うん…」
  お互い頬を赤くしながら体を起こすと、
  仕切りの窓が開き、佳奈とカイが顔を覗
  かせ、
佳奈「庵隊員、大丈夫!?」
カイ「レイナ様、お怪我は…」
レイナ「は、はい…」
庵「問題ありません。それより…」
佳奈「ええ。さっきの光は一体…」
  レイナが窓の方を見ると、
レイナ「皆さん、あれ!」
  庵、佳奈、カイも窓の外を覗く。

□旧市街
  建物の残骸の周りには、白煙が立ち込め、
  その白煙を割って、巨大な角と、紫色の
  電流が流れる半開きの扇子のような手を
  持った、ミノタウロスのような怪物、異
  界雷牛・タウロギアが現れ、
T『異界雷牛・タウロギア』
  口から白い息を吐き、咆哮を響かせる。

□旧市街内
  巨大な幹線道路の上を、庵たちが乗るリ
  ムジンが走り去り、遥か向こうから歩い
  てくるタウロギアに向かって、五機の戦
  闘ヘリが横一列に並んで飛んで行く。
ヘリ隊員の声「D1編隊、目標を確認。直ち
 に攻撃を開始する」
  タウロギアの前でホバリングし、
ヘリ隊員の声「発射用意、発射!」
  ガトリングガンが回り、銃口が火を噴く。
  タウロギアの頭に弾が当たり、火花が散
  るが、タウロギア自身は頭を掻くだけで、
  平然と歩き続ける。

□リムジン・車内
  銃撃音が響くなか、庵、レイナ、カイは
  ドアや座席にしがみついている。
副長の声「それで、状況は!?」
  佳奈はハンドルを握りしめ、
佳奈「まもなくD地区区画に入ります!
 しかし、あの異界生物は今もなおこちらに
 向かって進行中です!」
  銃撃音が爆発音に変わる。

□旧市街内
  戦闘ヘリの誘導弾を受けても、タウロギ
  アは怯まず歩き続ける。

□アウルス基地・司令室
  副長は旧市街の様子が映し出された大型
  モニターを見ながら、インカムで通話し
  ており、
副長「この先でグリッドロックが発生してい
 るわ。車から降りて、皇女たちをシェルタ
 ーに避難させて」
佳奈の声「了解!」
  通話が切れると、グッと拳を握り、
副長「ガリバーがいないときに…なんで旧市
 街からあんなサイズの異界生物が…」
  振り返ると隊長は、冷静な面持ちでタブ
  レットを操作し、
隊長「この映像から察するに、新たな『扉』
 が開いたわけではなさそうだ…」
  映像ファイルをスワイプする。
  大型モニターに、廃倉庫が吹き飛んでタ
  ウロギアが現れる、ノイズが掛かった定
  点カメラの映像が流れる。
  隊長と副長、それを見ながら、
隊長「となれば、テロリストの新型兵器か、
 はたまた、何かの偶発的な事故か…」
副長「(額に手を置き)…異界から入ってく
 る物、人、異界生物は全てこちらに報告さ
 れている…それでも…」
隊長「全てを見通すことはできない…我々は
 未だ、彼らのことを全て理解できているわ
 けではない。ということだ…」
オペレーターAの声「戦闘ヘリ部隊による攻
 撃を続行中。しかし、効果見受けられず!」
オペレーターBの声「進行速度変わらず。目
 標のD地区接近まで、あと五キロ!」
  副長、顔を上げ、
副長「…それでも、市街地侵入は阻止します。
 D地区の都市防衛システム展開、急いで!」
  インカムに右手を添える。

□市街D地区・大通りのビル街
  『UNーD』と書かれたビル、兵装ビル
  のパネルが開き、巨大マシンガンが出現。
  他の似た形のビルからも、ミサイルラン
  チャーや対空砲などがせり出してくる。

□同・駅前
  渋滞で並ぶ車の間を人々が逃げていく一
  方、路面電車の線路上を、十数台の戦車
  と大きな榴弾砲を搭載した路面電車(路
  面榴弾砲列車)二台が逆方向へ走り去る。
  渋滞の最後尾にリムジンが止まり、ドア
  から佳奈とカイが出てくると、
佳奈「ここからシェルターまで案内します。
 しっかりついてきてください」
  庵とともに降りてきたレイナ、頷き、
レイナ「承知しました!」
  歩き出そうとしたところで、咆哮が聞こ
  え、振り返る。

□同・大通り
  旧市街を抜け、タウロギアが迫り来る。
  その行手を塞ぐ路面榴弾砲列車と戦車の
  砲身から、閃光と爆炎が次々と放たれる。
  兵装ビルの巨大マシンガン、対空砲も火
  を噴き、ランチャーからミサイルが飛ぶ。
  全てタウロギアに命中し、煙に覆われる。
  しかし、煙から現れたタウロギアは、腕
  に電流を走らせ、大きく振り上げる。

□同・駅前
  人々が逃げ惑う中、レイナの腕を掴み、
  佳奈、カイと共に逃げる庵、振り返り、
庵「…マジかよ…」
  目を見開く。

□同・大通り
  タウロギアは電流で輝く腕を振り下ろし、
  地面に突き刺さると、いくつもの巨大な
  稲妻の塊が地面の上を走る。
  稲妻が戦車、路面榴弾砲列車に次々と直
  撃し、真っ赤に焼けただれ、爆発する。
  兵装ビルも同様に吹き飛ばしていく。
  タウロギアは腕を地面から剥がし、稲妻
  を辺り一面に撒き散らす。

□同・駅前
  大通りの車が、稲妻の直撃で次々と爆発、
  炎上していく。
  庵とレイナが走っているすぐそばの車に
  も稲妻が走り、
庵「レイナ!」
  庵がレイナを庇ったそのとき、大爆発。
  爆風で二人は吹き飛ばされてしまう。
  佳奈とカイ、振り返り、手を伸ばすが、
佳奈「庵隊員!」
カイ「レイナ様!」
  稲妻と爆炎で遮られてしまう。

□同・大通り
  ビルや道路が燃え盛る中、タウロギアは
  腕に電流を走らせ、大きく口を開けて吠
  えながら進んでいく。

□同・駅前
  人々が逃げ惑う一方、佳奈は小型通信機
  を開き、危機迫った勢いで、
佳奈「庵隊員、応答して。庵隊員!」
  カイは胸に拳を当て、
カイ「レイナ様…庵…」
  炎と煙で覆われた通りを見つめている。
   ×    ×    ×
  庵とレイナは、焦げ付いたバス停の席に
  座り込んでおり、
レイナ「…庵…」
  壊れた小型通信機を見ていた庵、握り拳
  を開き、
庵「あの時と同じ…何もできないままか…」
  手の平のペンダントを握りしめ、立ち上
  がってバス停の柱に拳を三度叩きつけ、
庵「くそっ! この! 役立たずっ!!」
  膝から崩れ落ち、項垂れる。
  レイナ、庵の肩に手を伸ばすが、ピタリ
  と止まり、腕を下ろす。
  静かなこの空間に、人の足音が聞こえ、
レイナ「…誰かいる…」
  レイナが駅ビルの入り口に顔を向けると、
  入り口の柱から赤い風船を持っていたあ
  の少女が顔を出し、
少女「…お兄…ちゃん…?」
  その声に、庵も振り向き、
庵「君は…駅前の…」
  少女は泣きながら庵の懐に飛び込み、
少女「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
  庵、戸惑いながらも優しく頭を撫で、
庵「…お母さんはどうしたんだ?」
少女「(涙声で)…お母さんと…保育園のみ
 んなと逃げてたら、はぐれちゃって…」
  レイナも頭を撫でると、
レイナ「…よく頑張ったね…」
庵「逃げてたってことは、シェルターの中に…」
レイナ「とにかく、行ってみないと…」
  爆発音が響き、後ろを振り返る。
  爆炎を潜り抜けながら、タウロギアが腕に
  電流を走らせて迫ってくる。
  少女は二人に抱きつき、泣じゃぐる。
  レイナ、泣きそうな表情で少女を宥め、
レイナ「大丈夫。大丈夫だから…」
  二人を見ていた庵、立ち上がり、
庵「二人とも、先に逃げろ」
レイナ「え…」
少女「お兄ちゃん…?」
  優しく微笑み、走り出す。
  レイナ、思わず立ち上がり、
レイナ「庵!」
  手を伸ばすが、庵はそのまま走っていく。
   ×    ×    ×
  庵、瓦礫と炎の中を進んでいき、
  息を切らしながら、真っ直ぐタウロギア
  に向かっていく。
  勢いよく立ち止まると、鋭い眼差しをタ
  ウロギアに向ける。
  タウロギアは両手を挙げ、臨戦態勢だ。
  庵、ペンダントを握った拳を胸に当て、
庵「…自分の足でこの街に来て、やっと佳奈
 たちに恩を返せるんだ…目の前にある命の
 一つや二つ…今ここで…」
  天高く突き出すと、
庵「守れなきゃ、いけないんだ!」
  強烈な光が放たれる。
  タウロギアも驚き、思わずたじろぐ。
  光は庵とその周りを覆いつくしていく。
   ×    ×    ×
  レイナ、その光から少女を覆い隠す。
  光が消え、振り返ると、
レイナ「…庵?」
  突如出現した、光り輝く巨人を見上げる。
  そこに佳奈、カイが駆けつけ、
佳奈「レイナ皇女!」
カイ「レイナ様!」
レイナ「佳奈隊員…カイ…」
佳奈「庵隊員は!?」
レイナ「…それは…」
カイ「今はそれより…」
  佳奈、カイもその巨人を見上げ、
佳奈「…あの巨人、あの時の…」
  呆然とする。
   ×    ×    ×
  輝きが徐々に弱くなり、全身鎧姿の、龍
  のような仮面を被った巨人の姿が現れる。
  胸には庵のペンダントの形と似た、青く
  輝く宝石が埋め込まれており、鎧の隙間
  や仮面の後方にある透明な角が青白く輝
  くと、目に白い光が灯る。

□アウルス基地・司令室
  大型モニターに巨人の姿が映し出され、
オペレーターAの声「きょ…巨人です…!」
オペレーターBの声「推定身長、約四十メー
 トル! これは…」
  それを見ている副長、唖然とし、
副長「…鎧の…騎士…?」
  隊長も目を見開き、
隊長「…強き願い人に与えられん力…聖なる
 騎士、ナイトか…!」
  思わず微笑んでしまう。

□市街D地区・駅前
  巨人、ナイトとタウロギアが睨み合い、
  両者ともに走り出す。
  タウロギアの体当たりをかわしたナイト
  が角を掴み、膝で顔を蹴り上げ、首を掴
  んで腹に二度、蹴りを入れる。
  しかし、三度目の蹴りを受け止められ、
  稲妻攻撃によって怯んだところを投げ飛
  ばされ、落下して瓦礫を跳ね上げる。
  物陰で見ていたカイたちはよろめき、
カイ「…一旦ここから離れましょう」
佳奈「…そうですね…」
  レイナは一人、心配そうな様子だ。
  佳奈の小型通信機からアラームが鳴り、
  咄嗟に通信機を開くと、
小型通信機からの声「(無線)こちら南雲佑
 磨! 佳奈、聞こえるか!?」
佳奈「佑磨隊員!?」
  レイナ、振り返る。

□坂浜市上空
  アウルスガリバーが黒煙の上がる方向に
  向かって飛んでいる。

□アウルスガリバーのコックピット
  石岡桐人(25歳・男)が操縦する側で、
  南雲佑磨(24歳・男)は座席の標準用
  スコープを覗きながら、
佑磨「待たせたな!」
桐人「あと一分で現場宙尉に入る!」
  佑磨、タウロギアに押されているナイト
  の定点カメラ映像に目を向け、
佑磨「了解。しかし、巨人に異界生物…どっ
 ちから倒せば…」
桐人「どちらにしても、今の装備で二体同時
 はできないぞ」
  通信機のアラームが鳴り、
レイナの声「(無線)佑磨隊員、桐人隊員です
 か? レイナです」
佑磨「レイナ皇女? 一体何が…」
  佑磨、桐人、耳を傾ける。

□市街D地区・駅前
  ナイト、タウロギアの攻撃でビルに突っ
  込み、破壊しながら倒れる。
レイナの声「あの巨人は今、私たちやこの街
 のために戦っているんだと思います…」
  起き上がろうとするが、その場で踏みつ
  けられ、苦しんでいる。
  タウロギアは高笑いするように吠える。
   ×    ×    ×
  カイと少女が見守るなか、レイナは佳奈
  の小型通信機に話しかけ、
レイナ「だからお願いします。あの巨人を助
 けてください!」
  祈るように手を握る。

□アウルスガリバーのコックピット
  佑磨と桐人、顔を見合わせ、
佑磨「どうする? 賭けてみるか?」
桐人「アウルスの十八番、現場判断優先か…
 そういうお前は?」
佑磨「…当然、あの巨人に賭けるさ! 桐人!」
桐人「(少し微笑み)…承知した!」
  桐人が操縦レバーを押し、二人とも座席
  に押さえつけられる。

□坂浜市上空
  アウルスガリバーは急降下しながら、機
  体後部のランチャーから八つものミサイ
  ルを発射し、空中を飛び交う。

□市街D地区・駅前
  タウロギアが腕に電流を走らせ、ナイト
  に突き刺そうと構える。
  が、その背中にミサイルが降り注ぐ。
  上を見上げた瞬間、ナイトに蹴り飛ばさ
  れ、後退りする。
  怒り狂い、突進を仕掛けるが、そこにま
  たミサイルが直撃し、怯んだすぐ側をア
  ウルスガリバーが横切る。
  煙の中を潜り、飛び去っていくと、その
  先で立ち上がったナイトの目が光り輝く。
  腰を落とし、左腰に右手を当て、まるで
  剣を抜くように右腕を天高く伸ばすと、
  光線のような光り輝く巨大な剣に変わる。
  タウロギア、思わず目をみはり、腕に電
  流を溜め、走り出す。
  ナイトが光の剣を振り下ろすと、地面を
  めくり上げ、タウロギアを真っ二つに切
  り裂く。
  裂け目から閃光が瞬き、タウロギアは苦
  しみながら倒れ、大爆発を起こす。
  金粉のような光の粒子が降り注ぐ巨大な
  爆炎を、仁王立ちで見ているナイトは、
  鎧の隙間から大量の蒸気を吹き出す。

□アウルス基地・司令室
  副長、インカムを右手で押さえ、
副長「周辺状況を確認! あの巨人は!?」
  大型モニターに、蒸気で覆われた街の様
  子が映されると、
オペレーターAの声「目視での確認、不能」
オペレーターBの声「各種レーダー、センサ
 ー、共に反応なし」
桐人の声「こちらも反応ありません…」
  副長、インカムを外し、
副長「…一体、何がなんだが…」
  隊長が副長の肩をポンと叩き、
隊長「…我々は全てを理解できていなかった。
 ならばこれから知ればいい…それだけさ…」
  真剣な眼差しで歩き出す。

□市街D地区・駅前
  佳奈たち、辺りを見渡し、
佳奈「庵隊員! 応答して! 庵隊員!」
  物音が聞こえ、全員が振り向く。
  蒸気の中からぼんやりと光が見えると、
  ペンダントを胸に掛けた庵が、フラフラ
  と歩きながら現れる。
  そのまま倒れかけたところをレイナが受
  け止め、抱きしめると、彼の重みで倒れ
  そうになるが、佳奈とカイが二人を支え、
佳奈「意識がない…早く病院に!」
カイ「わかりました!」
  レイナが庵の胸に顔を埋めても、庵は未
  だに目を瞑ったままだ。

□坂浜市中央病院
  入り口や駐車場に、多数の緊急車両や軍
  用車が密集している。

□同・待合室
  避難民や怪我人でごった返している。
  佳奈とカイ、小型通信機を見ながら、
佳奈「はい。身体に異常は見られないと…」
隊長の声「そうか…よく頑張ったな。佳奈」
佳奈「…そんなこと…」
隊長の声「とにかく、庵隊員とレイナ皇女の
 ことを、見てやってくれ」
佳奈「…了解…」
  通話が切れ、二人とも、後ろを振り返る。
  長椅子に庵とレイナが座っており、そこ
  に少女が、母親を連れて駆け寄り、
少女「お兄ちゃ〜ん! お姉ちゃ〜ん!」
  少女が庵とレイナに抱きつくと、ついて
  来た母親が頭を下げ、
母親「娘を助けていただき、ありがとうござ
 いました!」
レイナ「(恥ずかしそうに)い…いえ…」
庵「当然のことをしたまでです。ですよね?」
レイナ「…ええ、そうですね」
  お互いに微笑み合う。
  少女が目を輝かせ、
少女「ねぇ? あの大きな人も?」
庵「ん? 大きな人って…」
レイナ「巨人のこと?」
少女「うん。あの人も、私たちを助けたかっ
 たのかな?」
レイナ「…それは…」
  レイナ、庵を見る。
  庵、胸に掛かったペンダントを手に持ち、
  見つめると、優しく微笑み、
庵「ああ。きっとそうさ…」
  少女に顔を向けると、
庵「彼はこの世界、アルスガルの人々を守る
 騎士、そう、アルスナイトだ」
  ペンダントの宝石がキラリと輝き  
                             (END)  (二〇〇字換算八〇枚一〇行) 



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