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【望まれた世界へ 行こう】


 望まれたいと思うのが人の本性で、心理学の前文にそんなことが書いてあったような、無かったような。
 テスト前、だからだろうか廊下を歩く人々も教科書を読んでいる人が多い。正直言って通行の迷惑になるところにボヤボヤ立たれているから歩きにくい。
 その中に見慣れた姿があったような。無かったような。

 上を向いていた目線を下げる、やっぱり知っている人だった。と思いなおすと適当に歩き出してその華奢な肩に手を置いた。


「あ!プリケリマちゃんっ!」

 ニコッ、と微笑ましい笑顔を見せると、そのままニコニコと笑みを浮かべ続けたまま手を振る。ヒラヒラ、と小さい手。焦げ茶色の瞳が光の反射で潤んで見えて、幼げな、無邪気な可愛さを感じれる。水色のTシャツにブルーのジャンバー。全体的に華奢な体格なので、それがぴったりと合っていて可愛らしい。

 とりあえず、ちゃん付けで呼ばれたのは置いといて、下級生がどうして上級生の廊下に居るんだろう。ニコニコ、と微笑む容姿は可愛らしいけれど。

「誰か待ってんの?」

 ひょい、と覗き込むようにして、プリケリマが問う。それに大してふるふるっ、と頭を左右に振ると「違うよ。」とやんわり返された。ウォーム特有…いや、本人の特有だろうか、甘いパウダーのような香りが充満している。懐かしいような香り。えへへ、と声を出して笑うと、コスモスは自分より長身の女の手をとった。

「ねぇ~一緒に帰ろう?」

 ニパッ、とした笑顔は何処と無く日向を感じさせる笑み。そのままクイッ、と手を引っ張る。嗚呼、と生返事を返され苦笑交じりに振り向く。見る者さえ、微笑ましいと感じる笑顔を浮かべ続けて、柔らかな桜色の唇を開いた。

「この頃ね、私「好きな人でも出来た?」

 図星、だろうか。キョトン、とした後に頬がホワッと上気する。どうして分かったの?というように首を傾げられて、溜め息が口から零れる。それと同時に頬の筋肉を緩めた。手を伸ばしてその髪に触れる、サラサラとした感触。勘というのは時に当たる物だ、と実感しながら。そして、一つ一つ、表情が変わっていくのが面白さ、それが君の魅力なんだろう、ケド。

「大切にしなさんな、好きな人なんだから。」

 キョトン、とした顔をした後に、コクリと頷く。そしてまた直ぐに柔らかい微笑を戻した。ニコリと笑った顔がまた独創的で、それでいて可愛くて。「その人に望まれる様な人になりなさんな。」と呟くと、「うん!」と元気の良い返事が返ってきた。直ぐ後に、明るいメロディーの歌が聞こえ始める。素直で従順、と二つの性格が頭に浮かんで来たが、直ぐに掻き消す。望まないと、何時か忘れられてしまうんだろう。何時か。その日が来ないことを、祈って。


 人は生まれながらにして望まれるということを欲する。
それは寂しい、という感情の一つであり、またしてそれは一人で居ると心細いと感じるからだろう。
 何時か、その人に君が望まれるのを、願おう。

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ベルちゃん様へ

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