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【いつになったら終われるの?】


 何処か、遠くへ、終わりのない世界へ。

ピチリ、ピチリ、と小鳥が鳴いた。声の元を辿って頭上を見上げれば鮮やかな、とは言い難い鳥が一匹、保護色とでも言えばいいのか。時折首を傾げて愛嬌を振りまく姿にやけに嫌気が差して、あっちへ行け。とでも言うように睨み付けた。ピチ、と驚いたような声を発すると、その小鳥は樹木の上に引っ込んでいってしまった。

 しばらくそのまま頭上を見上げて、鳥が出てこないのを確認すると鬱葱と存在する木の向こうに目を凝らす。その姿が見えたのは一瞬。思考回路が脳に行く前に、体が動く。その瞬間鳴いたのは先の鳥だったんだろうか。ピチ、と語尾を上げる様な鳴き方はまるで何かを問いかけているかのようで。


 煙草の煙を吐き出して、吸殻を地面に落とし靴で踏みつけた。その造作も無い様子の一つですら、隙を見せない。時折、不機嫌そうに漆黒の目を細めると、樹木の間に目を凝らすようにして遠くを見つめているのは長身のヴォルグ族だった。

 遠くを見つめたその瞬間、はたと動きを止めて木立の僅かな隙間を見つめるような形で静止する、明らかに万緑の色と違う、反対色ではないのに目立つ色を見つけた。白。それと、見えたのは紫。その瞬間、空気が震えるような揺れを感じたのは一瞬だけ。
 はぁ、と溜め息を吐いて無造作に背中に背負っていた大剣を意図も簡単に抜き、そのまま目の前に構える。――視線、もう一度木立の間を見ると、その白い影は無かった。それは、もう既に動いていると認識して良いほどの簡素な戦の始まりを告げたに過ぎないが、その白い影は笑っていたような気がする。

 突如、大剣を前に突き出す様な動きをした瞬間、金属が何かを遮るかの様な音が響いた。ニヤ、と口元だけに笑みを浮かべると、受け止めた薙刀を弾き飛ばす要素で突き放した。パンプスが地面を擦る音と、弾き飛ばされたせいか、耳に心地よいほどの金属音が響いた。

「…気付いてたの?」

 ボソ、と目の前のムシチョウが首を傾げた。弾かれた薙刀を肩に立掛け、トントンと何度か肩を叩いている。ふん、と鼻で笑うと漆黒の吊り目をさらに細めて紺色ヴォルグ族の男は言葉を紡いだ。

「最初からな。」

「…そう。」

 素っ気無いにも程がある返事を返すと、よっぽど興味がなさそうに紫の目が細まる。この現状を見て楽しんでいるのか、詰まらないのか、首を傾げた状態のムシチョウは薙刀の反り返った刃の部分に映った姿を見ながら、微笑んだ。

「ゲームは面白くなくっちゃ、ね?狼月さん。」

 避けて正解だったのか、不正解だったのか。名前を呼ばれて眉を寄せると、今の言葉の意味を頭の中で整理、しようと思ったのだが。

「伸びろ。」

 何時の間にやら相手の肩辺りでリズム良く揺れていた銀の刃が目の前でまたもや弾かれる。チッ、と舌打ちが聞こえたのに対し、自分は地面を強く蹴る。伸びた状態の薙刀の柄の部分に沿って接近するものの、すぐ横で素早く薙刀が元の長さに戻っていく。その前に、と大剣を横殴りに振るが、跳躍した様子が見えた。宙で一回転、着地と同時に首だけ振り返ってムシチョウ族の女は笑った。

「               ?」

 終わるはずの無い、お互い加減を咥えた遊び。最初から分かってた?

そんな事を目で言われた気がして、キッ、と睨みを利かせて相手を見ようとするも、もう其処には白い影は無い。先ほどの彼女の吐いた言葉だけが耳に残された。

"終わらせる物なら終わらせてみな?"
 嗚呼、そういうことか、わざと終わらせないように。
ふう、と溜め息を吐いて空を見上げた。まだ、日は高い。
 


 ピチリ、と一声小鳥が鳴いた。木立の上の、そのまた上で、先ほど睨んだのがそうとう響いているのだろうか、姿は見せないまま。トン、と薙刀を片手に持って、頭上高くをもう一度見つめる。保護色の中で動いた保護色。見ていて笑ってしまうほど可笑しい光景。その光景をもうちょっと味わいたかったが。コツコツ、と後ろで靴音が響いた。思ったより早い。
 振り返るような真似はしなかった。わざと。さて、後どれだけこの戦闘が楽しめるだろう。ピチリ、ともう一度小鳥が鳴いた。その鳴き方はまるで何かを問いかけるようで。

"いつになったら終われるの?"

そう、聞かれた気がした。ふ、と笑ってわざと聞こえるように、多少声を落として呟いた。

「終わらすつもりなんて、無い。」


 もうちょっと楽しんでから終わっても良いでしょ?久し振りに本気なんだから。

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