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【眠りにつく前のティーパーティー】

 眠りにつく前に、子供のころは何を考えて寝ていたのだろう。
明日、何をして遊ぼう?明日は、今日みたいに雨が降らないだろうか、明日は、幸せ?
素朴な疑問も、子供らしからぬ無邪気さのかけた疑問を頭に浮かべながらも、やがては静かに眠りに堕ちて行くのだろう。
 眠りにつく前に、大人になった人は何を考えて寝ていたのだろう。
明日、どうやって行こう?明日は、今日みたいに当たり前の日常だろうか?明日は、笑顔でお疲れ様、と言えるだろうか。

どっちにしたって考え事をしていると眠れないとは思うけどね。



 淡くクリーム色の光を発光している、満月が頭上に見える。見方によっては違う色に発光しているようにも見えるのだが、それはそれで神秘的なんだろう。あぁ、女は満月を見てはいけないんだった。
 ふう、と溜め息なのか煙を吐き出したのか分からないような吐息を漏らすと、自分の周りが煙草匂いと、シナモンクッキーの粉っぽい甘い香りで満たされる。良い香りなのか、悪い香りなのか自分では良く分からない。目の前に座っているラヴォクスの表情でさえ、「キョトン」としているので良く分からないが。

「…プリケリマさん?」

 おずおず、と言った様子で口を開くと、澄んだ黄緑色の瞳を瞬かせる。数秒の沈黙の後、「んー?」とやけに間延びした返答が帰ってきた。その返答に、はあ、と溜め息を吐くと、目元をゴシゴシと擦る。眠いのだろうか、 見方によっては女の子に見える、栗色の髪も、まん丸の宝石のような瞳も、色白の肌も。触れれば、壊れてしまいそうな清純な可愛さ、と言うのだろう。

「オルグ…さんだっけ。このディープパイ美味いよ。うん。」

 つい、と灰色に近いブルーアイが、言った本人、姫冠を一瞥してから、左手に持たれているディープパイに移った。離れていても漂う甘い香り、レモンアップルのディープパイを口に放り込むようにして食べ終えると、にしし、と悪戯っぽく笑った。ふっ、と視線を和ませると、オルグと呼ばれたスナイロユンクは会釈を返す。眼帯をつけていて見えない瞳に、黒みがかった紅の瞳。短髪のヘアスタイルがサラリ、と揺れるごとに煙草だか、甘い香りだか、普段なら嗅いだ事が無いような香りが漂っている。

「…お茶菓子足りなかったから。ありがとね。」

 するり、と視線を細めるだけの微笑を浮かべると、プリケリマもオルグに視線を移す。視線を移された本人は、その視線を柔らかく受け止める。肩まで伸ばされた黒似の茶髪、着飾らずに、白Yシャツに黒いズボン、左手の黒の手袋。真面目で、温厚な性格のせいか、着崩すことはなくしっかりと着こなしている。「お茶取って」と姫冠が呟くと、アサルトが手を伸ばし、ティーポットを掴む。そのまま両手で渡すようにして差し出すと、ニコッ、と子犬のような無邪気な笑みで微笑む。

「…そんな風に笑われると押し倒すよ?」

 おちょくっただけなのだけど、本人は意味が通じたか通じなかったのか「キョトン」とした視線で首を傾げた。その最中に「ハーブティーにして。それカフェイン強いから。」と、プリケリマの声が聞こえたが、気にすることなく惜しみなくティーポットに注ぐ。香りの強いセイロンティーがティーカップの中で小さく跳ねる。

「オルグって睫毛長いね。」

 ポツリ、と呟かれた言葉に、目を瞬かせる。目を伏せると影になる程、優美な目に見えるのも当たり前か、と言った本人は飄々と紅茶を口に運ぶ。

「そうか?そうでも無いと思うが?」

 数秒後に帰ってきた言葉、やんわり、と言いのけられるがその言葉にすら気品を感じる。とん、とカップを置くともう一度オルグの顔を見つめる。整った顔立ちに、ハーフのような感覚も漂わせる。はぁ、と溜め息を吐いてにこり、とプリケリマは笑った。

「真面目な所もアピールポイントだよね。」

 は?アピール?などと疑問のアンサーが帰ってきたが紅茶を飲みたかったので手を伸ばす。質問は終わり、ということだ。嗚呼、明日の朝は早いかな。突如アサルトが時計を取り出す、ひょい、とそれを姫冠が覗き込むと、「おや、もう丑三つ時か。」と、ホラーチックな言葉が返ってきた。

「…お茶会に丑三つ時?」

「わざとだよ。」

 …ホラーチックな答えだこと、実感しながら最後はハーブティーでも飲もうか、と思って席を立つ。一番奥の薄緑のティーポットの中身はまだ満たされていた。四人で十分飲めるほどだろう。くるり、と振り向いて「そろそろお開き。」と言い放つと素直に同意を言う声と、明らかに不満げな声を上げると、元気良く、しかし何処と無く残念そうに返事を言う声が聞こえた。

「ハーブティー飲むと、良く眠れるらしいよ。」


 また明日、会おうね?という意味を込めて。


 眠れないの?


…ハーブティーでもいかが?

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