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【パープルヴォイス】

 ヴァイオレット。ワインレッド。貴方はどちらがお好き?大人色気たっぷりワインレッド。まだ茶目っ気たっぷりヴァイオレット。
 ヴァイオレット、ワインレッド。貴方はどちらの【お声】が好き?姉御肌、きびきびした凛と響くワインレッドヴォイス。人をからかっている様に響くヴァイオレットヴォイス。

     ね ? ど っ ち が 好 き っ て ば 



 和むというより、むしろ微笑むというほうが正しいのだろう。この状況は。甘い焼き菓子とストレートのストロベリーティーの香り。絶妙に噛み合っている香りの中で、そのスナイロユンクはフッと視線を和ませた。いや、微笑ませた。
 紅色の目がすう、と細まる。長いボルドーの髪が紅茶の香りを運ぶ風に揺れた。ほんのりと彩るような花々の香りも優雅で気品溢れている。と、自分の中で頷くと、自分の目の前においてあるティーカップに手を伸ばして口元に運ぶ。…が、途中でピッタリと動きを止めると、自分の目の前で首を傾げるような状態で石化しているように動かないムシチョウを見つめた。軽く首を傾げると、そのスナイロユンクは口を開いた。

「…飲まないのか?」

 その声に、起こされたとでも言わんような表情を浮かべると、目の前のムシチョウは自分の目を擦り、自分の目の前のまだ暖かな紅茶を見つめた。程よく真紅の紅茶と焼き菓子。ティーパーティーにも出しても可笑しくないほどの準備の整ったテラス。そして平和な午後のお茶会…夢のようなセット。しかし、ムシチョウは眠たそうに目を細めると、何とか自分の目の前の紅茶を手に取った。

「…昨夜あんまり寝てないだろう。」

 ボソッ、と核心を突くように呟くとスナイロユンクは「違うか?」というような目線でムシチョウを見つめた。その質問には「昨夜は何をしていた?」という質問文もさりげなく隠されていた。ん、と一回頷くと、ムシチョウはボオッとした声で呟いた。

「…セントミラノスに居た…寝るのが遅いなんてもんじゃなくて、寝てない。」

 爆 弾 発 言 。クイッ、
と形の整った眉を吊り上げると、スナイロユンクは呆れた、とでも言うかのように深い溜め息をついた。スナイロユンク、ロルフはやれやれ、というように首を振ると、真正面からムシチョウのボンヤリした顔を見つめた。…クマがあるじゃないか。

「プリケリマ…もう、今日は家に帰って寝た方が」

「いや。今日は付き合う。」

 言葉を思い切り遮られた。フゥッ、ともう一度溜め息をつく。目の前で小さな焼き菓子を弾いて遊んでいるプリケリマはまだ幼いというか、なんと言うか…茶目っ気、があるというか…自分の中で思って苦笑してしまう。いや、本当幼い。

「…ロルフ。食べ終わったら何処行くの。」

 ロルフの家行きたいなー。と、笑いながら呟く声は見事に眠気が吹っ飛んでいる。その声はまるで人をからかっているかのような響きが含まれていた。やんわり、と笑みを浮かべると、ロルフはグッ、と伸びをする。暖かい日差し。…今日は自分の家でのんびりというのも良いかもしれない。
 颯爽と立ち上がると、プリケリマもつられた様に立ち上がる。そして前を行くロルフに向かってからかうような声をかけた。

「ね?何処行くの?」

 茶目っ気たっぷりヴァイオレットヴォイス。自分で思って苦笑してしまった。軽く振り返り、ロルフはやんわりと返答する。


「私の家。」

 大人色気たっぷりワインレッドヴォイス。プリケリマは自分で思って苦笑した。ふっ、と空を見上げてしてやったり、と微笑むと今日は楽しいことになりそうな。と、笑った。


 ヴァイオレット。ワインレッド。貴方はどちらがお好き?大人色気たっぷりワインレッド。まだ茶目っ気たっぷりヴァイオレット。

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