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【砂糖菓子のように甘い嘘】
その嘘の甘さといったら
自分を守るためではなく、他人のため。大真面目に甘い嘘をつく。そう、砂糖菓子のように、むせ返りそうな甘い嘘。
その嘘はきっと誰かを幸せにしてしまう。それが寂しくて、それが侘しくて
「…ねぇ、プリケリマ?」
ごろん、と地面に寝転がった状態で、ピグミーは呟く。その手には細長い、塔の形をした赤の駒が握られていた。何の前触れもなく、白と黒のチェス版に滑らせるように置く。瑠璃色の瞳が何度か瞬きをして、上目で目の前に座っているムシチョウを見上げると、ピグミーは軽く笑った。腕を動かすごとに、ダボダボのオレンジのパーカーが肘までまくれそうになる。しかし、気にすることなくピグミーはニコニコと笑った。
「何?」
無愛想にムシチョウは返す。久しぶりにチェスをしているというものの、楽しい…とは程遠い無表情で白のポーンを掴む。そして、叩きつけるように、駒を動かすとつまらなさそうにあくびをした。その様子を見ていたピグミーは不満そうに頬を膨らますと、ふと、首をかしげて何かを考えるようなしぐさを見せた。そして、もう一度目を開けると、特有のソプラノ・ヴォイスで言った。
「トランプのほうがよかった?」
「…トランプで私に勝てると?」
うっ、と口ごもると、ピグミーは「そうだねぇ。」と呟き。また勝負に戻る。真剣そのものの顔つきでやるものの、今はピグミーのほうが有利だ。それを分かってか知らないが、プリケリマは淡々と駒を進めていく。
「…チェック。」
カツン、と冷たい駒を動かす音が止まる。恐る恐る、ピグミーは上を見上げる。しかし、そこにはムシチョウの姿はない。驚いて辺りを見回すと、随分、離れた所でトランプをシャッフルしている。呆れ半分の苦笑すると、ピグミーは地面を踏みしめ近づく。そして、第一声を発しようとした。
「…お前さぁ」
それを、アルト・ヴォイスが嗜める様に払った。はた、とピグミーは体を硬直させる。ピグミー…グミミーは不振そうに眉をしかめた。しかし、それを見ようともせず、ムシチョウ、プリケリマは呟く。
「何でさっき、あの時、王手打たなかった?」
さっき?記憶を整理して、それを発掘した。五分くらい前に始めたころ、あっというまに王手はとれた。しかし、それをわざと避けるように、グミミーは駒を動かした。そのことだろうか?苛立ちも、怒りも感じさせない口調でプリケリマは続ける。
「ま、私はチェス弱いし。」
「…そっかぁ。」
不満だったんだ。と、グミミーは呟く。プリケリマはやけに疲れたようにその場に座り込んだ。続けてグミミーも座り込む。柔らかい朝日が空を浮遊し始めた。その柔らかさは、プリケリマの嫌いなものでもあるのにその場で朝日を浴びている。
「…お前さ、嘘。下手。」
アッサリと告げられた真実に、グミミーは笑った。確かに、自分は嘘が下手くそということは自覚している。しかし、単刀直入に言われると笑ってしまう。
「そーだね。僕は嘘が「私は行くよ。」
不意に言葉を途切れさせた。プリケリマは小さく呟いた。「セントミラノスに。」と、もう一度。グミミーは不振そうに首をかしげる。
「…行って来る。」
グミミーは寂しそうに笑った。聞きなれた移動音とともに、ムシチョウの姿は目の前から消える。グミミーはもう一度寂しそうに笑った。
「…怪物の森へ行くんでしょ?」
何時か、プリケリマが血だらけで帰ってきたことがあった。その日、僕も怪物の森へ行こうとして、今日は強敵ばかりだと、知った。その日亡くなったリヴリーもいるらしいと、重々しく、友人のケマリは呟いた。その日、プリケリマはもういなかったんだって、だって
君はあの時 マダラカガだっただろう?
「…ムシチョウに変わるんだもん。」
そう、甘い嘘。プリケリマは甘い嘘を吐く。だから、
「だから…。」
最後の言葉は風に途切れた。風はその言葉をようにして荒々しく吹き荒れた。
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魔法使い☆様へ
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