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【アニメシナリオ作品】 アルスナイト 第三話「卵のママがやってきた」(改訂一稿・2022.12.24)(スマホ版)

 本作がどのような作品かについては、こちらをご覧ください。

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アルスナイト 第三話「卵のママがやってきた」(改訂一稿)

脚本 藤野崇志
登場キャラクター
蒼羽 庵(イオ・アラバード 18歳・男)
近藤佳奈(22歳・女)
近藤慎一(51歳・男)
尾川喜美子(49歳・女)
南雲佑磨(24歳・男)
石岡桐人(25歳・男)
小坂順景(62歳・男)
塩田芝尾(28歳・男)
アウルス基地のオペレーター
アウルス整備員

柏原禮子(かしわばられいこ)(62歳・女)国連軍特務総監
ジェフ・ウェイド(35歳・男)坂浜市長

鎧の青年(異界人・男)
虎柄の猫耳少女(異界人・女)
長髪のエルフ(異界人・男)

作業員1・2
研究者

その他


華炎怪鳥・ムスフェニク

□坂浜市中心部・市庁舎全景
  ジェットコースターや観覧車、天までそ
  びえ立つタワーが揃ったテーマパーク、
  『ヴァルファパーク』のエントランスの
  背後に、十階建ての現代的でさっぱりし
  たモダニズム調の建物がある。
  玄関口前に並ぶ旗ポールの一つには、国
  連の旗がたなびいている。

□同・国連軍特務総監室
  綺麗な木製の壁と机に囲まれ、ミーティ
  ングチェアに座っている軍制服姿の老年
  女性、柏原禮子特務総監(62歳・女・以
  下、総監)、机の右側にあるモニターを見
  つめており、
総監「…つまり市の意見として、我々はアル
 スナイトの行動を監視するだけでいい。と
 いうことでしょうか? ウェイド市長」
  モニター画面に映し出された、キャンプ
  用チェアに座る天然パーマの白人男性、
  ジェフ・ウェイド市長(35歳・男・以下、
  市長)、にこやかに、
市長「ああ。今のところ、よからぬことが目
 的ではなさそうだしね」
  総監、眉間に皺を寄せ、身を乗り出すよ
  うにモニターを凝視すると、
総監「しかし、彼が何者なのかは未だ不明の
 まま…万が一、そのよからぬことをし始め
 た場合は…」
市長の声「(被って)そのための都市防衛シ
 ステムだろう? ミス・カシワバラ」
総監「(小声で)能天気な…」
  呆れ顔で背もたれにもたれかかる。

□坂浜市山間部・展望台
  街を一望できる展望台に設置されたベン
  チに、総監の顔が映されたタブレットが
  置かれており、
市長の声「異界との繋がりを持って十年、異
 界生物の襲撃や異界人による特殊な犯罪が
 日常化した世界に現れた、誇り高き騎士…」
  市長、手に持った八ミリカメラのファイ
  ンダーを覗きながら、顔を右に向ける。
  昼間の摩天楼が広がっており、
市長の声「彼は今や市民だけでなく、国内外
 の注目を集める希望の象徴、ヒーローだ」
  市長が顔を振り戻すと、
市長「むしろ私としては、彼のヒーロー活動
 を支援したいところさ」
  カメラを顔から離し、自信ありげな様子。

□市庁・国連軍特務総監室
  総監、背もたれにもたれたまま、
総監「はぁ…具体的にはどんなことを?」
市長の声「そうだね。彼の戦いをサポートで
 きる、巨大な武器を作るとかかな」
総監「…アニメじゃあるまいに…」
市長の声「あ、ちなみに実は、早速試作品を
 作り始めているんだ。君んとこのをちょっ
 とリサイクルしてね」
総監「…はい?」
  思わず体を起こす。

□アウルス基地・全景
  艦橋の窓が太陽光の反射できらりと光る。

□同・食堂
  キッチンカウンターの前には、青色のテ
  ーブル席がいくつも並んでおり、そのほ
  とんどが、整備員やオペレーターたちで
  埋め尽くされている。
  その一角で、シバと桐人、庵と佳奈が向
  かい合い、
シバ「…ってことで、本部の開発部が大激怒
 してたって噂だよ」
  シバ、定食のカツを箸でほうばる。
  上手に座る佑磨、カレーライスを掬い、
佑磨「先手でやられ放題とは…いつものこと
 ながら情けねぇなぁ〜、本部の連中は」
  対面にいる桐人は冷や蕎麦をすすり終わ
  ると、
桐人「あの兵装ビルは市民の協力と血税で成
 り立っている。市民の意思の象徴でもある
 市長の言葉には逆らえないよ」
  シバ、飲み込みながら頷き、
シバ「確かに、わがまま通せるだけの実績は
 あるからな〜」
  桐人の下手に座る佳奈、ミートパスタを
  フォークで巻き取り、
佳奈「実績があるからって、なんでも思いつ
 きでやり過ぎよ」
  一口で頬張る。
  佑磨、ウンウンと大きく頷き、
佑磨「まったくその通り!」
シバ「(呆れ顔で)それ、お前言う?」
佑磨「うっ…」
  佳奈と桐人がジト目で佑磨を見つめ、
佳奈「言えてる」
桐人「この前オーバーキルで、始末書書かさ
 れてたし」
  佑磨は自分の腕で顔を覆い、
佑磨「うう…その目で俺を見ないで…」
  佑磨の上手で苦笑いしながら焼肉定食を
  食べる庵、桐人を見て、
庵「…そういえば、この街が今のように発展
 したのは、今の市長のおかげなんですよね?」
  桐人が頷き、
桐人「そうだね」
  上手に顔を向ける。
  壁には人差し指を出してはにかんでいる
  市長のポスターがあり、
桐人の声「元々オーダーブレインっていう、
 映画会社の社長だったんだけど、異界と繋
 がって混乱状態だった坂浜市に来て…」
  隣には『ヴァルファパーク』のポスター
  が貼られている。
桐人の声「この街の中心部にテーマパークを
 建設して、あらゆる人々に職を与えること
 で、この街を復興させたんだ」
  シバ、佳奈、佑磨も目を向け、
シバ「市民からは大人気のカリスマ市長さ」
佳奈「私には何がなんだかって感じだけど…」
佑磨「そういや、そのアルスナイトが使える
 巨大な武器って、一体なんだろうな?」
  四人が降り戻り、お互いを見つめ、
桐人の声「斧とか刀とかなら簡単なのでは?」
シバの声「いや、異界生物相手だと素材選び
 が難しいからな…」
佑磨の声「なら、そこはやっぱミサイルだろ?」
佳奈の声「佑磨隊員、いつもそれだよね…」
  一方、庵はなおもポスターを眺めており、
庵「ジェフ・ウエイド…どんな人なんだろう…」
  市長のはにかんだ姿が眩しい。

□坂浜市山間部・梨河谷
  岩肌が目立つ山に挟まれた、砂利道が続
  く谷間に、轟音が響き渡る。
  盾を持った鎧の青年と虎柄の猫耳少女、
  長髪の男性エルフが岩に捕まりながら、
盾の男「な! なんなんだいきなり!」
長髪エルフ「地震? いや、それにしては…」
猫耳少女「ニャー!」
  顔を上げる。
  岩肌が崩れ、大きな穴が開くと、岩が混
  ざった土砂が放出される。
  揺れが収まると、一同、唖然とし、目を
  ぱちくりさせる。
  彼らの目の前には、薄い赤色に金色の模
  様が付いた、巨大な卵が、土砂と岩に支
  えられながら転がっている。

□アウルス基地・司令室
  モニターには、梨河谷の地形図と写真が
  映し出されており、
副長の声「梨河谷にいた冒険者チームから、
 巨大な卵が出現したとの通報が入ったわ」
  卵の画像が表示される。
  隊長と副長、隊員たち、そのモニターを
  見ながら、
佑磨「すごい色だな。この卵」
庵「…これは…」
佳奈「庵隊員、何かわかるの?」
庵「あ…はい。ムスフェニクの卵かと…」
桐人「ムスフェニク…伝説にある火の鳥みた
 いな名前だ…」
  隊長が副長に手を差し出すと、
隊長「それもあながち、間違いではないよ」
  副長がタブレットを渡し、操作する。
  モニターに、金色と赤の羽根を持った、
  ケツァールのような鳥の画像が現れ、
佳奈の声「綺麗〜」
隊長の声「火山地帯に生息しており、その羽
 根で作られた衣装や装備品は、美しさと耐
 火性の強さで、高い人気を誇っている」
  隊長、隊員たちに顔を向け、
隊長「だがそれ故に、冒険者の乱獲によって
 数が激減し、現在、エリオスト皇国が国を
 挙げて保護を行なっている個体でもある」
佑磨「ということは、その卵を保護し、異界
 に送り届けるのが任務ってわけですね」
副長「正確には、それを行っている市の調査
 チームの手伝い兼護衛ってところね」
庵「しかし、そんな珍しい異界生物が何故…」
副長「通報した冒険者たちによれば、突然地
 面が揺れて、岩肌から卵が現れたそうよ」
佳奈「(庵を見て)梨河谷は以前から、異界
 生物の出現が多数報告されていて、冒険者
 の狩場になっているのよ」
庵「…ってことは、その卵も…」
桐人「偶然異界との『扉』が開いて、こっち
 の世界に出てきたってことだね」
隊長「今回は現場での繊細な判断が必要にな
 るため、俺も同行する。(副長を見て)副
 長、留守を頼む」
副長「了解です」
隊長「(隊員たちに顔を向け)それじゃあ各
 員、仕事を始めよう」
隊員たち「了解!」
  隊員たち、敬礼する。

□同・格納庫(出動シーン)
  ビルクワンの隣にある、赤と青のライン
  で装飾されたバン車、ビルクツーのライ
  トが点灯し、走り出す。

□基地甲板(出動シーン)
  ガリバー、カタパルトの上を駆け抜ける。
  甲板から飛び出し、徐々に空へと上がっ
  ていく。

□どこかの大通り
  まっすぐ走るビルクツーの上に、ガリバ
  ーが近づくと、腹部からジョイント付き
  のワイヤーが吊り下げられる。
  ジョイントがタイヤホイールに装着され、
  ガリバーの腹部とビルクツーの天井が密
  着すると、ビルクツーが浮き上がる。
  そのまま山間部に向かっていく。

□坂浜市山間部・梨河谷
  岩壁の上にある卵の周りには、ショベル
  カーやダンプカー、クレーン車などの建
  設車両が集まっている。
  岩と砂利が転がる空き地にビルクツーが
  下される。
  運転席のドアが開き、佳奈が顔を出し、
  顔を上げると、
佳奈「うわぁ…けっこう大きいわね…」
  卵のそばでは、スコップで土砂をかき分
  け、岩を杭で少しずつ砕いていく、大勢
  の作業員たちの姿が見える。
  助手席側のドアを閉めた庵と隊長も、同
  じ方向へ顔を向けており、
庵「すごい人の数ですね」
隊長「流石は市の調査チーム、お仕事が早い」
  隊長だけ、まっすぐ前を見る。
  目線の先では、岩の上に立って八ミリカ
  メラを覗く市長の姿がある。
  カメラを離して振り向くと、
市長「やぁ! ミスターシンイチ! そして
 アウルスのみんな!」
  岩から飛び降りる。
  隊長たちが思わず仰け反るぐらい近くま
  で駆け寄ってくると、
市長「君たちの活躍は聞いているよ。よく来
 てくれた!」
隊長「まぁそりゃ、任務ですから」
市長「(庵と佳奈を見て)今回の大活躍、バ
 ッチリ撮ってドキュメンタリーにするから、
 期待しているよ〜」
庵「(汗ジトで)は…はい…」
佳奈「(肩をすぼめ)…了解です…」
市長「ではでは、よろしく〜!」
  ニコニコ笑顔で手を振り、卵のある方へ
  超特急で駆け出していく。
  庵と佳奈、呆然とし、
庵「…俺、あの人ちょっと苦手です…」
佳奈「(頷き)すごいわかる…やっぱ遊んで
 るように見えるのよねぇ…」
隊長「邪魔になんない限りは、好きにさせて
 いいと思うけどね」
  隊長、二人を見て、
隊長「さっ、俺たちも仕事、始めようか」
  庵と佳奈、お互いを見て、困った顔で
  微笑む。
     ×    ×    ×
  ガリバー腹部から吊り下げられたワイヤ
  ーの先には、大きなゴム性の吸盤を四方
  に取り付けた鉄製のリングで支えられて
  いる卵の姿があり、
作業員1の声「よし! 上げろ〜っ!」
  ガリバーが上昇すると、卵も地面を離れ、
  宙を浮くように持ち上げられる。
  そのまま、移動していくと、卵がすっぽ
  りと入りそうなコンテナと、それを荷台
  に乗せた大型トラックが見える。
作業員1の声「そのままそのまま!」
作業員2の声「オーライ! オーライ!」
  その周りでは、カメラを持った市長と作
  業員たちが、固唾を飲んで見守っており、
市長「いよいよ、緊張の一瞬です…」
  卵が木箱の下に降りてくる。

□同・ガリバーのコックピット
  操縦席のモニターには、真上から卵を撮
  影した映像と、ワイヤーフレームで描か
  れた卵とコンテナの画像が表示されてお
  り、
桐人の声「OK。そのまま…」
  桐人と佑磨、緊張で汗ジトになっている。

□同・梨河谷(戻って)
  コンテナに卵が入っていき、荷台のサス
  ペンションが少し沈む。
  市長と作業員たち、緊張した面持ちだ。
  コンテナからワイヤーだけが上がってい
  くと、
桐人の声「積み下ろし、完了しました!」
  作業員たちが一斉に飛び跳ね、
作業員たち「いよっしゃ〜!!」
  肩を抱き合ったり、ダンスを踊り出した
  りと、お祭り騒ぎだ。
  市長、彼らにカメラを向けながら、
市長「ご覧ください! 慎重に慎重を重ねた
 卵の積み下ろしが完了し、今、作業員一同
 が歓喜に沸いております!」
  ニコニコと笑っている。
     ×    ×    ×
  トラックのそばに建てられたテントには、
  白衣の研究者たちが行き交っている。
  卵の上部には吸盤の付いた線がいくつも
  張り付いており、テント内のテーブルに
  あるノートパソコンに繋がれている。
  画面には波長を示すグラフが表示されて
  おり、グラフの上下幅や間隔が一定して
  いる。
研究者の声「この波長が示すところによれば、
 この卵はいつ生まれてもおかしくない状態
 にあります」
  隊長と市長、庵や佳奈もじっと画面を見
  ており、
隊長「ということは、すぐにでもあちらに送
 らないといけないということか…」
市長「そうなのかい?」
隊長「今の装備で生まれた雛を生かしながら
 運ぶのは、困難を極めますからね」
市長「確かに…それなら致し方ないか…」
研究者「その上、この一帯では現在でも、地
 磁気の乱れが発生しています」
  研究者、パソコンを操作する。
  画面に新しいブラウザが表示され、その
  グラフ幅が見るからに一定していない。
  研究者、険しい顔で隊長たちを見つめ、
研究者「これはもう、『扉』がいつどこで開
 いてもおかしくない状態です」
佳奈「突然異界生物に襲われる可能性も高い
 ってことね…」
隊長「そうゆうこと。すぐにビヴロストポー
 トへの輸送を始めよう。(庵、佳奈を見て)
 庵、佳奈は手筈通り、ビルクツーで先導を」
庵&佳奈「(敬礼し)了解!」
隊長「残りの者も作業を中断し、輸送準備を
 始める。各員は直ちに配置に…」
  そのとき、土砂が崩れていくような轟音
  が聞こえ、皆が辺りを見渡しながら、
市長「な…なんだ今の音は…」
  市長や作業員たちがオロオロしていると、
  甲高い唸り声が響き、
隊長「…まさか…」
  隊長、テントの外に出る。
     ×    ×    ×
  山の上で舞う土煙から飛び出したのは、
  金色と赤の羽根が美しい華炎怪鳥・ムス
  フェニクだ。
T『華炎怪鳥・ムスフェニク』
  ムスフェニクが翼を広げ、そっと開いた
  目がギロリと光る。

□ガリバーのコックピット
  佑磨、ため息をつき、
佑磨「はぁ〜。まだ指が震えてる…」
桐人「しっかりしろ。まだ仕事は…」
  『ピコーン』と警告音が鳴り、桐人がモ
  ニターを見ると、
桐人「前方より高速で接近する物体を探知!
 これは…異界生物!」
佑磨「なっ…マジかよ!」
  モニターには、ガリバーのマークに近づ
  いてくる赤い点が表示されている。

□同・上空
  ガリバーにムスフェニクが迫るが、ギリ
  ギリでかわす。
  ムスフェニクは唸り声を上げ、脚の鉤爪
  を向けて地上に迫って来る。

□同・地上
  隊長たち、焦り顔で、
隊長「総員、直ちに伏せろ!」
  作業員たちがその場にしゃがみ込む。
  ムスフェニクがトラックの上を通り過ぎ
  ると、土煙が舞い上がる。
  その勢いでテントが盛大に吹き飛び、建
  設車両に激突、ショベルカーやクレーン
  車が倒れていく。
  作業員や研究員が逃げ惑う中、隊長たち
  は目を覆い、爆風に耐える。
  ムスフェニク、旋回し、鳴き叫ぶ。
  市長、カメラを向けながら、
市長「あれはもしかして、親鳥かい!?」
隊長「ええ。卵を探してこちらの世界に来た
 のでしょう。その上、我々を敵と見做して
 いる…」
市長「じゃあ、私たちが卵を置いていけば…」
  そこにまたムスフェニクが通りかかり、
  爆風が吹き荒れる。
  一同、飛ばされそうになりながらも、な
  んとか耐える。
  隊長たち、ムスフェニクを見て、
隊長「いや、この様子では、それだけではす
 まないかもしれない…」
市長「ひぇぇぇぇ!」
庵「どうすれば…」
佳奈「また来ます!」
  ムスフェニクが大きく羽ばたき、再び旋
  回して迫りくる。
  市長たち、慌てふためき、
市長「きたぁ〜っ!」
  ガリバーが現れ、行手を塞ぐ。
  佳奈、それを見上げ、
佳奈「佑磨! 桐人!」
  市長、安堵のため息をつく。

□ガリバーのコックピット
  佑磨、親指を掲げ、
佑磨「助けに来たぜ!」
桐人「俺たちが囮になる。今のうちに避難を!」
  桐人が操縦桿を引く。

□同・地上
  ガリバーが上昇し、ムスフェニクも跡を
  追う。
  佳奈、作業員らに顔を向け、
佳奈「みなさん! 今のうちに避難を!」
庵「俺、誘導します!」
佳奈「(肩を叩き)頼むわ」
  庵、右手を高く挙げ、
庵「みなさん! 俺について来てください!」
  走り出すと、作業員、研究員たちがその
  後に続く。
  隊長、腕のデバイスを口元に向け、
隊長「佑磨、桐人、ミサイルによる威嚇射撃
 を許可する」
佑磨の声「(無線)ええっ!? いいんですか!?」
隊長「あくまで威嚇だ。当たる寸前で自爆さ
 せれば問題ない。できるか?」
  市長は隣で未だにカメラを回している。

□ガリバーのコックピット
  佑磨、操縦桿を握り締める桐人を見て、
佑磨「了解! 桐人!」
桐人「わかってる! 行くぞ!」
  スロットルレバーを押す。

□同・上空
  ガリバー、とんでもないスピードで追い
  かけてくるムスフェニクを大胆かつ華麗
  にかわしていき、後部からミサイルを一
  斉に発射する。
  ミサイルに追われながら飛ぶムスフェニ
  ク、当たるギリギリで自爆していくミサ
  イルの爆炎を避け、ガリバーの真上へ降り、
  鉤爪で主翼前部の付け根を掴む。

□ガリバーのコックピット
  桐人、驚愕し、
桐人「くそっ! 捕まった…」
  コックピットが断続的に揺れ続ける。

□同・上空
  ムスフェニク、ガリバーの背面を嘴で何
  度も突き、ランチャーを破壊する。

□ガリバーのコックピット
  警報が鳴り響き、
佑磨「ランチャーを破壊された!」
桐人「くそっ操縦系まで…うわっ!」
  周辺の計器からは火花が散る。

□同・地上
  作業員らを誘導する庵、空を見上げる。
  ムスフェニクに振り回され、ガリバーは
  今にも落ちそうだ。
  庵、避難する人々がまばらになったのを
  見渡して確認し、逆方向へ走り出す。

□同・上空
  ムスフェニク、まっすぐ飛行しながら、
  ボロボロになったガリバーを離す。
  ガリバー、地上に向かって落ちていく。
□同・地上
  佳奈たち、空を見上げ、
佳奈「佑磨! 桐人!」
     ×    ×    ×
  庵、走りながら右腕の通信機の腕を回し、
  チェンバーを表に向ける!

□変身シーン!
  庵がチェンバーをセットすると、
庵「チェンバー・セットアップスタート!」
  アルスナイトに変身!

□梨河谷
  アルスナイト、光り輝きながら、ガリバ
  ーに向かって走っていく。
  佳奈たち、それを見上げ、
佳奈「アルスナイト…!」
市長「うおおおおお!」
  完全な姿で現れると、岩壁を踏み台にし
  て、勢いよくジャンプする。
  宙を舞うアルスナイトに、ムスフェニク
  は驚いたように声を上げる。
  アルスナイトは腕を伸ばし、ガリバーを
  キャッチする。
  両手で持ったまま着地し、岩や土砂が跳
  ね上がる。

□ガリバーのコックピット
  伏せていた佑磨と桐人、起き上がる。
  目の前には、アルスナイトの輝く目が見
  える。

□梨河谷
  ガリバーを静かに地面へ下ろしたアルス
  ナイトの背後に、ムスフェニクが迫る。
  アルスナイトが振り返り、直前でさっと
  かわされる。
  ムスフェニクが一度、二度と体当たりを
  仕掛けるが、アルスナイトは地面を転が
  るようにかわしていく。
  ムスフェニク、アルスナイトに目を向け
  ながら大きく旋回していく。
  それを追うアルスナイト、太陽光を直視
  し、思わず目を覆う。
  太陽を背にして、ムスフェニクが突進。
  アルスナイト、突き飛ばされ、地面に倒
  れる。
  そこにムスフェニクが乗っかり、嘴で胸
  の鎧を突く。
  胸から火花が散り、衝撃でもがき苦しむ。
     ×    ×    ×
  市長たち、それを見ながら、
市長「あわわわわ…」
佳奈「…彼、自分から攻撃をしてない…」
市長「(右へ振り向き)え?」
隊長「おそらく、親鳥を傷つけずに我々を守
 るため、自らを犠牲にしているのだろう」
市長「どうして…」
隊長「親鳥を傷つければ、孵った雛が生きら
 れなくなる…彼はそれを理解しているんだ…」
  市長、カメラを覗いたまま、顔を上げる。
     ×    ×    ×
  顔に刺さりそうな嘴を避け、持ち上げて
  どうにか抵抗するアルスナイトだが、角
  の光が点滅し、パワーダウン寸前だ。
     ×    ×    ×
  市長、カメラを下げ、
市長「……よし! 私にいい考えがある!」
  隊長と佳奈、振り向く。

□坂浜市中心部・市庁舎
  背後にあるヴァルファパークの奥から、
  一本の白煙が青空に曲線を描いて伸びて
  いく。

□同・国連軍特務総監室
  総監、スマホ片手に、ブラインドからそ
  の光景を眺めており、
総監「あの弾道ミサイル、誰が許可したの!?」
オペレーターの声「(電話から)ジェフ市長
 からの要請です! アルスナイトにプレゼ
 ントがしたいと…」
総監「(呆れ顔で)…やってくれたわね、あの
 わがまま市長…」
  首を横に振る。

□坂浜市山間部・梨河谷
  アルスナイトの顔面にムスフェニクの嘴
  が近づいていく。
  ついに手を離してしまい、ムスフェニク
  が頭を大きく仰け反らせるが、
市長の声「おーい! アルスナイトくーん!」
  その大きな音に、思わず振り返る。
  コンテナが載ったトラックのドアから市
  長が顔を出し、拡声器を持ちながら、
市長「そんなところで倒れてちゃダメだぞー!
 上から荷物が届くから、受け取ってくれー!」
  中に引っ込むと、トラックが発進する。
  ムスフェニクが翼を広げ、トラックに向
  けて走り出すと、アルスナイトが起き上
  がり、空を見上げる。
  空からパラシュートを開いた弾道ミサイ
  ルが降りてくる。
  目の前に着地すると、外装が縦四分割に
  別れて開き、中からグレネードランチャ
  ーと、三日月と星が描かれた青色の球が
  出てくる。
  アルスナイト、それらを手に取ると、
  顔を上げ、頷く。
     ×    ×    ×
  猛スピードで走るビルクツーとトラック
  を、ムスフェニクは羽ばたきながら追い
  かける。
  助手席の窓から拡声器を出したまま、
市長「さぁーマミー! 卵はこっちだよー!」
  ムスフェニク、大きく羽ばたき、空高く
  飛び上がる。
  ビルクツーとトラックが急ブレーキを掛
  け、停止する。
  ムスフェニク、スライディングしながら
  着地し、振り返って甲高く鳴き叫びなが
  ら、トラックに向かって駆け出していく。
     ×    ×    ×
  ガスマスクを着けてトラックの助手席に
  座る市長、運転席でハンドルを握る、ガ
  ス用マスクを装着した隊長の腕を掴み、
市長「き、きたぁ〜っ!」
     ×    ×    ×
  トラックに向かって嘴を向ける。
  そこに駆けつけたアルスナイト、ジャン
  プして、グレネードランチャーを向ける。
  宙返りをしながらムスフェニクに向けて
  青い球を発射し、嘴の近くで破裂する。
  舞い上がる大量の白煙を背にして華麗に
  着地し、口から一息、蒸気を出す。
  ハッと気づき、振り返る。
  ムスフェニクはトラックのキャブに頭を
  乗せてスヤスヤと眠っている。
  すぐ隣でマスクを付けた隊長と佳奈、市
  長が、親指を立てる。
  アルスナイトも親指を立て、口から蒸気
  を出しながら体を振り戻すと、走り出す。
  佳奈も後を追って走り出し、
  市長と隊長も彼女の後ろから追いかける。
  煙が消え、佳奈たちが立ち止まると、ガ
  ズマスクを外し、呆然とする。
  そこにアルスナイトの姿はなく、遥か遠
  くから、国連軍の装甲車やヘリコプター
  が向かってくるのが見える。
     ×    ×    ×
  岩肌の一角に立っている庵、下を見下ろ
  しながら、優しく微笑んでいる。
  ムスフェニクとトラックの周りを、数台
  の国連軍の装甲車やジープなどが取り囲
  んでいる。

□坂浜ビヴロストポート(夕)
  岩山に張り付くように建てられた、空
  港のようなターミナルビルが見える。
  
□同・発着場
  岩壁が金属の板や鉄骨で固められ、さな
  がら地下鉄のトンネルのような『扉』の
  周りには、円柱でできたメタリックな乗
  り物、クラウンがいくつも並んでいる。
  ムスフェニクと卵が、巨大なクラウンの
  中に収容されていく。
  市長とアウィスの隊員たちが、展望デッ
  キの窓越しにそれを見つめており、
市長(N)「…こうして、不死鳥の親子は、我
 々、坂浜市の技術者と、アウィスの勇敢な
 る隊員たち…」
  床のレールと台座の油圧によってクラウ
  ンが『扉』に差し込まれ、
市長(N)「そして、我らが英雄、アルスナイ
 トによって、無事、元の世界に帰すことが
 できました」
  そのままトンネルの中へと吸い込まれて
  いく。

□アウルス基地・司令室
  モニターには、火山地帯で孵化した雛と
  仲睦まじく過ごすムスフェニクのセピア
  調写真が映されており、
市長(N)「彼らの知恵と勇気があってこそ、
 坂浜の平和と異界との友好は、守られ続け
 ているのです…」
  壮大な音楽とともに、『終』の文字が被る。
  庵に佳奈、佑磨に桐人、さらにシバがテ
  ーブルでお菓子を囲みながら、
シバ「いや〜。壮大だったね〜。ちゃんとう
 まいことまとめてるところが、流石は時代
 を築いたプロって感じだね」
佑磨「『彼らの知恵と勇気があってこそ、坂
 浜の平和と異界との友好は、守られ続けて
 いるのです…』か〜っ! いいこと言う!」
桐人「俺たちはこの後が大変だったけどな〜」
佑磨「(項垂れて)なあ〜。言うなよ〜。思
 い出すから〜」
シバ「班長、すごい悲しそうな顔してたな…」
桐人「…ですよね…」
  佳奈、少し嬉しそうな様子の庵を見て、
佳奈「庵隊員、いい顔してる」
庵「(佳奈を見て)え?」
佳奈「自分自身の活躍を見て、嬉しい感じ?」
庵「あ、いや…そうですね…」
  庵、少し俯いて悩むと、佳奈に顔を向け、
庵「本当にいろんな人たちの役に立ててるよ
 うな…そんな実感というか…なんとなく、
 そういうのを感じます…」
佳奈「…そっか…その実感、これからも大事
 にしていくべきだと思うわ」
  佳奈、一度目を閉じ、再び開くと、
佳奈「この仕事で本当に大変なときには、そ
 れが一番、自分自身の力になるからね…」
庵「(小声で)…佳奈…」
  お互いを見つめ、微笑む。
市長の声「いや〜今日も本当に楽しかったね!」
  庵と佳奈、モニターに目を向ける。
  モニターには、市長がスーツ姿で映って
  おり、
市長「さて、今回の動画でアルスナイトがも
 っと好きになったそこのあなたに朗報だ!」
  アルスナイトと異界生物が睨み合う絵に、
  3Dゴーグルを掛けた子供たちが合成され
  たポスターを持ちながら、
市長「今、ヴァルファパークでは、アルスナ
 イトの戦いを間近で体験できるアトラクシ
 ョンが、期間限定でオープンしているぞ!」
  皆が興味深げに観ている一方、庵は驚き
  のあまり、口を開けたまま唖然とし、
市長の声「もちろん! ヴァルファパークで
 しか手に入らないオリジナルグッズも盛り
 だくさん! これは見逃せない!」
シバ「いや〜、流石はショービジネスの王者。
 抜け目ないね〜」
佑磨「アトラクション、どんな感じになって
 んのかな?」
桐人「というかこれ、権利的に大丈夫なのか?」
佳奈「いや、権利っていっても…誰に権利が
 あるの? アルスナイトって…」
  庵、顔を机に伏せ、ため息をつく。
  佳奈たちとシバ、庵を見て、
佳奈「…どうしたの? 今度はそんなため息
 ついて…」
  庵、顔を付けたままモニターに目を向け、
庵「…俺、あの人やっぱ苦手です…」
  またため息をつく。
  佳奈たち、不思議そうに首を捻る。
  モニターの市長、ニコニコ笑顔でピース
  サインをしながら  

                             (END)  (二〇〇字換算七四枚一行) 


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